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429 襲撃者撃退


「たぁぁ!」

「――」

『うっ』


 フランが襲撃者を疑似狂信剣ごと斬り捨てると、その魔力が俺に流れ込んでくる。共食いが発動したのだ。


 当然だろう。相手は神剣ファナティクスの模造品と思われるのだ。つまり、俺とは廃棄神剣仲間ってことだ。


 いや、もしかしたら神剣でも食えるかもしれないが……。あの超兵器たちを破壊できるとは思えん。


(師匠、平気?)

『大丈夫だ』

(共食い、外したら?)

『いや……たとえわずかだとしても、自己進化に頼らずに強化される機会を逃したくはない。このまま行く』

(分かった。次の獲物さがす)

『おう』

(でも、無理しないで)

『ああ、分かってるよ』


 ドオオオォォン! ドゴゴオン!


 屋敷の中からは、魔術によるものと思われる散発的な破壊音と、人々の悲鳴が聞こえていた。全ての襲撃者たちが操られていて声を上げないと考えると、この悲鳴は全て屋敷の兵士たちのものということになる。


「――」

「しっ!」

「――」

『こいつも強い!』


 襲撃者たちはどいつもこいつもかなりの実力者だ。ほぼ全員が剣聖術を所持し、しかも潜在能力解放状態。さらに魔術や放出系スキルを打ち消す効果がある。


 狭い場所ではフランの速度も生かしきれず、一撃で倒すのはなかなか難しかった。魔術で遠距離狙撃が出来れば楽なんだが、打ち消されるからな。


 それなのに向こうはバンバン魔術を放ってくるのだ。かなり厄介だった。


「――ウィンド・カッター」

「はぁぁ!」


 襲撃者の女が放った風魔術を搔い潜りながら、フランが一気に接近する。死角を取られながらも反応する襲撃者だったが、ここまで近寄ってしまえば純粋に剣術の腕前勝負だ。数合の斬り合いの末、襲撃者は倒される。


『再生能力まで持ってやがったな』

「ん。ウザい」


 フランだからこそウザい程度で済んでいるが、兵士たちにはきついだろう。いくら鍛錬を積んでいて強いと言っても、それは兵士としてはってことなのだ。


「ぐあぁ!」

『フラン!』

「ん!」


 近くの扉を突き破って、血まみれの兵士が吹き飛ばされてきた。受け止めた兵士にフランがとっさに回復魔術をかけてやろうとしたんだが、発動しない。


『だめだ! 疑似狂信剣を先に破壊しろ!』

「わかった!」

「――」


 兵士を追うように斬り掛かってきた剣士の手から剣を絡めとって奪い、襲撃者の顎を全力で蹴り飛ばす。首の骨が折れて体勢を崩した剣士の心臓をそのまま一突きして命を奪った後に、倒れた剣士の首に俺を叩き込んで疑似神剣を叩き斬った。やはり1対1の斬り合いであれば問題ない。


『よし、近くに疑似狂信剣がなければ魔術は使えるな』


 瀕死だった兵士の回復は間に合った。軽く頬を叩くと、目を覚ます。


「大丈夫?」

「う……あなたは……」

「傷は治した。痛いところはない?」

「ありがとうございます……。食堂の皆はどうなって……」

「任せて」


 傷は癒えても、血を流し過ぎたせいで動くことが出来ない兵士を残し、フランは彼が飛び出てきた部屋に入る。


 兵士の言っていた通り、召使や兵士のための食堂であるようだ。広い部屋の中に、数人のメイドさんや兵士たちが倒れ伏しているのが見えた。絨毯が赤いのかと思ったら、灰色の絨毯が血で染まってるのか!


「――」

「む!」


 襲撃者に斬りかかろうとしたフランだったが、相手が意外な行動に出た。なんと、足元で気を失っているメイドさんに刃を突き付けたのだ。明らかに人質にしている。


 まさかこの襲撃者たちがこんな知能的な行動をとるとは思っていなかったので、驚いてしまった。


「――」


 だが、こいつら自身は思考能力がないとしても、操っている者がいる。それがどんな方法で、どこまで細かい命令を下せるのかは分からないが、少なくとも個々の襲撃者に細かく的確な動きをさせることはできるのだろう。


「――」


 襲撃者は何をするでもなく、ただメイドさんの首筋に刃を当てたままだ。これでは無駄に時間が過ぎてしまうだろう。多分、仲間が来るまでの時間を稼ぐつもりなのだ。


『フラン、俺がやる』

(わかった)


 フランは俺の言葉に軽く頷くと、さり気なくその切先を襲撃者に向けた。


「――」


 襲撃者は警戒するように、軽く身構える。だが無駄だ。


『どりゃぁぁ!』


 俺たちの距離は大分離れている。大きな食堂の端と端だ。そのお陰で、魔力打ち消し効果がこちらまで届いていなかった。


 となればやることはただ1つだ。


 念動カタパルトで飛び出した俺が、襲撃者の頭と疑似狂信剣を粉々に砕く。パワーアップしていようとも、この距離の念動カタパルトには反応出来なかったようだな!


