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447 玄人と素人


 フランと侯爵を諸共に飲み込む白い雷の柱が、轟音を伴って天地を貫いていた。


 大量に舞い上がった粉塵が収まった時、そこには直径5メートル程のクレーターと、その中央で片膝をついて呻くアシュトナー侯爵の姿があった。


 雷鳴無効化で守られているフランやその装備品と違って、侯爵のオリハルコンの魔法鎧は半分融解し、全身からブスブスと煙が上がっている。


 想像以上にクレーターが小さいのは、侯爵が咄嗟に溶鉄魔術で壁を生みだして威力を弱めたからだ。その代わり、フランによって左腕が斬り飛ばされている。まあ、すでに半分は再生しかけているが。


「ごがぁぁ……」


 だが、片膝を突いたことで最大の隙を見せていると、自分でも分かっているのだろう。その幽鬼のような眼をこちらに向けていた。フランがどんな動きをしても対応できるように。


 溶岩障壁を回避するためにわずかに距離を取ったフランだったが、好機を逃さず追撃の構えを見せた。


 黒い雷を棚引かせ、一気に踏み込む。その勢いのままに、大上段からアシュトナー侯爵に斬撃を見舞った。


「隙あり!」

「ぐおおおお!」


 ガギィイィィ!


 一瞬の鍔迫り合い。


 腕力はアシュトナー侯爵が遥かに上だが、相手は片膝をつくという不利な体勢であるうえに、片手で剣を振るっている。対して、こちらは速度を生かしたまま上段からの振り下ろしだ。しかも、剣を通じて流れ込んだ黒雷が、腕にダメージを与えていた。


 結果、両者の剣は拮抗し、互いに動きを止める。しかし、この状態こそがフランたちの狙いでもあった。


 アイコンタクトをしたわけでも、合図を送ったわけでもない。しかし、フランは確信を持っているようだった。


 この隙をエリアンテたちが逃すわけがないと。


「死ねえぇぇぇぇぇぇ!」

「ソニック・ブロー!」

「スパイラル・バッシュ!」


 圧倒的な技量を誇るフランと侯爵の斬り合いを前に、手出しをできないと悟ったエリアンテたちは、隙をうかがいながら力を溜めこんでいたのだ。


 その攻撃が一斉に侯爵に襲いかかる。気を纏ったエリアンテの大剣が超高速で振り下ろされ、コルベルトとゼフィルドの中距離攻撃が左右から突き刺さった。


 特にエリアンテの一撃は、フランが本気で放った空気抜刀術並の威力があるだろう。


 侯爵は――侯爵たちは確かに強い。超人級の肉体に、圧倒的なスキル。しかも戦った感じ、そのスキルを完璧に扱えている。それ故、剣聖術で剣王術と互角に斬り合えているのだ。


 だが戦いの駆け引きとなると、綻びがあるようだった。侯爵はもともと文官であるそうだし、その肉体を操っているファナティクスらしき存在も戦闘のプロではないと思われる。正面からの戦いであれば能力で圧倒できるが、微妙な駆け引きではこちらに負けているのだ。


 ゼフィルドたちは正面から正攻法で立ち向かったが故に、壊滅させられたのだろう。そもそも、ゼフィルドの盾を抜く攻撃を連続で繰り出すような相手を想定していなかったと思われた。


 しかも、強者故の驕りもある。明らかにこちらを舐めていた。エリアンテたちにいたっては眼中になかったようだ。そこで存在を意識の外に追いやってしまうところもまた素人臭かった。


「ぐあああぁぁ!」


 アシュトナー侯爵は3人の攻撃を食らい、吹き飛ばされる。それでも何とかエリアンテの剣だけは防いでいるのはさすがだ。


「ぐがガが……雑魚どもガァァ! 調子にノリやがッテェェ!」


 首の骨が折れているせいか、呂律が少し怪しい。だが、自分を取り囲んで身構えるエリアンテたちを殺気の混じった眼で睨みつけ、威圧している。


「殺してヤル!」


 やはり素人だな。殺すとか言っている間に、行動に移すべきなのだ。プロシュ〇トの兄貴も似たような事を言っていた!


 そして、フランはその辺プロなんだぜ?


「とりあえずこの辺を溶岩でメチャク――」


 エリアンテたちへ殺意を向けたせいで、フランに向けていた注意が一瞬だけそれた。ほんの一瞬、されど一瞬だ。


 俺たちにとっては十分すぎる隙であった。超人的な反射神経を発揮したフランは、侯爵が隙を見せた瞬間には準備を始めている。それは、剣王技を放つための準備だ。


 俺たちはまだ、いつでもどこでも剣王技を放てる段階にはいない。どうしても剣を振りかぶるための予備動作と、振り切るための無理のない姿勢が必要だった。さらに、魔力を練り上げるための時間もだ。この準備に数瞬の間は必要だろう。


 いや、相手がそこらの雑魚だったら、問題はないのだ。この程度の間など、隙とも呼べない間である。だが、相手がフランと互角の腕前である場合、それは致命的な一瞬であった。


 しかし、アシュトナーの見せた隙のおかげで、準備をするための時間ができた。フランが準備を終えるのとほぼ同時に、俺がその体を転移させる。


 俺の転移からの、フランが俺を使って放つ剣王技・天断。剣神化や潜在能力解放といった自爆能力をのぞけば、今の俺たちが放てる最高の一撃だろう。


「――天断」

「ぐぬ、あぁ……!」


 これにも反応する侯爵、危機察知と、剣聖術からくる洞察力。さらに気配察知により空間転移の気配を感じ取ったのだ。俺たちの狙い通りだ。


 侯爵がとっさに自分と俺の間に疑似狂信剣を滑り込ませてくれたおかげで、剣と侯爵を一撃で攻撃できた。


 フランによって振り抜かれた俺が、疑似狂信剣をあっさり切り落とし、アシュトナー侯爵の右肩口から左脇までを一瞬で突き抜ける。まるで空気の塊りでも切り裂いたかのような手応えのなさ。


 しかしその直後、半ばから切断された疑似狂信剣の切先が落下する。そして、アシュトナー侯爵の体にスーッと線が描かれ、そこから一気にどす黒い血が噴き出した。


「こ、こむ、すめぇ……」


3月24日に、コミカライズ3巻が発売されます。

店舗特典が付く場合もありますので、ぜひ幻冬舎様のホームページをチェックしてみてください。

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― 新着の感想 ―
いろいろなアニメ見ているんですね
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