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434 幹部たち


 エリアンテにはさらなる戦力の当てがあるという。コルベルトが先を促すとエリアンテが部下を呼び、誰かを連れてくるように指示した。


 5分も経たず、そのギルド員はすぐにその人物を連れて戻ってくる。身長の低い優男だ。


「やーやー、私をお呼びだとか。一体どのような御用向きで?」

「フラン、コルベルト。この男はフェイス。冒険者にして盗賊ギルドの構成員よ」

「なに?」


 コルベルトが驚いた眼でフェイスを見つめる。フェイスもあっさりと自分の素性をバラされ、目を見開いている。


「……エリアンテ様。そうも簡単に口にされますと、色々と困ることもあるのですが?」

「うるさい。今は急ぎなの。黙れ」

「……はぁ」


 多少ましにはなったが、エリアンテの機嫌の悪さは継続中だ。殺気交じりの視線をぶつけられ、フェイスがため息をついて黙った。苦労しているみたいだな。


 エリアンテが説明してくれたが、フェイスは冒険者ギルドの監視兼盗賊ギルドとのつなぎ役でもあるらしい。


 互いに表立っては関わり合いにならないという暗黙のルールはあっても、王都で活動する以上、全く関係を無しにするというのは不可能だ。


 そこで、フェイスのような両ギルドに所属する人員が数人いて、最低でも一人はギルドに常駐しているらしい。もっとも、その素性は冒険者ギルドの上層部にしか知られていないらしいが。


「緊急の案件よ。幹部会に集まるように伝えて。場合によっては王都の中で騒ぎが起きると伝えなさい。どうせすでに事態の概要は掴んでいるだろうし、それで伝わるわ」

「……わかりました。引き合わせるのは彼らで?」

「そっちの子供よ。黒雷姫フラン。聞いたことがあるでしょう?」

「ほう? 彼女が……。分かりました。彼女であれば、幹部会も否とは言わないでしょう」


 どういう意味だ? フランの名前が盗賊ギルドにも知られているってことなのだろうか? カルクとも出会ったし、もしかしたらその関係で伝わったのかもな。


「では、早急に取り計らいましょう」


 エリアンテの態度から本当に緊急事態であることが分かったのだろう。フェイスは一礼すると、速足で部屋を出て行った。


「ギルマス。盗賊ギルドなんか、信用できるのか?」

「信用は出来ないわね。でも、今回に限れば協力できるはずよ。彼らにとっても王都は失うことのできない場所だから」


 エリアンテが確信のある声で頷いた。まあ、彼女がそういうのであれば、間違いないんだろう。


「だが、さっきの説明だとまるでフラン嬢ちゃんだけが盗賊ギルドに行くみたいな話だったが?」

「だって、私はここを離れられないもの」

「いや、俺がいるだろう?」

「コルベルト。あなたにも、ちょっと行ってもらいたいところがあるのよ。上手くいけばさらに戦力を増やせるかもしれないわ」

「なに?」

「傭兵団『触角と甲殻』。知っているかしら? 半蟲人で構成された、少数精鋭の傭兵団よ」

「いや。知らねぇな。だが、傭兵団が王都にいるのか? 珍しいな」


 どうやら普通の傭兵団は戦場を渡り歩いているため、ほとんどの場合が国境付近にいるらしい。戦いの舞台になるのが、国境沿いの場合が多いからだろう。


 それゆえ、王都のような内陸部の、戦火とは無縁の場所にその本隊がいることは非常に珍しいという。普段は連絡員や後方支援要員が数人、拠点を構えている程度であるそうだ。


「私の知人が率いているから、紹介状があれば幹部に会うくらいはできるはず。あとはあんたの交渉次第ね。奴ら、子供を戦場に連れて行かないというルールを設けてるから、フランよりはコルベルトの方が交渉には向いてるはずよ」

「それはありがてぇ! つまり、俺が傭兵団。嬢ちゃんが盗賊ギルドから、それぞれ戦力を引き出せってことか」

「ええ」


 エリアンテが冒険者集めにかかりきりになる以上、それは仕方ないんだが……。フランに盗賊ギルドと交渉しろって? 絶対無理だろ。ここは再び分体の出番だろうか?


