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427 竜人の今


 話は終わりだというベイルリーズ伯爵に部屋を追い出されたフランたち。コルベルトが呆れた様子で溜息をついている。


「はぁ。フレデリック、ベルメリア嬢ちゃんを追わなくていいのか?」

「ああ。部屋にいるようだし、今はそっとしておく方がいい。今声をかけても、頑なになるだけだ」

「さすが、教師役なだけあるな。分かってるじゃないか」


 ベルメリアの教師役はやはりフレデリックだったか。だからこそ気安い関係なのだろう。


 ただ、俺は1つ気になることがあった。ベイルリーズ伯爵が過保護なのは分かった。過保護というよりは心配性って感じだったけどね。


 だが、だとしたらどうして戦士や密偵として育てているんだ? 本当に心配だったら、深窓の令嬢として育てればいい。貴族の中には戦いのことなど知らない、日がな一日習い事をして過ごすような少女たちだって多いだろう。


 妾の子供だとしても、家名を名乗らせるということは認知しているようだし、それなりの教育を受けさせることも可能なはずだ。


 フランがその疑問を口にすると、フレデリックとコルベルトが答えてくれる。


「色々と事情があるのだ……」

「ま、ここで立ち話もなんだ。下で茶でも飲みながら話そうぜ」


 コルベルトの提案通り、食堂でお茶を飲みながらベイルリーズ伯爵家や、ベルメリアの事情を教えてもらう。


 まず、何故ベルメリアに戦闘技術を教え、戦士として育てたのかと言う疑問の答えだが、それは単純に家風であるからだという。


「ベイルリーズ伯爵家は武の名門。男女問わず、騎士としての教育を受け、軍に入団する。妾の子と言えど特別扱いは許されん」

「むしろ、妾の子だからじゃないか? これでベルメリア嬢ちゃんだけを特別扱いしたら、本妻よりも妾の方を愛しているに違いないなんて話になる」

「そうだ。そうなって最も傷つくのは、結局ベルメリアだからな。シドレ様も心を鬼にして、ベルメリアを鍛えていた」

「ま、あの奥方に睨まれたら最悪だからな。何度か会ったことがあるが、おっかねー人だったぜ? 冒険者なんか盗賊の親戚ぐらいに思ってるんだろうな。虫けらでも見るみたいな目で見てくるんだ。それでいて、それを取り繕う外面の良さも持っててよ。これぞ貴族の奥方って感じだったな」


 なるほど、母親と遠く離れてベイルリーズ伯爵家で暮らすベルメリアにとって、本妻との仲というのは重要なことだろう。


「まあ、だからこそ妾の子であってもそれを理由に邪険にはしないんだろうがな。妾なんて貴族としては当たり前の話だし、妾腹としての分を弁えた態度でいれば目くじらを立てることもしないだろう」


 肩身の狭い思いをさせないようにと考えたら、むしろ厳しくせねばならないらしい。少なくとも、本妻の子よりも優遇することは、何があっても許されないに違いない。


 ただ、そこでまた新たな疑問が生まれた。


「……ベルメリアは騎士じゃないの?」


 ベイルリーズ伯爵家の人間は騎士になるべく教育されるという。だが、ベルメリアは密偵として育てられている。妾の子でも、伯爵の娘であれば騎士にはなれそうなものだが……。


 しかし、それは妾腹云々という話とは別の話であるらしかった。むしろネックになっているのは、種族であるという。


「種族? 半竜人?」

「ああ。クランゼル王国では、我らのような半竜人だけではなく、竜人自体が特別な身分を得ることが許されていない。そこには当然、騎士に叙勲されることや、公の組織の要職に就くことも含まれる」

「なんで?」

「竜人は忌種と言われているからな」

「忌種? 嫌われてるの?」

「ふふ。そうだな」


 フランの不躾な言葉に、フレデリックは苦笑いする。ただ、長年虐げられてきた黒猫族であるフランの言葉だからだろうか。気分を害した様子もなく、竜人が各国でどのような扱いを受けているのか教えてくれた。


「ゴルディシアの悲劇を引き起こしたトリスメギストスは、竜人の王だった。それが最大の原因だ」

「でも、竜人全員が悪いわけじゃない」

「いや。神の裁きを受けたのはトリスメギストスだが、竜人はかの王を熱烈に支持し、その後押しをした。世界を征服し、優良種たる竜人の下に世界を繁栄させるなどという下らぬ妄想を抱いてな」


