460 協力攻撃
俺の柄を掴んだフォールンドが、目眩を起こしたかのように軽くよろめいた。
装備してないのになんでだ!
「く……」
『だ、大丈夫か?』
(情報量が少々多かっただけだ……。今は、攻撃に集中しよう)
『あ、ああ』
よかった。神の呪いが降りかかったわけじゃなかった。何が見えたのだろうか? 戦いが終わり、互いが生き残っていたら聞くとしよう。
すぐに体勢を立て直したフォールンドは、俺を正眼に構える。そのままフォールンドの魔力が刀身を包みこむと、俺の体がその手を離れてゆっくりと宙に浮いた。
他人に念動を使われるとこうなるのか。不思議な感じだ。
フォールンドは右手をグッと引き、掌底打ちを繰り出すような体勢を取る。俺はその手の平の延長上に浮いている状態だ。左手は逆に前に突き出され、俺を真っすぐ安定させるかのように刀身に添えられている。
俺も形態変形スキルで、より空気抵抗の少ない円錐状に変形した。切先に全ての力を籠めるつもりである。
「準備完了」
『おう』
なんか、俺までフォールンドに釣られて口数が少なくなっているぞ。だが、心は通じ合っている気がする。これも剣神の寵愛の能力なのかね? 剣と通じ合うとか、そんな能力が備わっていてもおかしくはなさそうだ。
赤みを増すアースラースのオーラを見つめながら、俺は焦りを押えてベルメリアを観察し続けた。
『まだ……まだだ……』
「……」
力を極限まで溜め込んだ今の状態は、凄まじい負荷がかかるのだろう。額の血管がはちきれんばかりに膨らみ、両腕が軋む音がする。だが、歯を食いしばって痛みに耐えていた。こんなところも、フランと似ているんだな。
そうやって機を窺っていると、ついにその瞬間がやってくる。
アースラースの攻撃によって、ベルメリアが大地に叩きつけられた。即座に起き上がったが、超重力でその場に繋ぎ止められている。
『……今だっ!』
「行くぞ師匠!」
俺が叫んだ瞬間、フォールンドの魔力が一気に高まり、爆発した。俺がフォールンドの掌中から超高速で撃ち出される。
『うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!』
俺はディメンジョン・ゲートをベルメリアの上空に開いた。真上ではないのは、加速するための距離が必要だからだ。
火炎魔術、風魔術、雷鳴魔術、時空魔術にある、自身や物体を加速させるための魔術を同時発動した。操炎、操風スキルによって少しでも効果を高める。
さらに対象を大地に引き寄せるグラビティ・プレッシャーを自身に使用した。少しでも速度と威力を増すために。
攻撃力を高めることも怠らない。重力超加、振動牙に加え、闇と光の属性剣を同時に使っておいた。闇は相手の精神を攻撃することから、少しでも共食いの発動率を上げるために選択した。
光については、賭けだ。ベルメリアが基本4属性や複合属性に対して高い耐性を有していることは見ていれば分かる。ならば、レア属性である光であればまだマシであると考えたのだ。
これだけではない、ファナティクスの使っていた魔力放出による急加速も真似させてもらった。
他者の操る念動に押し出されつつ、瞬間的に制御力限界ギリギリのスキル多重起動であり得ない程の加速力を得る。普通なら制御を失って明後日の方向に吹っ飛んでいくだろうが、念動のレール――いや、この場合はパイプとか砲身と言った方がいいかもしれない。
とにかく念動の導きにより、俺は真っすぐに突き進んだ。
魔術とスキルを同時使用したことで発生した凄まじい反動が、俺の耐久値を一気に削っていく。だが、これくらいは想定の内だ。フォールンドも命を懸けているんだ、俺も全てを賭けなくては!
『らあぁぁぁぁ!』
ベルメリアの目が俺を見ている。明らかに反応している。しかし、迎撃はできない。彼女の前にはフォールンドがいた。
俺を撃ち出すと同時に、俺がもう一つ開いておいたディメンジョン・ゲートを潜り、ベルメリアに襲いかかったのだ。突如上空に出現した俺に反応できてしまったが故に、さらに裏をかいて現れたフォールンドへの対応がほんの一瞬遅れてしまう。
その隙を逃さず、フォールンドはベルメリアの動きを封じることに成功していた。フォールンドはその手に持ったソードブレイカーで、ファナティクスをガッチリ固定している。
勿論、フォールンドのみの力であれば簡単に振りほどかれてしまうだろう。しかし、彼女を大地に繋ぎ止めているのはアースラースの超重力だ。その頸木を一瞬で振り払うのは無理だった。
全てを捨てる覚悟で挑みかかったフォールンドを、その状態で振り払うことはベルメリアにもできない。
「ガァァ!」
「逃がさん!」
『おああぁぁぁぁ!』
そして、超高速の弾丸と化した俺が、フォールンドの腕や魔剣ごと、ファナティクスを貫いた。魔狼の咢のおかげだろう。あれだけの防御力を誇っていたファナティクスが、見事に砕け散る。
俺の一撃をもろに食らい、フォールンドが大量の血を撒き散らしながら吹き飛んだ。それでも交差する瞬間、フォールンドは確かに微笑んでいた。
しかし、彼を気遣う余裕は俺にはない。
『ぎいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ――!』
それは俺のモノなのか、ファナティクスのモノなのか、それとも両者の悲鳴が合わさった物のなのか。
俺の中に流れ込んでくる凄まじい魔力の奔流に、俺は知らず知らず絶叫を上げていた。




