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446 おしゃべりな狂信剣(仮)


 延焼して燃え上がる侯爵邸。それをバックにフランと激しい斬り合いを演じるアシュトナー侯爵が、相変わらずの能面のまま下卑た笑い声をあげた。


「ヒャハハハ! やるな小娘! 数百年ぶりに痛みを覚えたぞ!」


 数百年ぶりの痛み? やはりこいつはアシュトナー侯爵本人ではないらしい。


「お前は、何?」

「さあて、何だろうなぁ? 俺たちが教えてほしいくらいだぜ。俺たちは何だ?」


 煙に巻こうとしているような言葉なのだが、不思議とはぐらかそうという色は感じられなかった。どうやら本気で言っているらしい。


「100年前か、500年前か、1000年前か。もうよく分からねーが、ホーリー・オーダーの野郎に破壊されかけたことは何となく覚えているんだがよぉ!」


 ホーリー・オーダー? 覚えてるぞ! アリステアが教えてくれた神剣の一つだ! 聖霊剣ホーリー・オーダー。対狂信剣ファナティクス用に作られたっていう神剣だ。


 これはもう確実だろう。今回の事件の裏にはファナティクスが関わっている。いや、それどころか侯爵の中にいる何かが、ファナティクスであるようだ。


 ただ、疑問も残る。侯爵が握っているのは疑似狂信剣。贋物だ。それとも、どこかに本物を隠し持っているのか?


 それにしてもファナティクスが俺と同じインテリジェンス・ウェポンだったとは……。だとすれば、侯爵でさえ傀儡で、黒幕はファナティクスという可能性もあるか。


「はぁぁ!」

「クヒ!」


 当然、会話の最中も高速での斬り合いは続いている。コルベルトやエリアンテが、割って入れない程の激しい剣戟だ。


 剣聖術:Lv10のアシュトナー侯爵と、剣王術を完璧に極めたとは言い難いフラン。結果、2人の剣の腕はほぼ互角であった。


「……お前はファナティクスなの?」

「ファナティクス? そういえば俺たちはそんな名前だったか……? なあ、俺たちはファナティクスなのか?」

「こっちが聞いてる」

「クハハハ! だよなぁ!」


 そもそも、俺たち? 俺じゃなく、なんで俺たちなんだ?


「俺、たち?」

「ああ、俺たちだ。多にして個。一にして全。全てが俺たちだ! ヒャハハ! お前の剣の中にだって、俺たちがいるじゃねーか!」


 なに? 俺の中にいる?


「どういうこと?」

「自我もない、俺たちから分かたれた欠片にすぎんが、それも俺たちには違いない! お前のその魔剣、魔力を吸う力でもあるのかぁ?」


 もしかして、共食いで吸収した疑似狂信剣の力のことだろうか? 疑似狂信剣にはファナティクスの魔力が僅かに込められていたのかもしれんな。


 確かファナティクスの能力は、斬った相手の意識や記憶を取り込んで自らに同一化してしまうことだったはずだ。ならば、複数の意識を持っていてもおかしくはないだろう。


 俺、大丈夫だよな?


「そうだ! その剣をよこせ! そいつはオレイカルコスが使われているな? そいつがあれば、俺たちの傷を癒せるかもしれん!」

「お断り!」

「カハハハ! それにしても、なかなかやるじゃねーかお前! この特別な素体とここまでやり合うとはなぁ!」


 また話題が変わった。躁状態が酷いというか、お喋りが過ぎるというか、とにかくうるさい。


 剣を侯爵に叩きつけながら、フランが疑問をぶつける。俺を剣で受け止めた侯爵が、周囲に巻き起こる凄まじい衝撃波の中、涼しい顔で答えを返した。


「どういうこと?」

「こいつは40年近くかけて調整した、特別な素体なんだぜ?」

「40年? 調整?」

「そうだ。超越した力を持つような素体を作り出すには、時間をかけて薬と俺たちの能力でじっくり改造するしかねーんだよぉ! 忌々しいぜぇ! 昔だったらいくらでも強い兵隊を作り出すことが出来たのによぉ! 今じゃ適性のあるスキルを2、3個与える程度しか出来ねー!」