 トリスメギストス個人が悪いのだと思っていたが、実情はそうではないらしい。竜人族全体が、彼の野望と研究を歓迎していたようだ。


「そして、竜人族の傲慢と強欲の結果が、世界を滅ぼしかけたあの事件だ。竜人族の侵略に悩んでいた各国は、神罰を下されたということを理由に竜人族の排除に乗り出した。表向きは神罰を受けた罪深い種族であるとしていたが、裏では種族として野心や向上心の強い竜人族を恐れていたのだろう」

「まあ、竜人族は種族として強力だからな。人間種からしたら目の上のたん瘤だったんだろうよ。今でも蟲人族、ハイエルフと並んで恐れられているしな」


 竜人族が強いのは何となく分かる。なにせ竜だし。だが、蟲人族とハイエルフ? 竜人に並ぶほど強いのか? フランも知らないらしく、首を傾げている。


「嬢ちゃんは知らないか? 最凶の竜人。最狂の蟲人。最強のハイエルフ。そんな風に言われているんだぜ?」


 竜人は大陸一つを支配する程の軍事力と、個としての強さを兼ね備えた種族でありながら、自分たちも周囲も不幸にするという意味で、最凶。


 蟲人族は個体差があるものの、戦士階級の者たちは圧倒的な能力を生まれつき備えているらしい。その戦闘力は、最低でもランクC冒険者レベル。さらに国家への忠誠心が高く、人間とは違う価値観を有しているため、人間から見ると狂っているとさえ見えることがあるそうだ。それ故、蟲人族には最狂という冠が与えられているらしい。


「半蟲人には会ったことがある。普通の人だった」


 エリアンテだって半蟲人だが、どう見ても普通だったけどな。だが、それは半分人種の血が混じっているからであるらしい。


「ああ、半蟲人はな……。純血の蟲人。しかも上位種は大分違うんだ」


 蟲人は生まれた時から、指導者層の貴種。戦闘特化の闘種。文官のような役割の導種。他国で言う平民にあたる民種の4階層に分かれるそうだ。しかも、貴種の子供だからといって貴種になるわけではなく完全にランダムであり、生まれた子供の種によって厳密に分けられる。


 そんな4階級の蟲人の中でも、貴種、闘種、導種は生まれながらに国への帰属意識と忠誠心が刻み込まれており、民種とくらべて理解し難い部分が多いらしい。


「民種になると、とたんに普通の人と変わらない感じなんだけどな」

「外見も能力もな」


 面白いな。もしかして上位種は某ライダーのような外見なのだろうか? 非常に興味がある。いつか蟲人の国にいってみたいものだ。まあ、安全だったら、だけどね。


 そして最後にハイエルフである。エルフというのは長寿であるが故に、非常にのんびりとした性格をしている。しかも年を取る程にその性質は強まり、300歳を超える頃には日がな一日寝て過ごすようになるそうだ。


 だが、時にエルフらしからぬ好奇心と行動力を発揮し、齢を経ても自らを鍛え続ける個体が出現する。そんな特別なエルフが数百歳かけて延々と成長し続けることで進化を果たすのだ。それがハイエルフ。全世界に数人しかいないものの、どの個体もランクSレベルの強さを有しているという。


 ただでさえ魔力に優れたエルフが、数百年間成長し続けるのだ。その力は圧倒的なんだろうな。見たことがなくとも想像は出来る。


「おっと、話が逸れちまったな。ともかく、クランゼル王国では竜人の血を引いている限り、騎士にはなれんということだな」

「だが、ベイルリーズ伯爵家で育てられる以上、ベルメリアを鍛えることはせねばならない。結果として密偵として育てられることになったのだ」

「将来的には正妻の息子たちに仕えて、ベイルリーズ伯爵家の役にも立つしな」


 つまり、怖い奥方様に対して役立つことを示せるうえ、騎士の下に見られる密偵という存在になることで分を弁えてますアピールにもなるわけだ。


「とはいえ、伯爵からしたら唯一の娘だ。本当はベルメリア嬢ちゃんが可愛くて仕方ないのさ。本妻の手前、大声じゃ言えないんだろうがな」

「だから、危険な任務から外した?」

「ああ。そうだろう」

「ベルメリア嬢ちゃんは不服だったみたいだがな。親の心子知らずとは言うが、この場合は逆だろうな。明らかに過保護すぎる」

「……気持ちは分かるがな」

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