表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
440/1337

438 薬の効果


 エイワースが先走り、勝手に薬を地下にばら撒いてから十数分。フランたちは屋敷の中を調べていた。地下に通じる隠し通路などがないか調べるためだ。


 土魔術や転移魔術で中に入り込める俺たちには隠し通路なんか必要ない。だが、後々のことを考えると正規のルートを見つけた方が良いというのが、フェイスの提案だった。


 だが、俺やフランも探知系、察知系スキルで隠し通路を探したが、怪しい場所は存在していない。こうなると、子爵邸から入るのではないのだろう。


 屋敷から中庭に戻る際中、俺たちは魔力の動きを感知していた。この魔力には覚えがある。慌てて中庭に飛び出すと、エイワースが土魔術で再び穴を掘ったところだった。


「エイワース!」

「ん? なんだ、お嬢ちゃん?」


 フランが駆け寄ると、エイワースがなぜ怒っているのか分かっていないような顔で、問い返してくる。


「勝手な真似しないでって言った」

「おお、そういえば別れる前にそんなことを言っていたな。まあ、興味もないから覚える気もなかったが」

「む……」


 分かれて探索することをフェイスから提案され、エイワースには勝手な真似をするなと釘を刺しておいたのだ。虚言の理でその返答に嘘がないことまで確認していたのに! あの時、相談なしには動かないと言っていた言葉に嘘はなかった。なかったはずなんだが……。


 いや、確かに嘘ではなかったのだろう。しかし、すぐに約束したことも忘れ、興味のままに行動したというだけで。エイワースのフリーダムさを甘く見過ぎていた。


「そんなことよりも、行くぞ。薬は気にするな。そろそろ効果も切れている頃だ」

「あ!」

「ちょ、エイワースさん!」


 エイワースが風魔術で体を浮かせると、そのまま縦穴の中に下りて行ってしまう。本当に自分の好奇心の赴くままに行動する爺さんだ。


(師匠! 追う!)

『そうだな!』


 一瞬、エイワースに全て押し付けてしまおうかとも思ったが、もし地下拠点にガルスがいた場合、危険かもしれないと思い直す。エイワースがどこまでガルスの安全を考慮するか疑問だからな。なにせ、あれだけ躊躇なく毒を投げ込むくらいだ。


「エイワース、待つ!」

「あ、ちょっと! わ、私も――」


 あ、フェイスを忘れてた。いや、戦闘力の低いフェイスは置いていった方がいいかもしれん。どんな事態になるか分からないのだ。


 ほぼ垂直の穴を一気に滑り降り、最後に空中跳躍で勢いを殺して降り立つ。


 エイワースの薬がどうなっているか分からないため風の結界を身に纏っているが、毒が充満している感じはない。エイワースの言う通り、すでに効果が切れたのだろう。


「……建物」

『ああ、ここが地下拠点とやらで間違いないだろう』


 それこそどこかの砦の内部に居るかのような、しっかりとした建造物だ。


『どこから襲われるかも分からん、気を抜くなよ』

「ん」


 俺たちは取りあえずエイワースの後を追うことにした。


 周辺から生命力はほとんど感じられないが、疑似狂信剣の魔力は未だに微かに感じ取れる。エイワースやフランの侵入に気付いて気配を消しているのだろう。


 そのまま15メートルほど走るとエイワースに追いついた。通路の先にあった、広いホールのような場所で足を止めていたのだ。


「何をしてる?」

「お嬢ちゃんか。これを見てみろ」

「……階段?」


 エイワースが見ていたのは登り用の階段だった。しかし、その階段は天井にぶつかっており、その用途を成していない。ここの地下施設を隔離するために、穴を埋めてしまったのだろうか?


 だが、そうではなかった。エイワースが軽く魔力を流すと、一瞬階段が光り輝いたのだ。


「やはりな。これは魔道具の一種だ」


 さらに多くの魔力を流すと、地上へと階段が伸びるそうだ。これで出入りをするんだろう。そりゃあいくら探しても出入り口が分からないはずだ。


 外から戻る際は、中から階段を出現させてもらう必要はあるが、外から襲われる可能性は低くなる。まあ、エイワースに力技で侵入されてしまったが。


「これはあとで調べればよいだろう。反対側へと行くぞ」

「……ん」


 フランが多少不満げではあるが、頷く。エイワースに仕切られるのは気に食わないが、魔道具に対する見識の高さを見て、多少は認めたらしい。とりあえず文句は言わずに、エイワースの後に付いて駆けだした。


 だが、すぐに俺は前方に潜む魔力に気付く。


『フラン! そこの扉の向こう! 疑似狂信剣の魔力がある! 多分、2つ』

(ん? わかった!)


