414 魔剣の足掻き
フランと激しい戦闘を続けるハムルスだったが、その命運は尽きようとしていた。
ハムルスの変則的な動きに慣れてきたフランにはその攻撃を完全に見切られており、しかも潜在能力解放の影響で生命力が減り続けていたのだ。
しかし、追い詰められているというのにハムルスの顔には、相変わらず一切の感情が浮かんでいない。
『やっぱり剣が怪しいよな』
(ん)
実は戦闘をしながら、何度か大技でハムルスの持つ魔剣を破壊しようと試みたのだ。だが、その狙いは全て失敗してしまっていた。
例えば、属性剣・火と振動牙を多重起動した空気抜刀術で剣そのものを狙っても、まるで剣を守るようにハムルスが盾となって、防がれてしまった。
次に雷鳴魔術で麻痺させて剣を手放させようとしたんだが、何があっても剣だけは手放さなかった。
ずっと抱いていた疑問。
理性を失っているハムルスを操っている存在がいるのではないか? いるとすればどこにいて、どんな方法で操っている? どこかに隠れて魔術で操っているのか。事前に暗示のような物をかけているのか。
もしくは、あの剣が操っているのか。
そう。俺の疑問はそこだった。あの剣、俺と同類の可能性はないか? インテリジェンス・ウェポンなのかどうかはともかく、あの剣がハムルスを操っているように思える。しかも魔剣を守るハムルスの動きを見る限り、ある程度の知性があるように感じられた。
それどころか、焦りや怒りといった感情まであるのではないだろうか? これも、ハムルスの動きを見た上での推測でしかないが。
魔剣を狙って斬撃を放った直後、まるで警戒するように距離を取ったり、報復するかのように攻撃が激しくなったりしたのである。
インテリジェンス・ウェポンが伝説的な存在とは言え、俺以外に存在していないという訳もないだろうし……。
いや、今は戦闘が優先だな。とは言えこれ以上の抵抗はないだろうが。もうすぐハムルスの生命力が尽きるのだ。
もし魔剣自体に意思があったとしても、ここまでの様子を見れば自律行動が出来ない、もしくは得意でないのだと分かる。これだけ追い詰められているのだ。もし本当に単独で動けるなら、剣だけでの奇襲攻撃を仕掛けてこないのはおかしいからな。
「――」
向こうも活動限界が近いことが分かっているのだろう。最後の攻勢に出る。魔剣の纏う魔力がさらに増大すると、刀身に纏っていた魔力刃がまるで大蛇のようにうねって襲い掛かってきたのだ。
「むっ!」
フランが回避しても、どこまでも伸びて執拗に追いかけてくる。だが、これはチャンスだ。奴らはフランを追う事に集中している。
『ウルシ! やれ!』
「ガルラァァァ!」
「――」
ここまで温存していたウルシによる奇襲だった。ハムルスの影から飛び出し、剣を握る拳に飛びかかる。手をウルシに噛み砕かれ、さすがにハムルスが剣を手放した。
魔剣は支えを失って地面に落ち、魔力刃の攻撃が乱れる。地下道の天井が大きく抉れてしまったが、見なかったことにしておこう。
「師匠!」
『おう!』
この隙は逃さん! 俺の転移で一気に近づいたフランが、渾身の力を込めた空気抜刀術を放つ。
「はぁぁ!」
ギャイイィイィン!
俺と魔剣が激しくぶつかり合い、甲高い音が響いた。
「ぐぬっ!」
『こいつ、硬い!』
俺たちとしては、この一撃で真っ二つにするくらいのつもりだったのだ。魔力も十分に込めている。スキルも多重起動している。
だが大上段から振り下ろされたフランの攻撃は、すでに折れて短くなっていた刀身を一部欠けさせただけであった。やはり一筋縄ではいかない相手だな!
直後、フランは一気に表情を引き締め、その場から飛びのいていた。
『q●s/.,ox4q◇n7@――!』
魔剣の存在感が急に増したのだ。そして、言葉にならない絶叫のようなものが地下道内に響き渡る。
『がっ! なんだ!』
「うるさい」
しかも、単なる絶叫ではない。念話スキルのように、脳に直接叫びをぶつけられているかのようだった。フランも頭を押さえて顔をしかめている。
発生源は魔剣であった。傷つけられて、怒りの声を上げているのだろうか? こんな所まで俺に似ているとは……。いよいよもって俺の同類の可能性が高まったな。
だが、こいつらの抵抗もここまでだろう。酷使され続けてきたハムルスの命が限界を迎えたのだ。
「――」
ドサッ。
糸の切れた人形のように、ハムルスがその場に崩れ落ちる。それまでの激闘が嘘であったかのように、あっさりと。
「……死んだ?」
『ああ』
鑑定するまでもなく、その体からは生命力が感じられない。心臓も止まっているだろう。スキルの効果が切れ、筋肉が萎んでいくな。あっけないものだ。
死亡したかどうかの確認のために次元収納を発動すると、問題なく仕舞う事ができた。やはりハムルスは死亡している。
残るは魔剣だな。最後にもう一度鑑定をしてみる。わずかにでも刀身を傷をつけたことで、何か変化はないかと思ったのだ。すると、先程とは鑑定の結果が違って見えた。傷つけたことで能力が低下したことで鑑定が利くようにはなったらしい。
『……かろうじて名称を確認できるか』
名称:c%s:●hj/n■P
だが文字化けしてしまっているうえ、能力も見えなかった。正式な名称が分かれば、魔剣の出所を探ることもできるんだがな。
待てよ? 過去に鑑定できなかった相手は、単純に視ることができなかったはずだ。文字化けなどしたことはなかった。神剣などもそうだ。名前などの鑑定が及ぶ分だけが表示され、不可能な部分は単純に視えない。
俺はこの魔剣に鑑定が防がれた結果、名前が文字化けしてしまったのだと思ったが……。これが本当の名前だったりしないか? いや、元々本来の名称があったのに、刀身が激しく損傷した結果、名前までおかしくなってしまったということなのか?
「師匠?」
『おっと、なんでもない』
まあ、もうどうでもいいか。こいつはここで破壊されるわけだし。
『フラン、こいつをぶっ壊すぞ』
「ん」
今度こそ全力全開だ。周囲への被害? 多少は已むを得まい。フランが精神を集中しながら、俺を振りかぶる。その直後だった。
『なっ!』
「むっ」
魔剣から凄まじい光と魔力が発せられた。
忙しさMax! やばいです。
次回は12月31日の更新とさせていただきます。申し訳ありません。
秋葉原でGCノベルズのプロモーション映像が流れていましたね。
日高里菜さんの「ヘイヘイヨーヨー」が可愛すぎました。頭から離れません。
yutubeでも公開中らしいので、ぜひご覧ください。