スキルを打ち消せたとしても、最初に得た加速を止められる訳じゃないのだ。狙い通りである。


『こいつらの目的が分からないが、とりあえずベイルリーズ伯爵のところへ行こう!』

「わかった」


 部屋で倒れていた者たちの中でもまだ息があったメイドさんを手当てした俺たちは、彼女を兵士に任せて2階にいる伯爵の護衛に向かうことにした。


 伯爵自身がかなりの腕前なので大丈夫かとも思っていたんだが、敵が思った以上に強い。もしかしたら伯爵であっても危険かもしれなかった。


 階段の上から魔術で狙ってくる襲撃者の攻撃を、壁と天井を足場にした三次元の動きで躱しながら距離を詰め、斬り倒す。


 そうやって敵を排除しながらベイルリーズ伯爵の執務室に駆け込むと、そこでは伯爵が満身創痍の姿で膝をついていた。利き腕から血を流し、剣が握れないらしい。


 しかも、襲撃者が今まさに追撃を仕掛けようとしている。間一髪だったようだ。


『やべー! 助けないと!』

「ん! はぁ!」


 伯爵を囲む襲撃者の内、最も近い男に背後から近寄り、右肩から左脇までを奇襲で袈裟切りにする。


 さらにその場で時計回りしながら、左側にいた男の胴を水平に薙ごうとしたのだが、それは躱されてしまった。


『背後からの攻撃を避けるのか!』


 流れを重視するのであれば、右の男を斬った勢いを生かして反時計回りで斬り掛かればよかった。最速で攻撃できただろう。ただし、それでは敵にとっては正面からの攻撃になってしまう。


 それ故、あえて勢いを殺してでも時計回りで背中から斬り掛かったのだ。しかし、襲撃者はその斬撃をバランスを崩しながらも身を捻って回避していた。


 どうやらここにいる5人――今は4人だが。こいつら襲撃者の中でも特に腕利きであるらしい。剣聖術のレベルが5。しかも身体能力も高かった。


「黒雷姫か! 助かった!」

「下がって!」

「ちっ。ポーションさえ使えれば俺も戦えるんだが」


 伯爵が悔しげにつぶやき、足元の絨毯にできた水の染みを睨みつける。その近くには空のポーション瓶が転がっていた。


 どうやら腕の怪我を治そうとしてポーションを振りかけたが、魔力打ち消し効果によって単なる水に変えられてしまったらしい。


『フラン! こいつら全員魔術を持っている。伯爵を守りながら戦うのはキツイ!』

「ん! 一気に決める! 剣神化!」


 鍛錬の場ではない、実戦では久しぶりの剣神化だ。力が俺の中に宿ったのが分かる。同時に刀身が内側から軋み、カウントダウンが始まったのも分かった。


 敵の数が不明な長期戦覚悟の戦場では、身を削るタイプのスキルは使い勝手が悪いんだが、ここはそうも言っていられない。


 それに、短期間しか使えないとしても、単純に剣術の腕と威力が上昇する剣神化は、魔力打ち消し能力と相性が良かった。


 圧倒的という形容詞が可愛く思えるほどの、強者の気配を振りまきながら、フランが前に出る。その内で暴れ回る力や、身に纏う存在感とは裏腹に、その顔は落ち着いていた。


 この襲撃者たちに怯えと言う感情があるのかは分からないが、フランが危険な何かに変わったということは理解できたのだろう。一斉に襲いかかってくる。


「――」

「しっ」

「――」

「ふっ」

「――」

「はっ」

「――」

「ていっ」


 そして、終わりだ。


 なんか、凄く虚しい。それほどにあっさりと決着がついていた。それぞれが剣聖術を持ち、死への恐怖がなく、仲間の為に平気で自分を囮にする相手を、4度剣を振っただけで倒してしまっていた。剣神化では神属性が付与されるらしいが、そんなもの必要なかっただろう。


 それぞれの斬撃が剣王技に匹敵する威力であった。だが、考えてみると当然なのだろうか? 剣王技は究極の斬撃だ。全てが揃った完璧な一撃、それが剣王技であると俺たちは思っている。


 剣を真に極めて、繰り出す斬撃全てが完璧になれば? 何気ない斬撃さえも、剣王技並になるのでは? いや、剣王技がその斬撃を再現するための技なのかもしれないが。


 本当に剣神がフランの体を動かしているわけではないだろうが、これこそが剣王術を超えた神の領域なのだろう。


 まあ、だからこそ、俺たちへの負担が凄まじいわけだが。剣神化を解除した俺たちは、互いに深い息を吐き、互いの無事を確認した。


(師匠、平気?)

『なんとかな……。1回斬るごとに耐久値がバンバン減るし、生きた心地がしなかったぜ。フランはどうだ?』

(疲れた)


 減った耐久値が全然回復しないし、フランの消耗もハンパない。やはり実戦では使いづらいスキルであった。


次回以降は、7、10日に更新です。

その後、元のペースに戻す予定です。

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