458 フォールンドとの会話
『アースラースが暴走する前に、なんとか戦いを終わらせないと……』
実は、王都の外に逃げればもしかしたら被害は出ないかもしれないと思っていたんだが……。超越者同士の戦いを見た後では、俺の希望的観測など吹き飛んでいた。
絶対に暴走させるわけにはいかない。アースラースが暴走して、被害が王都内だけで済むはずがなかった。
『アースラースの援護をするべきか……』
だが2人の戦いを見ていて分かったが、ともに防御力、生命力が突き抜け過ぎていて、多少の攻撃では命を奪うことはできない。
なんとか俺が隙を作れたとして、それでアースラースがベルメリアを倒せるかどうかは分からなかった。
『となると狙うのは――ファナティクスか』
ベルメリアの持つ、折れた魔剣。間違いなくあれがファナティクスの本体だろう。見た瞬間に、分かった。
あれは神剣だ。鑑定などするまでもない。俺の中にいるアナウンスさんが密かに囁いているのだろうか?
ファナティクスは遠目からでも異様な、それこそ解放状態のガイアと比べても負けない程の存在感を放っていた。
『あれをどうにかすれば……』
そうやって考えていると、あることに気づいた。ファナティクスが短くなっている。俺が2人の激戦を観察し始めてからのわずかな間で、ファナティクスの刀身が短くなっていた。
よく見ると、風化するかのように刀身がサラサラと崩れていくのが見える。神剣開放の反動に違いない。反動の強力なスキルの影響を受ける事の多い俺だからこそ、そう確信することができた。
俺が手を下す必要はないか? あの勢いで崩壊が進めば、そう遠くない内に自滅するだろう。だが、その前にアースラースの暴走が始まる可能性も……。いや、希望的観測に賭けるのは危険すぎる。
『やはり、危険は承知で割り込むしかないか』
以前ガイアを見たことがなければ、きっと神剣同士の戦いにブルッて震える事しかできなかっただろうな。格上の神剣同士の戦いと言うのは、それほどの畏怖を俺に与えている。
『だが、それでも――』
どうにかしなければ。
『とはいえ、どうすりゃいい?』
無策であの戦いには割って入れない。
渾身の一撃でなければダメージを期待できない以上、研ぎ澄ました一撃を完璧なタイミングで入れるしかないだろう。
潜在能力解放は使えない。今の俺では耐えられないからな。
やはり転移から念動カタパルト? いや、駄目だ。強敵相手では転移を察知される可能性も高い。実際、過去に戦ったランクAクラスの相手には回避されることもあった。ベルメリアも当然反応すると考えるべきだ。
ここでフランがいない弊害が出た。俺が転移して、フランが狙いを付けて、俺たち2人で攻撃。そうやって役割を分担できるからこそ隙を最小にできていたのだ。
『なら、念動で相手を捕まえるか?』
一瞬でもよいから念動で相手の動きを封じることが出来れば、攻撃を当てることができるかもしれない。同時に念動を道標というか、レールのように使えば攻撃を外す可能性はさらに低くなるはずだ。だが、それでは念動カタパルトが使えなくなってしまう。
『いや、魔術を併用すれば――うん?』
悩んでいると、やや離れた場所で人の気配を感じた。隠密スキルを使っているようだが、近くに落下した巨大な瓦礫をかわすために、一瞬だけ隠密が揺らいだのだろう。場所的には、俺から20メートル程離れた瓦礫の物陰である。
気配の主はフォールンドであった。こんなに近くにいるとは思わなかったぜ。すぐに隠密スキルを正常化させたようだが、一度でも捕捉した俺にはその気配を感じ取ることができた。
それにしても、以前鑑定した時にフォールンドには隠密系のスキルが殆どなかったはずなんだが……。今の隠形はかなり様になっている。上位の斥候と比べても劣らないだろう。
だが、すぐにその理由が判明した。現在フォールンドが右手に装備している剣だ。フォールンドがエクストラスキルである剣神の寵愛で生み出した魔剣だろう。装備者に隠形スキルを付与する能力があるようだ。さらに左手の魔剣も同系統の隠密能力がある。
これって、よくよく考えたら凄まじいな。局面局面で最適な能力を持った魔剣を生み出すことで、どんな場面にも対応可能だろう。しかもフォールンドは同時に100本以上の剣を生み出せるんだぞ? それって、いきなりスキルが100個増えるようなものだろう。
敵からしたらたまった物じゃない。まあ、俺とフランのスキル付け替えも同じようなものだろうが。
ここはフォールンドと共闘すべきか? だが、分体創造はまだ再使用できない以上、俺の正体を明かすことになる。
フォールンドか……。この男になら、俺の正体を明かしてしまっても構わないとは思う。今まで何度も出会ってきたが、悪い印象を感じたことは無かった。戦闘中に関わることが多いので大抵は凄まじい威圧感を纏っており、怖いと思うことは確かにある。だが、フランや俺に対して負の感情を向けられたことは一度としてなかった。
だからこそフランもフォールンドに妙に懐いているのだろう。それほど会話を交わしたことは無いのだが、明らかにフランはフォールンドを気に入っていた。
いや、今は緊急事態だ。迷っている暇はない。共闘することで互いの生存率が上がるのであれば、共闘するべきだった。
『フォールンド……。聞こえるか?』
(む? 何だこの声は? 誰だ?)
『あー、敵じゃない。俺は黒雷姫の師匠だ。念話で話しかけている』
(そうか。信じよう。言葉から悪意は感じない)
なんか、あっさり信じてくれたんだけど。いや、今は無駄な問答をしている暇はないし、有り難いと思っておこう。
『1つ聞きたいことがある』
(なんだ? 何でも聞いてくれ)
『ベルメリア――竜人の少女の方を倒せるような奥の手はあるか?』
これでもしフォールンドに強力な必殺技があるのであれば、協力すればいいと思ったんだが――。
(いや、あれを仕留めきるような攻撃力は、俺にはない。あれは最早、人の領域を超えている)
『そうか』
(そちらにはどうだ?)
『あるにはあるが……。なあ、あの剣を撃ち出すスキル。アレは自分の装備品や、支配下にある剣じゃないと意味がないのか?』
(いや、そんなことはない。元々は俺のスキルで生み出した剣を操るための能力だが、効果は一定範囲内にある剣を操作するというものだからな)
つまり、剣限定の念動のようなものか。ならば、協力できるかもしれない。
フォールンドの射出能力があれば、俺は念動を全て相手の拘束に向けられるだろう。
それにしても、フォールンドってもっと無口な奴じゃなかった? いつも一言くらいしか言葉を発しない男だったはずだ。だが、念話だと普通に会話可能である。普段も単に口下手なだけで、頭の中では色々と考えているのかもな。そう思うと少しだけ親近感がわいた。
『フォールンドの力が必要だ。力を貸してもらえるか?』
(ああ、いいだろう。何をすればいい?)
これも即決だ。頼りになるね。
『まずは合流しよう。俺がそちらに行く、驚かないでくれよ?』
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