42 今後についてのetc.
え? 料理回の反響がすごい……?
感想の数が過去一番でした。
ゴブリン討伐から10日。
今朝はガルス爺さんの店に久しぶりに行ってみた。相変わらず商人がギラギラした目つきで店の周りをウロウロしていたな。
「こんちゃー」
「おお、嬢ちゃんと師匠か! 久しぶりだな! 今日はどうした?」
『防具の仕上がりはどうだい?』
「がっはっは。順調よ! 見たらきっと驚くぜ!」
「楽しみ」
「今日は、それを聞きに来たのか?」
『いや、少し相談があってな――』
俺はガルスに、自分が魔石を吸収して強くなる魔剣であると説明した。ガルスは俺がインテリジェンス・ウェポンだと知っても言いふらしたりしなかったし、信頼できる相手だ。
「なるほど、お前さんにそんな能力がな……。で、それを周りに知られても大丈夫かどうか、分からないと」
『ああ。どう思う?』
「ふむ……。わしはやめた方が良いと思うがな」
「やっぱり珍しい?」
「珍しいな。大型の魔道具なんかでは聞いたことがあるが、剣でその能力があるのは珍しい。少なくともわしは聞いたことがない」
凄腕で有名な鍛冶師が聞いたことがない? それって、普通の人間じゃ、まず聞いたことがないレベルなんじゃ……。
「やっぱ師匠は凄い」
「ちと凄すぎだな。インテリジェンス・ウェポンであることもそうだが、魔石を吸収して成長する能力も、容易に神剣を想像させる」
神剣。伝説の存在でありながら、確実に存在する超兵器。まあ、俺なんかとは桁違いに強い武器さんたちなわけだ。
「神剣は、単体で国家間の軍事バランスさえ左右する存在だ」
『そんなレベル?』
「おう。わしが知ってるのは、5本だけだが、それぞれに信じられん逸話がある。神剣の名の由来ともなった、始まりの神剣アルファ。国を滅ぼした逸話で有名な狂神剣ベルセルク。単騎で3万の軍勢を殺し尽くしたと言われる戦騎剣チャリオット。悪魔王を封じたとされる魔王剣ディアボロス。そして、以前にも語った炎剣イグニス。他にも、神剣が使用されたとされる事例がいくつかある。大抵は大量殺戮の現場だったり、大破壊の跡地だったりするがな」
「神剣凄い」
「まあ、多少の誇張はあるだろうが、桁違いに強いことは間違いない。当然、各国が秘密裏に探している。だが、神剣を生み出すことのできる神級鍛冶師は、現在その行方が知れん。過去にいたとされる者たちがまだ生きているのか、新たな神級鍛冶師が生まれているのか、それも分からんのだ」
「なんで?」
「さてな。政治に利用されるのを嫌って身を隠すとか、神々に保護されているとか、いろいろ言われているが、正確なところは知らん。だからこそ、現在確認されてる神剣は各国が厳重に管理している」
『それほどか』
「ああ、それ程だ。もし、お前さんが神剣だという情報が流れれば……力ずくで奪おうとするモノが確実に出てくる。それも、相当数な。本当かどうかは構わないのさ。とりあえず奪ってから確認すりゃいいんだし。使い走りをぶつければ、とりあえず実力が計れるからな」
国や個人にかかわらず、色々な奴らに狙われる可能性があるだろうな。
「相手が神剣持ちであっても、不意打ちや毒殺など、やりようはある。それに、使用者が嬢ちゃんとなれば、どうとでも懐柔できると考える奴らもいるだろう」
『結局、隠したままが良いってことか』
「そうするべきだ。俺に明かしてくれたことは嬉しいが、今後は不用意にばらすんじゃないぞ?」
やはり、能力を明かすのはリスクが大きすぎるか。暫くは秘密だな――。
その後はいつも通り依頼をこなした。俺たちは日々順調に――かどうかは微妙だが、依頼をどんどん達成している。まあ、他にやることないし。
「今日も残念だった」
『蟲しかいなかったからな』
「歯ごたえない」
『ここ10日で、魔石値が7しか溜まってないぞ』
そう、採取や調査の依頼は順調に達成しているのだが、最も欲している経験値と魔石値が、全然入手できていなかったのだ。
『フランのレベルは25だろ?』
「ん」
『今後、今までみたいな速さでのレベルアップは期待できない』
「ん」
『なのに、獲物が全然いない。レベルを上げるには、今まで以上に経験値が必要なのに』
「やっぱり、ダンジョン?」
『あとは、魔境だろうな』
話に聞くと、魔境と言うのはダンジョン並みに魔獣の数が多いらしい。だからこそ、『魔境』などと呼ばれるわけだが。
俺がいた魔狼の平原もそうだ。生息する生き物の、9割以上は魔獣だったと思う。
しかし、あそこに行くのは遠慮したい。枯渇の森に近づきたくないというのもあるが、どうやら平原の危険度が跳ね上がったようなのだ。
俺たちが町に来たのと入れ違いくらいに、冒険者が魔狼の平原の調査に向かったらしい。大型魔獣の縄張り争いがきっかけだ。そして調査の結果、Bランク魔獣の姿が複数確認されたという。
俺がいた頃には、影も形もなかったんだけどな。魔獣っていうのは、繁殖以外でも、魔力が凝り固まって超自然的に生まれる場合もあるらしい。多分、魔狼の平原の魔獣は、後者の方式で生まれるのだろう。
だとすると、俺が旅立った後にBランク魔獣が誕生したのか……。あぶねー! もし、もっと前に生まれてたら、俺なんかここにはいなかったかもしれない。というか、いなかっただろう。
Aランク魔獣が存在する可能性もあるので、調査隊の本隊はまだ調査を継続中らしい。内部に入るのは危険が大きいので、枯渇の森の中から平原を観察するのだそうだ。あの森に長期間滞在するなんて、ご苦労様である。
しかしAランク魔獣か。そんなものまでいる可能性があるとは……。あの平原がAランク魔境というのはちょっと違和感があったんだが、これは納得だ。むしろ俺がいた頃だけ、特別に魔獣が弱かったみたいだな。運が良かったぜ。
「じゃあ、やっぱりどこかのダンジョン」
『まあ、それも視野に入れないといけないだろうな』
だが、悪魔を狩ることができたのは運によるところが大きい。もしあの悪魔が冷静沈着で、着実に遠距離から止めを刺しに来るようなタイプだったら、何もできずに逃げ帰っていただろう。
『悪魔とかのボス級には挑まずに、浅い階層を攻めるのも手だとは思うけどな』
今からダンジョンと魔境の情報を集めておくか。どちらにしろ、ガルス爺さんから防具を受け取らない内は、この町を出れないし。
(ダンジョンの情報を調べる?)
