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441 王城前での戦い

 貴族街に足を踏み入れると、疑似狂信剣の刺さった男たちとすぐに出くわした。とはいえ、距離さえあれば俺の念動カタパルトで即殺である。


 エイワースからクレームが入ったので、何体かは譲ってやったけどね。


「ふはは。まだ試したいことがあるのだ」


 エイワースはそう言って懐から取り出した魔法薬を一気に呷った。身体強化系の魔法薬であったらしい。一気に相手の懐に飛び込んだ。そのまま剣士相手に格闘戦をし始める。


「――」

「なるほどなるほど! 魔法薬といい、スキルといい、身体強化系――つまり体内で作用する物には魔力打ち消しは効かぬということか!」


 エイワースが突進してきた敵に対して、取り出した薬を投げつける。それと同時に自分も拳を握りながら相手に突っ込んだ。


 上手い。薬をかわすのであれば、エイワースの体術の餌食だろう。薬を薙ぎ払うのであれば、魔法薬の効果を打ち消させることで相手は魔力を消耗する。どちらにせよ、エイワースが有利だった。


 そして、薬を剣で薙ぎ払ったことによって全ての魔力を使い切った敵を魔術で氷漬けにし、危なげなく勝利する。


 魔術と近接戦闘、魔法薬を併用した立ち回りがエイワースの真骨頂であるらしかった。もし戦うことになった場合、目立った隙の無いかなり厄介な相手だ。


 フランも同じことを考えたようで、まるで弱点でも探すような眼でエイワースの戦闘を観察していた。


『魔術と体術はともかく、薬が完全に未知の存在だからな……』

(ん。強い)


 その後、数度の戦闘を経てフランたちは王城前の広場へと到達した。


 軍事パレードなどを行うことも考えて、王城前広場はかなり広く作られている。だが、そこでは想像以上の激戦が繰り広げられていた。


 敵は100人程。その内、疑似狂信剣が刺さっている敵は40人程だろうか。そいつらと一緒に、身長2メートルほどのオーガっぽい魔獣が暴れ回っていた。


 鑑定すると、フレッシュ・グレーター・ゴーレムと出る。どうやら死体を使ったゴーレムであるらしい。しかもかなり強かった。敏捷は低いが、頑丈で再生を持っている。疑似狂信剣の魔力打ち消しに守られている間はかなり厄介だろう。少なくとも騎士数人では抗うことはできないはずだ。


 それに対して騎士たちは200人近いだろうか。既に倒れている者を合わせたら500人を超えるだろう。さらに冒険者たちの姿もあった。


 コルベルトもいるな。エリアンテの姿まである。まさかこっちに来ているとは思わなかった。この2人はやはり別格の動きだ。だが、それに匹敵する働きを見せている者たちが5人いた。


 多分、5人は仲間同士なんだろう。同じ意匠の鎧を着込み、連携して戦っていた。多分、半蟲人だ。


『あれがエリアンテの言ってた傭兵団だろうな。触角と甲殻とかいう名前だったはずだが……』


 なるほど、その名前の通りだった。頭から触角を生やしている者や、体の一部が堅い殻で覆われた者もいる。


 それぞれの種族は堅海老、飛蝗、蜃、蜉蝣、牙蟻だ。ただ、やはりスキルや魔術が使えないせいで苦戦しているらしい。それでも連携しながら戦い、フレッシュ・ゴーレムを10体以上倒しているように見えるのはさすがだ。


(師匠、あそこ伯爵)

『取りあえず合流するぞ』

「ん!」


 フランは一気に戦場を駆け抜けると、ベイルリーズ伯爵たちの周囲にいる疑似狂信剣に寄生された剣士たちを斬り捨てた。


 自分たちが苦戦している相手をあっさりと倒されて、騎士たちは呆然としている。しかし伯爵は現れたのがフランだと分かると、納得したようにうなずいていた。


「さすがだな黒雷姫! 今のはどうやったのだ? 館での戦闘時とはまた違う様子であったが」


 そこで、フランは彼らに対処法を伝える。だが、伯爵は難しい顔だ。考えてみれば魔法を何発も放って魔力を消耗させる手も、魔法薬をいくつも投げつける手も、そうそうやれることではなかった。


「ポーションをありったけ集めさせるか……。ともかく、良い話を聞かせてもらった。まずはこの広場の殲滅を手伝ってもらえるか?」

「ん。でも、他の場所は大丈夫?」


 アシュトナー侯爵邸やオルメス伯爵邸からも敵が現れたはずだが……。


「……大丈夫だ。それぞれにランクA冒険者が向かっている」

「いたの?」

「オークションに合わせて、多くの冒険者がやってきていたからな。エリアンテが話を通してくれた」


 それはそうか。高位冒険者であれば、オークションには興味があるだろう。既にオークションは終了しているが、王都に残っている冒険者は多いはずだ。


「ベルメリアは?」

「まだ見つかっておらん。今は娘のことは忘れろ。敵を倒すことだけ考えるのだ。王都の安全の方が重要だ」


 やはり、この言葉も自分に言い聞かせているのだろう。伯爵は何かを堪えるような表情で、フランにそう告げた。


「大丈夫だ。冒険者たちが必ず救い出してくれる。心配するな」

『フラン。発見できない以上、俺たちにできることは敵の戦力を減らすことだけだ』

「……わかった。じゃあ、とりあえずここの敵を片づける」

「では、行くとしようかの。肉壁どもがちょうど敵の目を引き付けておる。やりやすかろう。肉兵は無視して、まずは剣持ちを減らすぞ」

「分かってる」


 そして、フランたちが戦場に飛び出した。


「覚醒――」


 この後、どんな戦いがあるかも分からない。閃華迅雷は温存だ。だが、この戦場であれば覚醒だけでも十分だった。


 乱戦ではあるが、疑似狂信剣を目印にすれば敵味方の識別は簡単である。あとは死角から忍び寄り、渾身の一撃を疑似狂信剣に叩き込むのだ。


 障壁などでその攻撃が決まらない場合もあるが、その場合は魔術飽和攻撃に切り替えるだけである。


「え? なんだ子供――なにぃ!」

「なんだ? 黒い影が!」


 突如出現して、強敵をあっさりと葬り去るフランに騎士たちは驚いているな。だが、それも無視してフランは戦場を駆ける。


 ドォオォン!


 爆音と騎士の悲鳴。エイワースもハッスルしているらしい。


「はぁぁ!」


 途中からはコルベルトとエリアンテだけではなく、傭兵団もフランたちの援護に回ってくれるようになった。あえて派手に動き、敵の注意を引き付けてくれている。そうなると仕事はさらに楽だった。


 疑似狂信剣持ちを掃討するのに15分もかからなかったのだ。そして、最後の敵に対して、カンナカムイを抑えめに放ってみる。どの程度の威力の魔術まで打ち消せるか調べようと思ったのだが――。


『うーん。トール・ハンマーくらいにするべきだったか』

「ん」


 どうやらカンナカムイ級の魔術まではさすがに打ち消しきれないようだ。かなり威力は下がったものの、極雷は疑似狂信剣ごと敵を消滅させ、王城前広場に巨大なクレーターを穿ったのだった。


『ちょっとやりすぎたな』

「打ち消されるよりはいい」


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