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466 遺志を継ぐ者



 夜半となり、ようやくフランはギルドに戻ってきていた。


 フランはもう少し頑張るつもりだったんだが、宮廷医師から休むように懇願されたのだ。


 緊急の患者は取りあえず癒し終わり、フラン以外の人たちだけでも救護所が回るようになっている。確かにもうフランが無理をしなくてはいけない時間は過ぎただろう。


 だが、ギルドに入ろうとしたフランの前に、3人の男が立ちはだかっていた。


 ガタイのわりには気配の消し方もなっていない雑魚がいるなーと思っていたんだが、フランに用事があったらしい。


「おい! お前が黒猫族の癒し手だな!」

「?」


 真ん中にいた小太りの男が、尊大な態度で話しかけてきた。


「回復魔術を使い、平民どもを癒しているのだろう?」

「ん」

「喜べ。貴様を我が男爵家に家臣として迎え入れてやろう! その力、今後は我がためだけに使うがいい!」


 勧誘か。いや、勧誘か? こいつの態度で「家臣になります!」って言う奴はいないと思うが。まあ、少なくとも善良な貴族って感じではなさそうだ。


「今は平民を無料で治療させられているそうではないか! 我が元に来れば、今後はそのようなことはないぞ! 貴族や商人相手に商売をすればいいからな」

「どういうこと?」

「我が指示した相手だけに癒しの力を使えばよいということだ! 強力な癒しの魔術の恩恵に与りたい者は多い。いくらでも値を釣り上げられよう。我が家の伝手を使えば、商売相手には事欠かんぞ。ああ、心配するな貴様にも十分な見返りは約束してやる」

「じゃあ、お金を払えない人は?」

「貧乏人など知ったことか。治療代も払えぬ者が多少死んだところで税収にも影響はあるまい!」


 あー、スゲー馬鹿。何が馬鹿って、フランを金で釣ろうとしたところだ。きちんと情報収集していれば、フランが患者さんからのお礼を自ら断っていることも分かっただろうに。


 もっと言えば、勧誘なのか命令なのか分からない尊大な態度の時点で、典型的な馬鹿貴族だと分かるが。後の護衛たちまでもが呆れた顔をしているのが分かる。


「お主も今日のような無駄な働きをしたくはあるまい?」

「……」


 フランは静かに怒っているな。多少上から目線で勧誘されるくらいなら、無視して行っていただろう。疲れているし、話をしていて楽しい相手でもない。


 だが、弱者を切り捨てるような発言をしたこいつに、フランは激怒していた。


(……殺す)

『まて! まてまて! 気持ちは分かるが殺すのはマズい!』

(みんなを助けたのが無駄って言ってる。みんな、凄い喜んでた。これで、自分も他の人を助けられるって……。それを!)


 あー、けっこうヤバいな。フランの怒りがそれなりに大きい。自分が大事にしている色々な物を汚された気がしているんだろう。


 このままだとマジで斬りかねない。仕方ない、ここは俺の念動で――。


「おい」

「む? コルベルト?」

「そこのお貴族さん。その少女は現在ベイルリーズ伯爵に雇われている。勧誘するにしても、伯爵を通してもらわなくちゃ困るな?」


 そういえば、まだ契約解消ということにはなっていないな。形式上、確かにフランは伯爵家に雇われている形になっているだろう。


 こんな事態になってしまって、侯爵家のガサ入れどころじゃなくなってしまったが。


「なに? ベイルリーズだと……?」

「そうだ」

「は、はは。どうせ此度の責を取らされるに決まっておるわ!」

「じゃあ、無理にでもその少女を勧誘しますかね? 伯爵家を無視して?」

「う……」


 男爵とその護衛が目に見えて狼狽した。どう見ても無能な男爵と、今後どうなるか分からないもののこの国の武門の一角を担っていた伯爵家。どう考えても勝負にならないだろう。


 男爵が護衛2人をチラ見すると、男たちは青い顔で首をブンブンと横に振った。力ずくでは勝てないと分かっているらしい。


 この程度のやつらにコルベルトの実力を見抜けるとは思えないし、多分最初からコルベルトのことを知っていたのだろう。


 結局、男爵はすごすごと逃げ帰り、この場でフランに斬られずに済んだのだった。


「ちょうどいいタイミングだったな」

「……ん」

「どうした? 不満そうだな?」

「あいつ逃がした」

「おいおい、これからあんな奴がいくらでも湧いて出てくるぞ。そいつら全部叩きのめしてたら、あっと言う間に指名手配だ。無視しとけ」


 そうそう。もっと言ってやって。


「おっと、俺も用事があるんだ。伯爵から伝言だ。今回のことは色々と済まなかった。契約はこの時点で完了したことにする。ただ、他の貴族からの勧誘を断る際に、ベイルリーズ家の名を出しても構わない。だそうだ」


 それは有り難い。王都にいる間の虫除けにはなりそうだ。まあ、ベイルリーズ伯爵家が取り潰しになったりしたら効果を無くしてしまうだろうが。


「じゃあ、いくぜ? 俺みたいなもんでもできる仕事がまだまだ残っているからな」

「ん」

「……カレー師匠は、残念だったな」

「?」


 あ、そういえばまだ誤解を解いていなかった。コルベルトは俺がベルメリアと戦い、死んだと思っているはずだ。


「惜しい人を亡くした……」

『フラン、コルベルトは俺が死んだって勘違いしてるんだ。誤解を解いてくれ』

「師匠は死んでないよ」


 フランがそう言うと、コルベルトが一瞬疑問符を浮かべ、そしてすぐに何かを悟った顔で頷く。


「ああ、そうだな」

「ん」

「遺志を受け継ぐ者がいる限り、その人は死なねーよな」


 あ、全然誤解解けてないや。


 だが、フランに再度訂正してもらう前に、コルベルトは去って行ってしまった。


「……コルベルト変な顔」

『次会ったときこそ、ちゃんと伝えような』



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