41 異世界クッキング
昨日は2話投稿しましたが、本日からまた1日1話の更新となります。
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ありがとうございます!
さらに気合入れて頑張ります。
ゴブリン討伐から7日。
俺たちは深夜の宿の厨房にいた。
フランとの約束通り、料理を作ってやるためだ。まあ、剣がフワフワ浮いて料理を作っている姿を見られたら騒ぎになるどころじゃすまないので、フランも一緒なのだが。
食堂が閉まっている深夜なら使って良いと、許可をもらっている。これで、思い切り料理が作れるぞ。
『チャンチャンチャラチャチャチャララ~』
「ちゃんちゃん?」
『チャンチャラチャンチャンチャン~』
「?」
『はい、異世界クッキングの時間です』
「お~?」
意味が分からなくとも雰囲気を察したのか、フランがパチパチと拍手をしてくれた。
『本日最初のお料理はこちら!』
「お肉?」
『はい、用意したのはロック・バイソンと、クラッシュ・ボアの挽肉、30キロずつです』
さらに、玉ねぎによく似たルナチューリップの球根。黄金鶏の卵、パン粉、スパイス各種を用意した。
『じゃあ、フランはそれを捏ねてくれ』
「ん」
『どうせなら、作れるだけ作っちゃうからな』
「これで、毎日師匠の料理が食べれる」
『称号がある分、フランの方が料理が上手いはずなんだけどな』
「知らない物は作れない」
『だよな』
フランが食べたいのは地球料理だからな。俺しか作れないんだよね。似た料理はあっても、洗練度合いが違うのだ。
という事で、俺はルナチューリップの球根をミジン切りにしていく。ミジン切りにはオーラ・ブレードを使うことにした。
これまでは、煮沸消毒した上で浄化魔術でキレイにした俺自身を使っていたのだが……。魔毒牙とか使っているし、魔獣も斬りまくっているし、ちょっと不安を覚えたのだ。今までにフランが不調を訴えたことはないが、今後もそうだとは限らないしね。
ミジン切りにしたルナチューリップを、フライパンでじっくり炒める。
『混ぜ合わせた合い挽き肉に、玉ねぎモドキ、つなぎ、スパイスを投入して、さらにまぜる』
「任せて」
俺も、残った合い挽き肉を念動で混ぜ合わせた。こうして出来上がったのは、特製ハンバーグのタネ60キロだ。
正直作りすぎた感はあるが、次元収納に仕舞っておけば腐らないからな。
『ハンバーグを順次焼いていくぞ』
「ん」
巨大オーブンを使い、さらに魔術を使って工程を省略しても、1回では全部焼くことができない。
『その間に、次の工程だ。この野菜類を全部切って、鍋に入れていきます』
「ん」
『じゃあ、俺も切るぞ』
魔獣肉以外の材料は、豊富に用意してある。市場の雰囲気に当てられて、調子に乗っていたことは認めよう。本能の赴くままに、買いまくってしまったのだ。ソースや醤油などは甕買いしてしまった。スパイスも大袋で買いまくった。超特大サイズの鍋も複数購入した。
おかげで、10万ゴルドも使ってしまったよ。はっはっはっは。いや、フランには美味い食事で還元するよ? まじで。
『これに水を張り、スパイス類を投入』
そして、魔術で熱を加えつつ、念動と魔術でミキサーの様に野菜を粉砕だ。
出来上がったのは、特製デミグラスソースだった。きっといい匂いがしていることだろう。
さらに、トマトソース、コンソメスープ、チキンブイヨンなどを作る。この辺はフランに材料と作り方を指示して、やってもらう。
「ぐるぐる」
『そうそう、そうやってかき混ぜていくんだ』
ハンバーグが3回焼き上がる頃には、全てのソース、スープが出来上がった。
よしよし、市場で仕入れた調味料と合わせれば、最早どんな料理でも作れるぜ。
ハンバーグは、デミグラスソースに潜らせた物を、次々と次元収納に放り込む。皿の上に取り出せば、熱々デミグラハンバーグをいつでも食べることができるという寸法だ。
同じように、トマトソース味、和風ポン酢味も作っていく。
この後も、タイラント・サーベルタイガーの角煮や、ブラスト・トータスのから揚げ。ドッペル・スネイクの蒲焼に、ストーン・スパイダーのフライ。ロック・バイソンのタンシチューに、クラッシュ・ボアの生姜風焼き。他にもソーセージやベーコン、ジャーキーや肉味噌など、色々作りまくった。
『よし、肉料理はあらかた作り終えた』
「ん!」
もう夜が明ける。今日はこんなところだな。続きは明日だ。
そして、翌日の夜。俺たちは再び厨房にいた。
今日は魚料理からだ。俺が持っている魚素材はマッドネス・フィッシュの肉しかないんだけどね。これを、煮つけ、塩焼き、天ぷらにしようと思う。
ムニエルなんかも考えたけど、やっぱ日本人なら和食だろ! いや、自分で食べる訳じゃないんだけどさ。
因みにあの毒沼は、突如消え失せた毒沼っていう怪談話になっているらしい。ネルさんは俺たちが何かをしたって分かっているだろうけど、冒険者の情報を言いふらす様な人じゃないしね。まあ、ちょっとやりすぎたかもな……。
おっと、考え事をしている間に煮つけが完成だ。良い色合いである。
メイン料理はこのくらいかな? だが、まだ終わりじゃないんだぜ?