 どうやらフランには感じ取れないようだ。俺も魔力というよりは、嫌悪を強く感じているからこそ気付けている部分はあるかもしれない。


「エイワース」

「ふむ? 何か感じたのか?」

「ん」


 フランが声をかけると、エイワースは足を止めて周囲に気配を配り始める。この辺の判断の的確さはさすが元ランクAだな。


「そこの扉の向こう」

「ほう?」


 フランが通路の途中にある扉を指差す。エイワースにも、そこに誰かが隠れているとは分からないみたいだ。だが、その緊張を解かない。フランの察知能力が自分より優れていると、素直に認めたらしい。


「敵か?」

「分からない。でも、2人いる」

「……やはり儂には分からん。先鋒は譲ろう」

「ん!」


 そして、フランがドアを蹴破って中に突入した。まずは1人を抜刀術で斬る! 最悪エイワースを盾にして、距離を取った後に念動カタパルトで仕留める。魔術師の爺さんだが、時間稼ぎくらいはできるだろう。


 フランが部屋に踏み込んで、まず最初に目に入ってきたのは黒い粉の山だ。床や棚に、黒い粉が大量に散乱している。


 多分、武具庫だったのだろう。しかし、エイワースの投げ入れた金属腐食薬によって全てが腐り落ち、黒い粉の山にしか見えなかった。僅かに残る革鎧や革盾、柄に巻いてあったと思われる革帯などから、武具の痕跡を感じ取れる程度だ。


 中にはやはり男が二人。首には疑似狂信剣が刺さっている。だが、俺のエイワースシールド作戦が実行に移されることはなかった。中に踏み込んだ時、すでに敵は事切れていたからだ。


「……ん?」

『死んでるように見えるが……』

「えい」


 念のために背中に刺さった剣を切ってみるが、やはり動くことはなかった。共食いが発動しているので、これが疑似狂信剣であることは間違いない。


 後から部屋に入ってきたエイワースが、拍子抜けした様子で死体に近づく。


「死んでいるではないか」


 鑑定すると、生命力とともに魔力も全て失っている。これはエイワースの薬が想像以上の働きをしたらしい。魔力枯渇薬が働いたのか、それとも疑似狂信剣の魔力打ち消し効果が発動したのかは分からないが、魔力を使い果たしてしまったのだろう。


 次いで、痺れ薬を防ぐために潜在能力解放が発動した。もしくは、潜在能力解放状態でなければ魔力打ち消しが使えないのかもしれない。どちらにせよ、潜在能力解放状態になったのに、魔力が枯渇したせいでスキルは発動せず、再生による生命力回復が機能しなかったと思われる。結果、潜在能力解放での自滅が早まったのだろう。


 剣の魔力が弱いのは、宿主から魔力を吸い上げられなくなったからだ。


「魔力が多少減っていれば戦い易いと考えたのだが……。敵は想像以上に馬鹿であるようだ。いや、精神を操られている以上、そこまで的確な判断力は残っていないと考えるべきか。もしくは条件によって自動的に剣の能力が発揮される? だが――」


 エイワースは死体を検分しながら何やらブツブツと呟いている。色々と考察しているようだ。しかし、今はゆっくりしている暇はない。


 とりあえず死体を収納して、先を急ぐことにした。


「ちっ。仕方あるまい。だが、後で必ず検分するからな」

「……」

「おい、聞いているのか? 必ず儂に死体を渡すのだぞ?」

「……」

「おい、小娘」


 フランはエイワースとの会話が面倒なのか。完全に無視だ。それに対して、エイワースが喚いている。こいつ、人の話は聞いていないくせに、自分が無視されたら怒るのな。本当にいい性格してやがる。


「いいか? 絶対に解剖させるんだぞ?」



来週から来月の前半まで、少し更新頻度が落ちるかもしれません。

よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