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412 辻斬り


 ベイルリーズ伯爵と協力の約束を交わした後、俺たちは夜の王都を宿に向かって歩いていた。


 さすがに王都の夜ともなると人出が多い。特に歓楽街付近になると、日中よりも混雑しているほどだろう。初日はここに入り込んで散々迷ったが、今はある程度道を把握したので問題ない。


「もぐもぐ」

「モムモム」


 歓楽街は酔客狙いの屋台も数多く、フランとウルシはいつも通りの買い食いを楽しんでいた。ただ、味のバリエーションが少ないな。


 内陸にある王都は、バルボラに比べて調味料が割高になるらしい。香辛料も塩も輸送コストがかかるために大量には使えないのだ。それ故、この近辺で生産されている、味噌をベースにした味付けが多いのだろう。


 その分、長年研究がされており、意外と飽きが来ないようだ。フランとウルシなどは、途中からは味噌系の味付けをしている屋台を狙っていたほどである。


 夜の歓楽街を子供のフランが歩いていると色々と目立つので、今日は隠密スキルを使っている。これでチンピラ程度はフランに気付くこともあるまい。カルクが心配していたような、歓楽街炎上破壊事件には発展しないはずだ。でも、もし何かあったらゴメンね?


 まあ、もうすぐ宿だし、そうそう事件は起こらないだろうが。あとはそこの地下通路を抜ければ、宿まではほぼ一直線である。


 フランは薄暗い地下通路へと続く緩いスロープを下っていく。さすがにここには屋台はないね。というか、急に人通りが無くなり、妙に歓楽街の雑音が遠のいた気がした。俺は単純に地下に入ったからだと思ったんだが……。


(……師匠)

『どうした?』

(今、変なの感じた)

『なに? 変なの?』

(ん!)


 どういうことだ? 俺には何も感じられなかったが。


『変なのって、具体的にはどんな感じだ?』

(……変なの)

『えーっとだな、嫌な感じだったか?』

(ん! ザワッてした!)


 つまり、何か不快な感覚があった? しかもフランだけ?


『それは魔力的なものか?』

(ん……?)


 フランにもその感覚の正体はいまいち掴めていないようだ。


『だが、何で俺は感じなかった……?』


 日常的に探知スキルを全開にしているわけじゃないが、魔力的な異常が周辺で起きれば違和感程度は覚えるはずだ。それがなかったのはどうしてだろうか?


『ウルシはどうだ?』

(オフ!)


 ウルシも感じ取ったらしい。


『……とりあえずここからすぐに離れよう』


 フランとウルシの感じたものが何なのかは分からないが、距離を取った方がいいだろう。2人が何か違和感を覚えたというのであれば、それは無視できない。そう考えたんだけどね。


 どうも一足遅かったらしい。


「師匠」

『ああ、これは俺も分かるぞ』


 強い殺気と威圧感。フランに対する敵意を隠そうともせず、1人の男が前から近づいてきていた。その手に持っているのは魔剣か? 男が握るロングソードからは、異様な魔力が放たれている。


 魔力だけではない。その姿も異様だった。どう見てもその剣は半壊状態だったのだ。何せ、刀身が半ばで折れ、残った部分にも深い亀裂が穿たれている。柄にはサーベルのようなハンドカバーが付いているんだが、その表面には苦悶の表情を浮かべる男性の顔が彫りこまれていた。


『かなりの使い手だ。油断するな』


 剣聖術:Lv4と剣聖技:Lv2、さらに威圧や隠密、火炎魔術まで持っている。多分、冒険者だろう。しかもランクC以上は確実だ。


 男の名前はハムルス。会ったことないはずだ。もしかして辻斬りって奴か? それともフランを倒して名を上げよう的な?


 さらに鑑定を続けると、状態が見たことのない表記になっていることに気付いた。狂信? 字面だけ見たら、狂信者とかそういった意味なのだろうか? 初めて見るな。


 どちらにせよ、強敵であるとはいえステータス、スキル両面でフランが負ける要素はない。1点だけ気になるのが、魔剣の能力だろう。折れているとはいえ、未だに強い魔力を発している。しかも、元は余程高位の魔剣であるのか、鑑定が利かなかったのだ。


『フラン。魔剣に気を付けろ。能力が分からない』

(分かった)

『ウルシはいざという時のために影の中で待機』

(オン!)


