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456 現れたランクS

 疑似狂信剣の大爆発によって王都内に大きな被害が出続けている中、俺はフランの気配を探っていた。


 俺たちには魔力の繋がりがあるため、かなり離れていてもその存在を感じ取ることができる。その繋がりを頼りに、俺は長距離転移を使用した。


「だ、誰だい!」


 突然現れた俺に驚いているのは、冒険者ギルドの受付であるステリアだった。現役時代の物なのか、真っ赤な全身鎧を着込んで巨大なメイスを構えている。


 多分、現役の時よりも横に大きくなっているんだろうが、サイズ調整の魔法のおかげで問題なく装備できているようだ。魔法の装備って色々な意味で一生物なんだな。


 どうやら俺は冒険者ギルドに転移してきたらしい。


『俺は黒雷姫フランの師匠だ。敵じゃない!』

「へえ……」


 かなり怪しまれている。とっさに生み出したせいで分体の性能が最低だった。声も出づらいから念話を使うしかないし、フランの師匠と思えない程にステータスも低い。


 さらに俺の分体はメチャクチャ粗末な格好をしている。とっさに人間形態の分体を生み出したため、着衣までは気が回らなかったのだ。そのせいで分体は、奴隷が着せられているような粗末な貫頭衣一枚の姿であった。


 フランの師匠には見えないのだろう。


「小娘の師匠? ふむ……とても人とは思えんが……」


 おっと、エイワースもいたのか。ステリアと違って視線に敵意はない。その代わりその目は実験動物を見る目だけどね。俺の体が普通の人間とは違うことを直感的に理解しているらしい。さすが解剖好きのマッドサイエンティスト。


「全員、都市外へと退避するわ! 急ぎなさい!」

「ガルス師は俺が運ぶ。フランは頼むぜ」

「オン!」


 奥からエリアンテたちが現れた。コルベルトがガルスを背負い、フランはウルシの背に括りつけられていた。


「おお、カレー師匠! 無事だったんですね!」


 コルベルトがこちらに気付いて駆け寄ってくるが、カレー師匠は止めてくれ。ただ、そのおかげでステリアからの疑いの視線が和らいだけど。


『あ、ああ。そっちも無事だったか』

「ええ。でもまだ危機は去っていないわ。このまま王都の外に退避する」


 エリアンテが、エイワースたちがもたらした情報を俺にも教えてくれた。なんとベルメリアが折れた魔剣に操られ、手が付けられないらしい。


 現場にはエイワースに加えフォールンドまでいたそうだが、両者ともに死にかけたそうだ。強かで何を仕出かすか分からないエイワースと、見る度に圧倒的な力を見せつけてくれるフォールンド。


 俺の中でこの2人は戦いたくない相手ランキング上位に位置する。はっきり言って、俺たちよりも格上だろう。負ける光景が想像できない。だがその2人が連携しても、10分もたずに蹴散らされたそうだ。


 結局、フォールンドがベルメリアを追い、エイワースは敵の規模を報告するためにギルドへと戻ってきたという。だがエイワースは、使い魔を利用することでフォールンドと連絡が取れていたらしく、直前までの状況は理解できているそうだ。


「まあ、フォールンドに何かあったらしく、使い魔も滅んでしまったようだがな。それも仕方あるまいが」

『なにがあったんだ?』

「あのベルメリアという竜人の小娘と、ランクS冒険者が戦いを始めた。百剣はそれに巻き込まれたようだ」

『ランクS冒険者? そんなやつがこの国にいたのか?』


 確かジルバード大陸にはデミトリスというランクS冒険者がいたはずだ。コルベルトの師匠で、デミトリス流の開祖という天才格闘家。


 だが、王都に現れたのはデミトリスではないという。


「不動のデミトリスではないな。儂も実物は初めて見たが、小娘と戦い始めたのはなんと同士討ちだ。百剣が間違いないというからには、確定だろう」

『同士討ち! アースラースがここにきているのか!』

「知り合いかの?」

『ああ。それで、ベルメリアと戦っている?』

「そうだな」


 ランクA冒険者2人を軽々と退けるベルメリアと、アースラースが戦闘を繰り広げているというのはかなりマズいんじゃないか? 周辺の被害がシャレにならないだろう。


 まあ、アースラースが来てくれなければ、今頃ベルメリアによって王都が壊滅していただろうが……。


 だが、無視できない問題がある。


『アースラースが……正気でいられるのか?』

「ほう? どういうことだね?」

『詳しくは説明できんが、アースラースは戦闘をすればするほど暴走する危険がある。暴走したアースラースに敵味方なんか関係ない。本当に危険だぞ!』


 いや、そんなことは分かっているか。だからこそエリアンテたちは急いで脱出しようとしている。


 だが、それで助かるか? もしアースラースが暴走したら、王都どころか周辺の被害も馬鹿にならないだろう。あの地下ダンジョンと違って、ここなら一切の制限なく力を振るえるはずだ。エリアンテたちは逃げ切れるのか?


 最善はこのまま全員で脱出し、アースラースがベルメリアを早期に倒して暴走しないことだろう。ベルメリアの命が助かれば最高だ。


 最悪は、ベルメリアとの戦い中にアースラースが暴走。両者の戦いによって王都や人々に大きな被害が出る事。場合によってはフランやエリアンテの命も危険だ。


 どうすればいい? 俺にとって一番簡単なのは、フランだけを連れてウルシとともに王都から今すぐ脱出することだろう。残りの魔力でも、転移を使えばかなり離れられるはずだ。


 しかしフランが目を覚ました時に、エリアンテやガルスたちを見捨てて自分だけが助かったと知ったら……。悲しむだろうし、荒れるだろう。フランは自分を許せないかもしれない。


『となると、ベルメリアをできるだけ早く倒し、アースラースの暴走を防ぐのが最も被害が少なく済む方法だろうな』


 怪物同士の戦いに、フランがいない俺がどこまで割って入れるか……。今の俺は、手数も威力も半減と言っていい。勝るのは隠密性くらいだろうか?


 いや、今回の場合は隠密性が重要か。どうせ正面からどうこうすることなど不可能だ。ならばこっそりと戦場に近づき、ベルメリアに効果的な一撃を叩き込んで、アースラースを援護するのが最善手である。


『分かった。俺が行こう』

「ちょ、いくらあなたでも危険です!」

『大丈夫だ。様子を見るだけだからな。フランを頼んだぞ』

「オン!」


 フランのそばを離れるのは不安だが、仕方ない。


『王城の前だな』


 相変わらず巨大な魔力が感じられる。もうベイルリーズ伯爵たちは退避したそうだが、フォールンドもいるはずだ。何か不測の事態に巻き込まれたようだが、あの男が簡単に死ぬはずがない。


 場合によっては共闘できるかもしれなかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 『真の超越者』コルベルト達には そうとしか観えなかっかた事でしょう。 実態は ・・・ (笑) ・・・
[気になる点] ふと、気がついたのですが、師匠とフランの親子のようなハグが念動を使った不可視のヤツしかない気がします。いや、色々考えてたらアニメで師匠(分体)とフランがハグや、師匠の肩に乗って嬉しそう…
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