 つまり、ファナティクスは他人の力を統合するだけではなく、与えることもできる? スキルや経験を好きに与えることができるのであれば、最恐の兵士を量産できるだろう。


 このアシュトナー侯爵並の力を持った兵団が、ファナティクスの意識下で完璧な連携を発揮するとしたら? しかもファナティクスの能力を考えれば、いくらでも補充が可能なのだ。それは凄まじく危険だろう。


「こいつの息子たちやら、家臣の息子たちやら、この町で捕らえた有象無象やら、色々と実験したんだがなぁ!」


 それってもしかして、セルディオとかオーギュストのことか? フランに尋ねさせる。


「セルディオ? オーギュスト?」

「おお? 知ってんのか? 結局奴らに与えた精神操作系スキルやユニークスキルは回収できなかったがな! いくらでも補充がきく剣術や魔術と違って、あの手のスキルは貴重なんだがよぉ!」


 つまり、セルディオやオーギュストが持っていたスキルはファナティクスが与えた物だったってことか。


「その点、こいつは40年かけて改造し続けてきたからな! 俺たちの持つスキルは大抵移植が可能だぁ! ヒャハハハハハ!」


 哄笑を上げる侯爵。無駄に多弁だな。戦闘中もべらべらと会話していないと済まないらしい。おかげで有益な情報が大量に手に入るんだが、どこまで様子を見るかが難しい。互角の斬り合いに見えても、侯爵の使う強奪スキルに加え、閃華迅雷による消耗でフランの生命や魔力が少しずつ減ってきている。


 どこかで情報収集を止めて、一気に勝負をかける必要があった。


 だが、先に動いたのはアシュトナー侯爵の方だ。斬り合いでは埒が明かないと悟ったのか、喋り飽きたのか。侯爵がフランから距離を取った。


「例えばこんなことも可能だぜ! マグマ・ウォール! アース・シューター! そしてぇ、ソード・ソニックゥゥ!」


 生み出した溶岩の壁に向かって巨岩を撃ち出す侯爵。すると、弾けた溶岩が散弾のようにフランに降り注いだ。さらにその後を追うように、剣聖術によって生み出された衝撃波が飛んでくる。


 大地魔術の弾丸と衝撃波をかわそうとしても、溶岩の雨によってダメージを負うだろう。障壁で受けようとしたら動きが鈍る。広範囲の攻撃を完全に回避しようとした場合は、動きが単調になるはずだ。


 その隙を狙おうというのだろう。


 だが、隙を狙っているのは俺たちも同じだ。この攻撃を逆に利用する。


「アース・ウォール!」


 大地の壁をブラインドにして――。


「はぁぁ!」

「キヒヒヒ! 転移かよ!」

「ちっ!」


 察知能力も化け物並みか! 背後からの斬撃をあっさりと受け流された! だが、これも織り込み済みだ!


『フラン! 俺の準備はオッケーだ!』

「ん! はぁぁ!」


 フランが再び斬り掛かり、侯爵の動きを釘付けにする。長期戦でも構わない侯爵は、喜々としてその斬り合いに応じた。それがこちらの狙いとも知らずに。


「いいぜ! また斬り合いかぁ?」

「違う」

『喰らえ!』


 そこに、俺が再度放った、カンナカムイが降り注いだ。しかも収束させ、威力を増したバージョンである。


「ば、自分もろともだとぉぉ?」

「逃がさない!」

「くそぉ!」


 奴にはフランと斬り合っている最中に、これを防ぐ余裕などない。フランには雷鳴無効がある。俺は、一瞬だけディメンジョン・シフトで受け流せばいい。


「はぁぁ!」

「小娘ぇぇ!」


次回更新は20日になってしまいそうです。申し訳ありません。

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