 うーん。それにしても、なんだろうこの感覚。ハムルスを見ていると、無いはずの胸がザワザワするって言うか、胃がムカムカするっていうか、とにかく不快になるのだ。


 一言でいうと、嫌悪感? とにかく生理的に受け付けない。この男が気持ち悪くて仕方なかった。なんだろうな、この気持ち。


『フラン、あの男を見て、気持ち悪くないか?』

(気持ち悪くはない。ただ、どれくらい強いか気になる)

『ウルシ?』

(オン)


 どうやらこの感覚は俺だけのものであるらしい。さっきと逆だな。


『うーむ』


 これだけ他人を気色悪く思ったのは、セルディオに対して凄まじい嫌悪感を覚えた以来だろう。いや、あの時を遥かに超えている。なんだろう。自分では知らなかったけど、このハムルスみたいな顔が嫌いだったのだろうか? どこにでもいる、フツメンなんだけどな……。


 フランはいつでも俺を抜き放てるように身構えながら、近づいてくるハムルスに声をかけた。


「……誰?」

「――」


 フランの誰何に対してハムルスは何も答えず、無言でその歩を進める。すでに両者の距離は10メートルを切っていた。


「それ以上近付けば、敵とみなす」

「――」


 やはり何も答えず、前進するハムルス。そのまま剣を振りかぶる。明確な敵対だ。


 その行動を確認して、フランが動いた。地を這うように身を低くしたまま駆ける。狙うのは足だ。機動力を奪い、無力化するつもりなのだろう。


 スキルが統合されて以来、制御する訓練を続けてきた成果か、身体能力の強化は上手くいっている。敏捷力の強化はもうかなりものにしたな。正直、この速度で斬りつけるだけでも、普通の相手なら倒せてしまいそうだ。


 しかし、フランは油断しない。斬撃の直前に視線のフェイントを入れ、首を狙うと見せかけている。ハムルスがまんまと引っかかり、剣で首をガードする動きを見せた。


 すぐにフランの狙いに気付いたようだが、もう遅い。タイミング的に、これを防ぐことは不可能だった。


 そう、不可能に思えていたんだが――。


 ガギイィ!


「――」

「む」


 ハムルスが突き出した魔剣により、下段への斬撃が弾かれた。まじか。思ったよりもやるようだな。それに、魔剣もやはり尋常ではない。


 現在の俺は、魔力を500程消費して攻撃力がかなり強化されている。そこらへんで売っている量産品の剣程度なら、足もろとも切り飛ばせるはずなんだがな。やはりこの魔剣は注意が必要だろう。


 それと、もう1つ分かった事がある。俺は確かにハムルスに気色悪さを感じていたが、それ以上にこの魔剣に対して嫌悪感を覚えていたらしい。刃を重ねたその瞬間、鳥肌が立つかと思った。この魔剣から発せられる何らかの気配や魔力。それらが俺の嫌悪を激しくかきたてるようだった。


 これは同族嫌悪なのか? だが、他の魔剣や神剣に対して、こんな感覚を持ったことはなかった。


『うーむ……』

(師匠、どうしたの?)

『いや、なんでもない。ただ、あいつの持っている魔剣が妙にムカつくだけだ』

(あれ、師匠の敵?)

『いや、どうだろうな……。でも、嫌いなことは確かだ』

(わかった。師匠の敵は私の敵!)


 おっと、フランのやる気を煽ってしまったらしい。ただ、ここはその言葉に甘えておこう。あの剣が嫌なのは確かだ。できればここで破壊してしまいたい。素直にそう思えるほど、ただただ生理的に受け付けなかった。


『よし、本気でやるぞ!』

「ん!」


 どちらにせよ斬りかかってきた相手だ。何も喋らないのであればそれで構わん。このまま使い手も剣も叩き斬ってやる。


 俺は刀身にさらに魔力を込め、スキルを全開にした。細かく制御するのはまだ上手くいかないが、魔力を無駄に消費する覚悟で全力使用することは可能だった。オーバーキルになってしまう可能性もあるが、この相手であれば構わないだろう。


 今はただ、1秒でも早くあの魔剣を葬り去ってしまいたかった。


「はぁぁ!」

「――」


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