次は副菜。最初にスープを作っていく。昨日作ったスープ類を流用するだけだが。塩コショウで味を調え、具材をぶち込むのだ。ソーセージがゴロゴロ入ったコンソメスープとか、美味そうだろ?
さらには、マッドネス・フィッシュの骨を使い、魚出汁の中華スープも完成した。
勿論、野菜炒めやサラダも忘れない。栄養バランスはしっかりしないとね。フランは育ち盛りなんだし。いや、結構気になっていたのだ。最近は多少ふくよかになってきたが、町にいる他の子供と比べたら、やはり線が細い。それに、背も少し低い気がする。なので、食事は重要なのだ。
「ん?」
『いや、なんでもない。次は主食だ』
なんと侮れんことに、アレッサの市場では米を売っていた。この地域は、南北の交わる場所にあるらしく、米も小麦も食べられている様だ。
米をホッカホカに炊き上げていく。このために、土鍋を複数入手したほどだ。
無論、小麦粉もあるぞ。うどん、パン、ナン、お好み焼きと、炭水化物のオンパレードである。パンは標準的なバゲットタイプの物と、日本人が大好きな食パンを作った。
中華麺も作ったぞ。市場でかん水らしきものを入手できたからだ。麺に練り込むと、上手く練ることができる不思議な水と言っていたから、間違いないと思う。なので、ラーメンや焼きそば等もどんとこいである。
そして、米とナンがあるからには、アレを作らない訳にはいかないだろう。
『じゃあ、次は特別な料理を作ろうと思う』
「特別?」
おいおい、そんなに目を輝かせるなよ。頑張っちゃうぜ?
「なに?」
『スペシャルでハイパーな超料理! その名も――カレーだ!』
「かれー? 知らない!」
『ふふふふ。まあ、見てろ』
カレーは俺の大好物だった。今の俺自身は食べられないし、全く食欲が湧かないが、美味い物をフランに食べさせてやりたいという想いはある。なので、カレーだ。これしかないだろう。
『こうやって、スパイス類を砕いてだな』
「ちょー豪華」
『美味いカレーを作るためだ』
「これを炒める?」
『おう。こう混ぜ合わせながら、火を通していくんだ』
「ふむ」
1時間後。俺たちの前には、業務用サイズの鍋3つに、満タンのカレーが生み出されていた。
最初は、普通サイズの鍋で作ったのだ。スパイスは高いしね。
だが、味見をしたフランの喰いつき方が凄まじく、あっと言う間に喰い尽くしてしまった。その後、フランの催促により、全スパイスをぶち込んで、カレーを大量作成したのであった。
それぞれ甘口、中辛、辛口で、使っている肉や野菜も変えてある。我ながら、最高の出来だ。日本に持っていけば、商売できる自信さえある。
「この料理に出会うために生まれてきた」
『そこまで!』
「ありがとう師匠」
『今までで一番感情がこもったありがとうな気がするぞ』
フランがカレーばかり食べないようにしないとな。
多分、2日間で作った料理を全部合わせたら、2000食分はあるだろう。つまり、1年分以上の食料という事だ。フランは体に似合わず大食いなので、もっと早く食べ終わる可能性が大だが。
まあ、これでしばらく食事の心配をする必要がなくなった。
「とりあえず、カレーをもう一杯」
『さっき食べただろ』
「おねがい」
『……仕方がない。一杯だけだぞ?』
「ん!」
フランはしっかり運動もしてるし、一杯くらいはいいよな?




