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453 Side ベイルリーズ伯爵

 一体、何が起きているというのだろうか。


「ガアアアアアアアアアアアアアア!」

「ぎゃあぁぁ!」

「ひぎいいぃぃ!」


 娘が――我が愛娘ベルメリアが、騎士たちを蹂躙していた。何故か、その全身が水色の鱗で覆われ、まるでフレデリックのような先祖返りに近い姿をしているが、あれは間違いなくベルメリアであった。


 変貌した娘が腕を振る度に巨大な水弾が撃ち出されて騎士たちの体を打ち砕き、半分に折れた魔剣を振れば衝撃波が放たれて多くの冒険者を切り刻む。


「怯むな! 攻撃を続けろ!」

「くそっ! 何故当たらない!」

「何故この攻撃が見えているんだ!」


 私の号令で部下が攻撃を放つが、こちらの攻撃は一切当たらなかった。全て回避されるか、撃ち落とされる。当たっても威力が大きく軽減され、僅かに刻まれた傷も瞬間再生で癒される。


 今の娘は完全に王都の敵だった。部下に倒せと命じなくてはならない。しかし、倒せない。それを喜んではいけないのだが……。いや、そもそもあれは本当に娘か? 


「クソうぜぇ羽虫共がぁぁ! バラバラになっちまいなぁ!」


 見た目は我が娘、ベルメリアだ。だが、その中身は全く違うものではないか? 単に強くなっているという意味ではない。


「ヒャハハハハハ! 死ね死ね!」


 あれは何だ? 娘の口から発せられるのは、男とも女とも思えない、甲高く耳障りな声であった。明らかに娘とは違う何かが、娘の体を動かしている。そうとしか思えなかった。


「し、将軍! ど、どうしたら……!」


 縋りつくような眼で指示を仰いできたのは、騎士団の小隊長の一人であった。この場所には本来副官が控えているのだが、すでにベルメリアの攻撃によって命を落としている。


 その言葉には、これ以上犠牲を出してまで戦いを続けるのかという意味と、娘を攻撃していいのかという2つの意味が込められているのだろう。


 しかし、私の答えに変わりはない。


「攻撃を続けろ! 我らの後ろには王城があるのだぞ! ここで我らが逃げれば、アレの矛先が王や民に向くかもしれん!」


 民と王。その2つを守るという使命の前に、娘の命を惜しむなどということがあってはならん。


「は、はは!」

「各所に散った冒険者や騎士団、魔術師が必ず駆けつける! それまで耐えろ!」

「王城に救援を求めることは叶わぬのですか?」


 小隊長がそう言いながら、背後の王城を仰ぎ見る。


 王城の中には、最精鋭たる親衛隊が残っているはずだ。各騎士団から集められた、最高の騎士たち。その総隊長ともなれば、我が国でも最強と名高い。百剣や鬼子母神とも伍すと言われる強者だ。


 しかし、その出陣を願い出ることなどできるはずもなかった。彼らの使命は王の守護。彼らの居場所は王の座す場所だ。敵が1体しかいないのであればともかく、今回のように敵が軍勢を成している場合、王の傍を離れるなどあり得ない。


 そもそも、彼らは盾。敵を打ち滅ぼし、民を守るは我らの職分である。アレは我らが対処すべき敵なのだ。


「スターグ。視えるか?」

「はっ……。全てではありませんが……。しかし、信じられませぬ」

「それほどか?」

「御館様には申し訳ありませんが、今のお嬢様はまさに化け物です」


 我がベイルリーズ家に仕える騎士の一人、スターグが蒼白な顔で呟く。戦闘力も高く、高位の鑑定を所持しているので常に私の護衛として側に置いていた。そのスターグが、時間をかけて何とかベルメリアの能力を確認し終えたようなのだが……。


 歴戦の騎士であるスターグが怯えている? 亜竜の正面に立ってさえ、勇敢に弓を放ったスターグが?


「まず、あの折れた剣については鑑定できませんでした。相当高位の魔剣なのでしょう」

「そうか……」


 もしやあれが黒雷姫の言っていた狂信剣ファナティクスなのか?


「また、現在お嬢様の能力は、私の目でも測りきれませぬ。値は1000を超えているでしょう。私の鑑定ならば天壁のゼフィルド殿でさえ鑑定可能でした」

「つまり、能力値で言えばランクA冒険者を超えているということか……」

「スキルも膨大です。剣王術に剣聖技:Lv8、大海魔術:Lv8、瞬間再生:Lv8など、高位のスキルを100近く所持しています。ユニーク、エクストラスキルも複数所持しており、私の目では剣王術、神竜化、火炎吸収、仁王、韋駄天、無詠唱、魔力統制、気力統制しか見えませんが、確実に他にもあるでしょう」


