40 毒のある魚ほど美味いらしい
本日2話目
このところ、設定の修正などでお騒がせしてしまったお詫び的な?
ゴブリン討伐から2日。
俺たちは冒険者ギルドに来ていた。依頼を探すためだ。
お金の為ではない。今は懐が温かいのだ。
討伐戦で手に入れたホブゴブリンの角、武具、アーミービートルの素材を全て処分したら、3万ゴルドにもなった。雑魚の素材を売ったにしては、高い方だろう。実は、ホブゴブたちの装備に、弱いマジックアイテムが混じっており、それが結構高かったらしい。
さらに、ゴブリン討伐の依頼料でもかなりのボーナスが出た。参加者の基本報酬が3万ゴルド。ボーナスで4万ゴルド。フランには特別ボーナスがさらに30万ゴルド。
素材を売った分と合わせたら、計40万ゴルドもの収入だ。まあ、酒場で奢ったせいで、10万減ったけどね。他の冒険者たちにも結構なボーナスが入ったようで、朝から冒険者たちに礼を言われまくって大変だったな。
今日の依頼は、経験を積む為のものである。変則的にランクアップしてきてしまった為、俺たちにはまともに依頼をこなした経験が少ない。ヒール草の採取だけである。
なので、ここらで普通の依頼をこなしておこうと考えたのだ。
『さて、Dランクのフランが受けられるのは、C、D、Eの依頼だけか』
GやFのお手軽依頼はもう受けられない。経験を積むには、悪くない依頼だったんだけどな。
『採取依頼、護衛依頼、街道の巡察に、魔法を使った建築補助?』
「討伐依頼がいい」
俺たちに一番都合がいいのが討伐依頼なのだが、掲示板にはその手の依頼がない。人気があるのか?
『ネルさんに聞いてみるか?』
「ん」
ちょうど、受付も空いているし。
「ネル」
「あら、フランちゃん。こんにちは」
「こんにちは」
「こないだのゴブリン討伐じゃ、大活躍だったみたいじゃない?」
「まあ」
「悪魔まで倒しちゃうなんて、すごいわね~。可愛くって強くって、素敵だわ」
「ありがと」
「きゃーん。照れるフランちゃんも可愛いわ!」
い、いつの間にこんなに仲良くなった? ほぼ24時間一緒にいる俺が、知らない間に仲良くなったのか? どこで?
「討伐依頼はない?」
「あー、今はないわね~。そもそも、この間のゴブリンスタンピードが異常なのよ? 普段、そう簡単に魔獣が湧いて出ることはないし」
そりゃそうか。討伐依頼が毎日出るくらい町の付近に魔獣が出没してたら、一般市民は生活できんだろうし。
俺たちが思っているよりも、アレッサの町近辺では魔獣の数が少ないようだった。
「分かった」
「あ、ちょっと待って。討伐依頼じゃないけど、魔獣に遭遇する確率のある依頼はあるわよ?」
「どれ?」
「えーとね……これよ」
何々? 毒沼の生態調査? 枯渇の森の手前にある沼に、魔獣が住み着いた可能性がある。埋め立て計画の前に、その有無を調査してほしい?
「時おり毒ガスを発生させる厄介な沼でね、行商人が毒被害にあったりしてるの」
その毒沼を埋めて被害を減らそうという計画があるらしいが、工夫を送り込む前に、危険がないかを調査する必要がある。特に、魔獣が住んでいるという噂があり、その調査が最優先だということだ。
「本来であれば、その調査をもとに討伐隊を送り込むんだけど……」
「倒してしまっても良いの?」
フラン、それは死亡フラグだぞ!
