430 襲撃の結果
予約の設定を誤って明日の8時に設定しておりました。
遅れて申し訳ありません。
「ふぅ……」
『勝ったな』
剣神化を解除したフランは、片膝をついている伯爵を回復させる。どうやら朦朧としながらも、フランが襲撃者を倒したシーンは見ていたらしい。むしろ、あの光景を見たことで、驚きすぎて一瞬意識がハッキリしたそうだ。
回復した直後、フランにつめ寄ってくる。ただ、その顔には問い詰めるような色はなく、純粋に称賛と驚きがあるようだった。
「おいおいおい! 今のは……なんだったんだ?」
「ん?」
「何があったかわからんが、凄まじいことが起こったのは分かったぞ!」
どうやら伯爵が朦朧としていたおかげで、剣神化を使ったことはばれていないらしい。
「さすが黒雷姫……。獣王陛下に気に入られるだけはあるな。いや、今はそれより――」
「む!」
伯爵の言葉を遮って、フランが俺を構える。
「また来たか!」
屋敷の中では未だに戦闘の気配があった。窓ガラスが割れた音や、魔術による爆発音が響いてくる。
「――」
「伯爵、下がって」
「俺も戦える! くそ、皆は無事なのか!」
10分後。
襲いかかってくる襲撃者を2度撃退し、ようやく他の場所の救援に向かっていた。剣神化の後遺症によって戦闘力は低下しているが、相手が1人であったうえ、こちらが2人であったおかげでどうにか勝利できたのだ。
「この部屋だ!」
「ん」
2人が向かったのはベルメリアの部屋である。中からは戦闘の気配はないが、ベルメリアたちの気配もない。
「無事か!」
「っ! フレデリック」
部屋は凄まじい惨状だった。ベッドや本棚の残骸が散乱し、壁や天井には深い傷跡が穿たれている。その中に襲撃者の死体が2つ。そして、フレデリックが倒れている。
その体からはおびただしい量の血が流れ、腹と背には剣が1本ずつ刺さっていた。その剣が邪魔をするせいで、横を向いた少々歪な格好で倒れている。
『グレーター・ヒール!』
「少し、我慢して」
ギリギリ死亡してはいなかったらしい。回復魔術が効いてくれた。フランは急いでフレデリックに近づくと、その体から一気に剣を引き抜く。ああ、これは単なる剣だ。疑似狂信剣ではない。
「がぁぁぁ!」
剣を抜かれたことによる激痛でフレデリックが覚醒するが、これが刺さったままだと回復しにくいのだ。ここは許してくれ。フランがちょっと乱暴だったのは否めないが。
俺たちはさらに回復魔術を重ね、フレデリックの救出に成功した。だが、血を失って体力の低下しているはずのフレデリックが、無理やり立ち上がって窓の方へ向かう。
「だめ、休んで」
「ベルメリアが……! さらわれた!」
「なに! どういうことだ!」
「俺がついていながら、もうしわけ、ありません」
なんと襲撃者の一人がベルメリアの意識を奪い、窓から逃走したという。奴らの目的はベイルリーズ伯爵の命だと思っていたが、違っていたのか? いや、それに失敗したから、目的を切り替えた? ともかく、ベルメリアが連れ去られたのは10分以上前のことであり、追うことは難しそうだった。
『ウルシが戻れば……。いや、そもそもウルシなら気付いているかもしれん。それを待とう』
「……ん」
闇雲に追っても、追いつけるとは思えない。それに、まだ敵は残っているのだ。
「……まずは屋敷の敵兵を排除する」
「閣下! ですが……」
「娘1人の為に、配下を見殺しにはできん!」
「くそっ! 俺が昔のように……!」
フレデリックを救命してから30分後。
屋敷の兵士たちに大きな被害を出しながらも、なんとか襲撃者たちを倒しきることが出来ていた。
襲撃者は全部で25人。伯爵側の被害は使用人なども併せると40人を超えていた。怪我人は15人程だろう。無事な人間は一人もいない。最初の魔術で屋敷の隣にあった兵士の詰め所を焼かれたのも、被害が拡大した理由であるらしかった。
怪我人の中にはコルベルトも入っている。彼も、瀕死の状態であったが、一命をとりとめることはできた。もう少し遅ければ左足を失っていただろう。処置が間に合ってよかった。
「……普通の武術も鍛えないとな……」
デミトリス流武技が疑似狂信剣の効果で封じられた中、1人で3人を葬っているのだから凄いんだけどな。コルベルトは悔しそうだ。同僚たちの変わり果てた姿を見て、さらにその想いを強くしたらしい。歯を食いしばり、激情に耐えている。
「……こんな真似、どこの誰が……」
「心当たりは多すぎるが……」
最も怪しいのはアシュトナー侯爵なんだが、証拠はない。俺はこのまま殴りこめばいいと思うんだが、王都内で兵士を動かす以上、証拠があやふやでは済まないらしい。その辺をユルユルにしたら、反乱とかもしやすくなるだろうから仕方ないんだが。
フレデリックとコルベルトが何人かを調べたところ、ハムルスやゴードンと同じ様に、大量の魔薬を投与されていることが分かった。
魔薬には摂取した人間の精神を昂ぶらせて思考力を奪う効果の他に、魔力の暗示などが掛かりやすくなる効果もあるそうだ。それ故、魔術を使った洗脳などに非常に有用であるらしい。
「こいつは……」
5人目の襲撃者の遺体を確認していたコルベルトが、不意に首を傾げた。そして、襲撃者の顔をじっと見つめる。フランが最初に倒した、剣士だな。
「どうしたの?」
「フラン嬢ちゃん、こいつに見覚えはないか?」
「ん。私が倒した」
「いや、そうじゃなくて……そうだ! こいつは冒険者だ!」
ランクC冒険者だった男であるらしい。なるほど、高位冒険者を操っていたわけか。他にも何人か、コルベルトが見覚えがある冒険者たちがいた。コルベルトが覚えているだけあって、全員がランクC、ランクBの実力者たちだ。
そのコルベルトも、襲撃者に刺さっていた謎の剣を前にして首を捻っている。
「この剣は一体何なのか……。フレデリックに見覚えは?」
「ある。フランもあるだろう?」
「ん」
「宿を襲ってきたあの魔剣だ。この趣味の悪いハンドカバーは絶対に見間違えない」
フレデリックがゴードンを操っていたと思しき魔剣と、今回の襲撃者たちに刺さっていた魔剣の類似点をコルベルトに説明する。
「つまり、この魔剣自体に意思があって、こいつらを操っていたってことか?」
「その可能性はあるが……。宿で見た魔剣は半壊していたので分かりづらかったが、長剣だったと思う。それに、あちらは普通に手に装備されていたし、自在に動いていた」
「勝手に動く剣ってことか? この剣は動く気配はないが?」
「全く同じ物ではないということなのだろう。感じる力も遥かに弱いからな」
そんな話をしていると、屋敷にウルシが戻ってくる気配があった。これでベルメリアの行方を追うことができるだろう。
「ウルシ、戻ってきた」
「そうか!」
その言葉を聞いて真っ先に喝采を叫んだのは、ベイルリーズ伯爵ではなく、フレデリックであった。