 その後、俺たちは一足先にギルドの1階へと移動した。コルベルトはエリアンテに紹介状を書いてもらっている。


『フラン、気は抜くなよ? 相手は盗賊ギルドだからな』

(勿論)


 だが、戦力を出してもらえるかどうかはともかく、盗賊ギルドは色々なところに人を潜入させて情報を集めているだろうし、何か有用な情報を持っている可能性はある。派手に騒ぎが起きているし、下手したら侯爵家、伯爵家双方に耳がある可能性もあった。


『ウルシはそのまま隠れてろ』

(オン!)


 その後、5分程度でフェイスが戻ってくる。


「お待たせしました。こちらへどうぞ」

「ん」


 彼がフランを案内したのは、見覚えのある建物だった。なんと、俺がカルクに依頼を持って行ったあの酒場であった。ただ、表の入り口からではなく、通りからは隠れた位置にある裏口から中へ入る。


「奥を使うぞ」

「へい」


 見張りらしき男はフランに視線を向けるが、特に何も言わない。フェイスの客人だからだろう。男に軽く声をかけたフェイスとともにさらに奥へ進むと、狭い個室へと案内された。だが、そこに人の姿はない。


「ここ?」

「ちょっとお待ちを」


 何をするのかと思ったら、入り口の脇にある紐を引く。なんと、壁が左右に開き、隠し階段が出現したではないか。


「おおー」


 これにはフランも目を輝かせている。いやー、隠し通路とかロマンだよな。


 その階段をフェイスに先導されて降りていくと、少々広めの地下室があった。10人くらいが使えそうなサイズの、豪華な円卓が部屋の中央に置かれている。


 座っていたのは3人の男女だ。まだ味方とも限らないので、遠慮なく鑑定させてもらう。それぞれ戦闘力は低いものの、面白いスキル構成である。


 真ん中に座っている傷だらけの禿頭の男は、外見もスキルも典型的な盗賊だった。斥候系冒険者と似たスキル構成である。盗賊のまとめ役に相応しく、カリスマや指揮系の能力もきっちり揃っていた。ただ、フランを見た瞬間、盛大に頬を引きつらせたな。


 その右に座る30代前半のイケメンは、完全に結婚詐欺師だ。演技系のスキルと、嘘と恫喝に役立ちそうなスキルを複数持っていた。異性誘引スキルと女殺しの称号もある。セルディオの野郎に少し似ているな。さらに魔術も多少使えるようだ。


 左の婀娜っぽい美女は娼婦の元締めであるらしい。男を篭絡するためのスキルに加えて、毒物に関するスキルが豊富だった。毒に詳しい娼婦。めっちゃ怖いんですけど!


「では、私はこれで」

「おう。ご苦労だったな」


 フェイスは3人に頭を下げて部屋を出ていく。


「お、俺はフィスト」

「私はオネスト」

「あたしはピンクよ」


 全員偽名だった。いや、犯罪者なんだし、それも当然か。真ん中の男がフィスト。詐欺師がオネスト。娼婦がピンクだ。


 フィストは大量の汗を流しながら、震えた声で挨拶してくる。フランの実力を察知して、恐怖を抱いたのだろう。その目が壁や床を確認するのが分かった。


 一見護衛もいないように見えるが、この部屋の周囲に10人以上の気配がある。至るところに隠し扉が存在しており、その中に護衛を潜ませているのだろう。


 フィストはその護衛を使って、フランをどうにかできるか考えたようだ。そして、無駄だと悟ったらしい。それで逆に落ち着きを取り戻したようだった。多分、開き直ったのだろう。


「冒険者のフラン」

「お、おう。実はこちらとしても嬢ちゃんにはちょいとばかり用事があってな。じ、実は今回のことがなくても、接触するつもりだったんだ。まあ、適当に座ってくんな」


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― 新着の感想 ―
[一言] ···あの···娼婦さん? ···もっとこう···マシな偽名が在ったでしょ··· ···何だよ「ピンク」って···
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