『フラン。それはダメだ!』
「? 倒さない?」
『いや、そう言う訳じゃないんだが……』
「倒してしまって構わないわよ。その方が手間も省けるし」
「ん」
仕方ない。俺が細心の注意を払うとしよう。
「ついでに、この依頼も一緒に受けない?」
「薬草の採取?」
「そう。新月草という薬草なんだけど、珍しい薬草でね。町の周辺には生えていないの。毒沼のそばでなら採取できると思うわ」
「分かった。それも受ける」
「ありがとう。健闘を祈るわね。またお風呂で会いましょ?」
「ん」
なるほど、宿の風呂か! まあ、良い傾向だろう。俺以外とも積極的に交流を持ってもらいたいものだ。
『地図だと……ランデルに出会った場所より、少し先だな』
「ん」
『今から出て、明後日、戻る感じか?』
寝袋や毛布、調理器具は買ってあるし、野宿の準備も万端だ。
「あれ?」
『そうみたいだな』
100メートル程先に、沼地が見えている。
街を出てからはあっと言う間だった。
途中で出会った魔物は、ブラック・バグと、ジャイアント・センチピードのみ。巣を潰したおかげか、ゴブリンには全く出会わなかった。
ダンジョンの外に出た魔獣は、数日経つとダンジョンの魔獣という括りから解き放たれる。なので、ダンジョンが死んでも、それらの魔獣は消滅せずに、ダンジョン外で生きていくことになる。
あのダンジョンを潰した時に、ホブゴブリンたちは消滅した。だが、それよりも前にダンジョンから出ていたゴブリンたちは、まだこの近辺に残っているはずなのだが……。
大半は逃げ散ってしまったのだろう。野営中も魔獣に襲われることはなく、めちゃくちゃ暇だった。
「毒の匂い……」
『状態異常耐性をセットしてあるし、毒呼吸、毒吸収もある。問題はないさ』
「魔獣の気配はない?」
『だな。ただ、沼の中に潜んでいたら、感知出来ていない可能性もあるぞ』
「魔術で攻撃」
『まてまて、下手に吹き飛ばしたら、毒がばらまかれちまうぞ』
最終目標は毒沼の被害をなくすことなのに、被害を拡大させてどうする。
『周辺被害が少ない方法は……』
「土魔術で埋める」
『沼がでかすぎる。土壌汚染も心配だし』
うーん。フランを残して、俺だけで近づいてみるか?
「沼を収納する」
『?』
「次元収納で、沼の水を全部吸う。そうすれば、魔獣をすぐに見つけられる」
『て、天才か? なるほど、それはいい』
どうせ埋め立てる沼だし、問題ないだろう。意識高い系の人なら、環境問題だとか自然破壊だとか煩いのかも知れないが。知らん! 異世界に来てまで、気にしていられないだろ。
『じゃあ、俺が収納して、沼の水をなくすぞ』
「ん」
良い実験にもなるしな。今のところ、俺の次元収納に限界は見えない。収納中の魔獣の素材などを合わせたら、25メートルプール半分程度の体積はあると思う。
そこに、この沼の水だ。結構大きい沼だし、深さによっては相当な水量があるだろう。
『よし、収納開始!』
ずずずずず――。
どんどん水位が下がっていく。
『と、止まらん』
あれー? 限界が来るどころか、もうすでに沼の水が半分に減っているんだが。それでも、収納が満タンになることはない。
『全部収納できてしまった』
「まだ行ける?」
『おう。多分、半分も埋まってないと思う』
25メートルプールなら、5杯分は吸い込んだと思うが。次元収納恐るべし。
「魔獣、沢山いた」
『あれか』
「魚」
見た目は、牛サイズのナマズだろう。
種族名:マッドネス・フィッシュ:魔魚:魔獣 Lv7
HP:100 MP:32 腕力:33 体力:39 敏捷:38 知力:10 魔力:22 器用:17
スキル
隠密:Lv3、気配察知:Lv3、毒分泌:Lv4、毒耐性:Lv7、土中潜行:Lv3、水魔術:Lv2、毒牙
説明:毒を体表から生み出し、他の水中生物を死滅させて身を守る厄介な魔獣。生活用水源に出現し、村を全滅させた例もある。毒に汚染された水でも育つ特殊な藻を主食としている。その身は非常に美味。毒耐性を有しているので、身に毒はない。脅威度E。魔石位置:頭部、脳内部。
弱い。ステータス的には雑魚だ。ただ、毒系の能力がある上、水中に潜っているところが厄介なんだろう。俺たち2人には、全く苦ではなかったが。
5匹いたが、サックリやっちゃいました。その場で解体だ。毒泥魚の鱗と毒袋、毒牙が剥げた。
身は美味しいらしいし、骨は良い出汁が取れそうだ。料理のバリエーションに魚料理が追加できるぞ。
『依頼は完了だな。後は、薬草採取して、とっとと帰ろう』