 それ以外のスキルも、高位のレアスキルが並んでいるようだ。信頼するスターグの言葉でなければ、一笑に付していただろう。


「なんだそれは……。人が短期間でそれ程強くなるなど、あり得るのか……」

「状態は、狂信と神竜化となっております。このどちらかが、お嬢様がああなられた元凶だと思われますが……」


 神竜化! 聞いた覚えがある。たしか、ベルメリアの母親、ティラナリアが語る、竜人に伝わる神話の中に登場したはずだ。


 エルフにとってのハイエルフのような位置づけにある、竜人の進化した先にある超存在の名前である。進化条件も分かっておらず、ここ1万年で数人しか確認されていないそうだが、確実に存在すると言われているらしい。


 それこそ、ハイエルフと正面から戦い、相打ちになったという伝説が残るそうだ。


 なんという悪夢だ。娘が敵に回ったというだけではなく、その戦闘力がランクA冒険者さえ霞むほどだと? 本当にハイエルフ級なのだとすれば、ランクS級の強さを持っていてもおかしくはない。


 しかし、相手に狂信剣という鬼札が存在している限り、何が起きても不思議ではなかった。


「おい! すぐに伝令!」

「ど、どこにですか?」

「王城だ! 王を即座に避難させるようにお伝えしろ!」

「わ、わかりました!」


 最早、勝てる相手ではないと理解できた。ランクA冒険者級の戦力を複数当てても、勝利できない可能性がある。現在私が把握している王都内にいるランクAオーバーの戦力は、天壁のゼフィルド、百剣のフォールンド、黒雷姫フラン、竜縛りのエイワース、親衛総隊長ルガ・ムフルの5人。彼らを全員招集し、同時に当てて何とかなる存在である。


 結界に守られた王城にいたとしても、安全ではない。王をお逃がしし、次にできるだけ多くの民を救う。その後、強者たちに全てを託す。


 我らは捨て石となり時間を稼ぐことしかできないだろう。


「奴をできるだけ長時間、この場に引き留める。命を賭けろ」

「は!」

「了解!」


 唯一の救いは、部下たちの士気が高いことか。死ねと言っているに等しい私の命令に対しても、やる気に満ちた顔で返答してくれる。


 ここで死なせるには惜しい部下たちだが、仕方あるまい。


 できるだけ若い兵士を選んで、王都の各所に伝令として走らせる。敵の強大さと、勝利するには複数のランクAクラスが必要だという私の言葉を伝えるためだ。これで、私が死んだ後も同僚である将軍たちが後を引き継いでくれるだろう。


「私も出る」

「は!」

「デミトリス翁がいてくれれば……」


 小隊長の呟きが耳に入る。


「デミトリス殿か」


 ジルバード大陸を本拠地とする唯一のランクS冒険者、不動のデミトリス。格闘者でありながら、その場から一歩も動かずに百の敵を瞬殺するという武の超人である。


 彼は南の小国にある自らの道場を拠点としながら、この大陸の魔境を巡り歩いて未だに修行を続けているという。


 扱いづらい老人ではあるが、善人であることは間違いなく、各国で人々を救っている。このような場合であればこの上なく頼もしい御仁なのだが、現在は我が国内にいるという情報は入っていなかった。


「いないものは仕方ない」

「も、申し訳ありません」

「いや、よい。私も考えなくはなかったからな。だが、どこにおられるのか分からないデミトリス殿に頼ってもどうにもならん。この場は我らが何とかするのだ!」

「は!」


 部下と自らを叱咤し、前線へと出ようとしたその時だった。


「デミトリスの爺さんでなくて悪いが、俺じゃ力不足かい?」

「っ?」


 どういうことだ! 気配など一切感じなかったぞ! しかし、私の後ろには大柄な鬼族の男が悠然とした様子で立っていた。見ただけで分かる。ただ者ではなかった。それこそ、獣王陛下にお会いした時に近い感覚があった。


 その大男が、背中から巨大な大剣を引き抜く。この剣もまた、ただの魔剣ではない。内包された圧倒的な魔力に、気圧されそうになる。


「加勢するぜ。おらぁ! グラビティ・ブロウ!」


 大男が剣をその場で振り下ろすと、はるか上空にいたベルメリアがいきなり落下し始めた。まるで見えざる力で大地に引き寄せられているかのようだ。


 そして、娘の体が勢いよく大地に叩きつけられる。


「ぐあああああああ!」


 今日初めて、ベルメリアにダメージらしいダメージを与えたところを見たかもしれない。この男はいったい何者だ!


「さて、俺はいつまで保つかね……?」


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― 新着の感想 ―
これは王都移転のお知らせか! 前話では疑似狂信剣が神剣開放してるし鍛冶師ガルドの能力を超えてるのにヤバい剣を産み出せたカラクリはこの後明らかになるのかな? 智慧剣ケルビムのような神域へとアクセスも無く…
[一言]それもこれも拠点囲われたのに先制されるまで手は出さずにいたせい…何というか、毎回敵に都合が良いように立ち回る味方勢でちょっと。。敵に娘攫われてやっぱりというかあっという間に操られるとか。もうこ…
[一言] ベルメリアうんちやん
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