459 フォールンドと作戦立案
俺はフォールンドの下に転移した。
「むっ?」
『おっと、驚かないでくれ――と言っても無理かな? 俺が師匠。インテリジェンス・ウェポンだ』
「……そうか」
『え? ああ……』
「うむ」
それだけ? 納得が早過ぎない? 「驚かないでくれよ」とかドヤ顔で言った自分が恥ずかしい!
『も、もしかして、俺以外にインテリジェンス・ウェポンを知ってるのか?』
「いや」
『あ、そうですか……』
それにしても、念話の時と口数が違いすぎやしないか?
『あー、念話で接続している時は、心の声で会話ができるぞ。あんたはそっちの方がいいんじゃないか?』
(そうか? ならばそれでもかまわないが)
『無口ってみんなに言われるだろう?』
(言われることも多いが、みんなというほどではない)
ああ、怖くて指摘できない人もいるのかもしれないな。まあ、協力してくれるならいいや。そして、俺は自分の作戦をフォールンドに伝えた。
やることは単純だ。フォールンドの能力と、俺の魔術やスキルで加速。ディメンジョン・ゲートで奇襲を試みる。狙うのはベルメリアの装備するファナティクスだ。
破壊できればベストだが、狙っているのは共食いによる弱体化だ。殺した相手の能力の一部を吸収するというスキルだが、ファナティクス相手ではその限りではない。というよりも、破壊することで一部を殺していると言うべきだろうか。
どうやらファナティクスの人格は集合意識のようなものであるらしい。奴の言動と、斬った相手の精神や記憶を奪って自らに統合するという能力からもそれは確実だろう。
そして、俺の攻撃で精神の一部を傷付けると集合意識の一部が死んで、共食いによって俺に吸収されるのだ。疑似狂信剣やファナティクス本体を完全破壊できなくとも共食いが発動していることから、これは間違いないはずだ。
であれば俺の攻撃で痛撃を与えることでファナティクスの能力を弱体化させ、アースラースの援護をすることができるだろう。上手くいけば、ファナティクスの自滅を大幅に早められるかもしれない。
問題は俺が耐えられるかどうかだろう。だが、こうなってはやるしかない。俺がファナティクスに確実にダメージを与えられる方法は共食いしかないのだ。
本当はアースラースに作戦を伝えて協力してもらえれば話は早いんだが、念話を届けるにはもっと近づく必要があった。だが、これ以上接近したら、ベルメリアにも気づかれる。その危険は冒せなかった。
『問題は、そもそもダメージを与えられるかだ。アースラースの超攻撃を食らって破壊されていない相手だからな。ノーダメージじゃ、共食いも発動しない』
(では――ならどうだ?)
『でもそれじゃぁ――』
(だが――)
『だって――』
そして、互いの意見を参考に、俺たちは乾坤一擲の作戦を立てる。
(これならば可能性はあるだろう)
『本当にいいんだな?』
(構わない。俺一人の犠牲で奴を倒せるのであれば、望むところだ)
『……お前を犠牲にするつもりはないが、手加減もしないからな?』
(当然だ。俺のことは気にしないでいい)
正直、フォールンドの負担は大きいが、俺の立てた作戦そのままよりは光明が見える。
『あと、1つ忠告だ。俺をフラン以外が装備すると、そいつが死ぬ。これはマジだ。手に持つだけなら問題ないがな』
(ほう? 了解した。気を付けるとしよう)
『……いいのか?』
(何がだ?)
『いや、持つだけでも怖くないのか?』
(装備しなければ関係ないのだろう? 何の問題がある?)
さすがランクA冒険者。凄い胆力だ。頼もしいぞ。
(俺も1つ忠告がある)
『え? なんだ?』
(俺には魔剣を解析し、複製する能力がある。師匠の場合は一見しただけで複製は無理だと分かったが……。解析はある程度可能だろう。これは自動で行われるため、俺にもどうしようもない。場合によっては、師匠の秘密のようなものが俺に知られるかもしれん)
『なるほど』
だが、フォールンドに剣神の寵愛がある以上、それは覚悟していた。むしろ複製されないだけでも御の字だろう。勝利の確率を少しでも高めるため、フォールンドの力を借りないという選択肢はないからな。
『あー、何か分かっても、黙っていてもらえるとありがたい』
「無論」
虚言の理を使っていないのに、フォールンドの言葉は信じられる。なんだろうね? 裏表のない男だからだろうか?
『狙いはアースラースがベルメリアの動きを止めた瞬間だ』
(ああ。一撃に全力を注ごう)
『頼む』
(それはこちらのセリフだ。あの少女を止めてくれ)
『まかせろ。俺も全てを賭ける』
「うむ」
まずフォールンドは、10振り程の魔剣を新たに生み出した。見えざる狙撃手の魔剣という、遠距離攻撃精度が上昇する狙撃が付与された魔剣に始まり、念動を使えるようになる魔剣や、風を操る能力のある魔剣たちだ。
剣神の寵愛スキルのおかげで、魔剣を手に持たずとも生み出しただけでその能力を使用可能になるらしい。現在所持している魔剣たちを自分の周囲の地面に突き立てている。
最後にフォールンドが生み出したのは、刃渡りは短いものの一際強力な存在感を放つ魔剣だった。背の部分に獣の牙のような突起が並んだ、漆黒のソードブレイカーである。
自身が廃棄神剣だと知っていなければ、ライバル心を抱いたかもしれない。それくらい凶悪な雰囲気を放っている。
『それが、奥の手か?』
(ああ。銘は『魔狼の咢』。全てを喰らう魔狼、フェンリルの牙を削って作られたという一級の魔剣だ)
『フェンリル……』
まじか? そう聞くと、凄まじくその魔剣に親近感がわいた。この剣が気になってしょうがない。俺の中には本当にフェンリルがいるのだろうか?
(どうした?)
『ああ、いや、なんでもない』
(そうか? この魔剣の能力は2つ。1つは触れた相手の障壁を弱める能力。もう1つは接触している武具の耐久値を吸収し、脆くするという能力だ。逆に、この魔剣はドンドンと強化されていく)
えげつないな。ただでさえ強力なソードブレイカーにその2つの能力があれば、鬼に金棒だろう。
『確かにそれがあれば……』
(まさかファナティクスだとは思わなかったが、あの剣に対しても、有効なはずだ。どこまでアレの耐久値を削れるかは分からないがな)
『それでも、希望が見えてきたよ』
「ならば」
『ああ。いこう』