『今日はそうするか』
どうせ暇だし、今日はギルドの資料室で情報を調べよう。
ギルドの2階には、本や資料が納められた部屋がある。そこは、冒険者なら許可さえ取れば、だれでも利用できるらしい。
うーん。資料室の中は閑散としているな。まあ、冒険者たちが資料を読んで予習をするような姿、想像できないが。
それでも、チラホラと人の姿はある。皆、斥候系か、魔術師系の冒険者たちだった。脳筋系の前衛職に代わって、依頼の情報を下調べに来ているのだろう。冒険者パーティにおける知識人の悲哀を見たな。
「おや、初めてかね?」
「ん」
「冒険者カードの提示を」
資料室の受付にいたのは、小柄な老人だった。禿頭、胸まである白い髭、目を隠すほどのフサ眉毛。しかもローブを着込んでおり、仙人にしか見えない。
『無駄に雰囲気があるな』
「噂の魔剣幼女か」
「噂?」
「うむ。最近、お主のことが話題に上ることが多いでの。見たらすぐに分かったわい」
噂になってるのか。まあ、仕方ないよな。メチャクチャ目立ってるし。爺さんの反応を見るに、悪い噂じゃなさそうなのが救いか。
「わしはシューレン。この資料室の管理をしておる」
「ん」
「資料の持ち出しは禁止じゃが、写すことは可能じゃ。羊皮紙は1枚300ゴルド。ペンは1時間30ゴルドで貸し出ししておる」
紙が結構高い。まあ、それだけ貴重品ってことなんだろうな。
羊皮紙を1枚買い、俺たちは目的の資料を探すことにした。ただ、シューレンに尋ねれば大抵の資料がどこの棚にあるのか教えてくれるので、探すのは楽だったが。
まず探したのは大陸の地図だ。
調べたところ、俺たちが今いるのはジルバード大陸という、菱型をした大陸らしい。多分、アフリカくらいの広さがあるだろう。縮尺から見た、予想に過ぎないけどね。それも、地図が正確だという前提の話だ。
アレッサの町は、クランゼル王国と言う国に所属している。アレッサは、菱型のジルバード大陸の西部にあった。今まで気づかなかったけど、西に5日くらい行けば、海に出られるだろう。
『アレッサから近くて、ダンジョンのある場所となると……。イルーフとウルムットか』
イルーフは北の隣国、ベリオス王国の都市だ。国境を越えなくては、たどり着くことができない。
アレッサよりも南にあるウルムットは、クランゼル王国の都市なのでそれほど苦労せずに入れるだろう。
(どっちにもダンジョンがある)
『イルーフはC級のダンジョンが1つ』
(ウルムットは、D級のダンジョンが2つある)
質を取るか、量を取るかってことかね。俺としては、ウルムットが良いと思うな。国境越えは色々面倒そうだし、最初に低級ダンジョンで経験を積みたいし。
『どっちにする?』
(ウルムット。まずはD級で肩慣らし)
『俺も賛成だ。じゃあ、ウルムットのダンジョン情報を調べておこう』
「ん」
あとは、ウルムットへの経路や、中継地点の情報も調べておく。陸路と海路があるそうだ。
『海路か陸路か。どっちがいいかね?』
(陸路の方が安い)
『まあ、そうなんだけどさ。ところで、フランは船に乗ったことはあるのか?』
(奴隷だったときに一回。船底に押し込められていたけど)
なんか、すまん。というか、船旅の記憶がそれだけって! いかん! それはいかんよ!
『そ、そうか。じゃあ今度は海路を楽しんでもいいんじゃないか?』
(楽しい?)
『おう。船で海を行くのは気持ちいいぞ。美味い海産物もあるだろうし』
(……魚?)
『あとはエビとかカニとか貝とか、色々だよ』
(ん。海路しかないと思ってた)
やっぱり食べ物か。ということで、海路に決定した。
「ん……」
フランがグッと伸びをする。座りっぱなしで体が強張ったのだろう。多分。2時間くらいは資料室にいたしな。
『後は何か調べることは……』
(ん。ウルムットの美味しい物)
『他に調べるべきものがあると思うんだけどな』
船賃とか、ルートとかね。
(そうだった)
『分ってくれたか』
(途中の町の名物も調べないといけなかった)
『ああ、そうね』




