39 テンプレバカ貴族現る
スキルの共有とスキルのユニーク化について、説明が足りず、理解し辛い部分があったようです。
読者様よりご指摘をいただきましたので、一部変更をしました。
詳しくは活動報告に乗せてありますので、ご覧いただければ幸いです。
活動報告を見るのが面倒だと言う方のために、今回のあとがきにも簡単ですが説明を乗せてあります。
ギルドマスターの部屋に乱入してきたのは、銀の鎧を着こんだ、贅肉ダルダルの不健康そうな男だった。
誰だ? 見たことがないぞ。それに、気配も全く感じられなかったが……。ああ、装備のおかげか。
名称:オーギュスト・アルサンド 年齢:29歳
種族:人間
職業:戦士
状態:平常
ステータス レベル:30
HP:108 MP:99 腕力:52 体力:53 敏捷:45 知力:50 魔力:47 器用:45
スキル
演技:Lv1、歌唱:Lv1、騎乗:Lv1、欺瞞:Lv1、宮廷作法:Lv4、剣術:Lv1、算術:Lv1、社交:Lv2、毒耐性:Lv1、毒知識:Lv2、薬草学:Lv2
ユニークスキル
虚言の理:Lv5
称号
子爵、アレッサ騎士団副長
装備
ミスリルのロングソード、銀鉄の全身鎧、赤獅子のマント、気配遮断の指輪
なんか、アンバランスだな。レベルは30あるのに、それに比べてステータス値は低い。ランクE冒険者くらいか。
それに、スキルがお粗末すぎる。社交とかが高いのは貴族だからだろう。でも、剣術:Lv1とか、騎士の割に低すぎないか? しかも肩書は副長なのに。
「見逃すつもりかとは、どういうことですか? オーギュスト殿」
「言葉通りの意味だ。悪魔の魔石だぞ? それ程の物を、その小娘が独占するなど、許される訳が無かろう!」
「何を言われるかと思えば。今回の討伐において、自ら倒した魔獣の素材は、その者自身が獲得する権利を有しております。悪魔を倒した彼女が、魔石を得るのは正当な権利。むしろ、素材においてはギルドに還元しており、こちらとしては咎める理由が一切ありません」
「世迷言を。ホブゴブリン程度の素材であれば、いくらでもくれてやる。だが、悪魔の素材のような高ランク素材を下級冒険者如きに渡すなど、断じて許さん」
結局、思ったよりも凄い素材が取れちゃったから、今更あげるのが惜しくなったってことか?
「その小娘、独断専行をしたそうではないか。命令違反の罪があろう! そのような者に、正当な報酬とやらを受け取る権利があるかね?」
「ふぅ。命令違反を罪に問わなくてはならないのであれば、ほとんどの冒険者が対象になってしまいます。ああいう場で、独断専行する冒険者が出ないことの方が珍しいのですよ。むしろ、命令や規則に違反したことのない冒険者が居るのであれば、お目にかかりたいものです」
「所詮は底辺の者どもということか」
「まあ、お行儀のよい騎士団の方々と違い、荒っぽい人種が揃っておりますので」
ギルマスの目、全然笑ってねー。殺気さえ感じられるぞ。むしろ、それに全く気付かないこのデブ貴族に感心するわ。面の皮が厚すぎて、鈍感になっちまってるのかね?
「ふん。1つ良いことを教えてやろう。その小娘は嘘をついているぞ?」
ギクッ
こいつのユニークスキルか?
虚言の理:対象の言葉の嘘を見破る。自身の嘘を、他者から見破られにくくする。自身の嘘を、他者に信じ込ませやすくなる。
詐欺師か独裁者、教祖あたりにうってつけのスキルだ。というか、これだけのユニークスキルを持っていて、地方騎士団の副長? ファンタジー小説の嫌われ者的ポジション? スケールちっさ! やりようによっては、どデカイことができそうなスキルなのに……。どれだけ優れたスキルでも、使い手次第っていう見本だな。
まあ、俺たちはメチャクチャ追い詰められているわけだが。だが、次の言葉は、俺の想定外の言葉であった。
「魔石は消滅したなど言っているが、それは嘘だ。どこかに隠し持っているに違いない」
うん? いや、そこは嘘ついてないぜ? 消滅したっていうのは本当だし。
「……たとえそうだとしても、魔石の所有権は彼女が有します」
「いや、こういった場で虚偽の申告をしたことは、許されん。他にも、何か隠しているやも知れんぞ?」
「本当に消滅した」
「また嘘だぞ?」
何を言っているんだ? 虚言の理があるんだから、嘘じゃないって分かっているはずなのに。
いや、そうか。こいつが虚言の理を持っていることは有名なんだろう。だからこそ、こいつが嘘をついていると言えば、嘘つきにされてしまう。それを利用して、フランを嵌めようとしているのだ。
「?」
『フラン、暫く喋るな』
(分かった)
さて、どうしてくれようか。
「ここは、公の場ではありません。彼女には、あくまでも私的に話を聞いております。そこで多少冗談を言ったところで、咎める法などないと思いますが?」
貴族憎しの一念か。妙に庇ってくれるな。いや、有り難いんだけどね。頑張れギルマス。
「貴族の私に虚をついたのだ。どんな場であれ、それは罪だ」
「もう一度言いますが、冗談を言った程度で罪になるとは、知りませんでしたな」
「とにかく! この娘は信用ならん。聞けば、出身地すら分からぬそうではないか! 他国の間諜かもしれん。全ての持ち物を騎士団に供出せよ。荷を改めさせてもらう。そうすれば、本日の無礼は不問にしてやる」
はあ? こいつ、何言ってるんだ? 供出だ? 体のいいカツアゲじゃないか。従うとでも思ってるのか?
「何を言っておられる!」
「そも、貴様ら冒険者ギルドは、我が騎士団を無視してゴブリンの討伐を行ったな? どうせ、我ら精鋭騎士団に利益を奪われることを嫌ったのであろう。卑しい冒険者に相応しい行いだな。悪魔の素材を引き渡せば、それも不問にしてやる」
「はぁ? 我らは騎士団の方へも連絡を入れましたよ。討伐を行う日時も、きっちり伝えたはずです」
「ふん、嘘を言うな! とにかく、今回得た利益の半分、悪魔素材の全て、その小娘の荷をよこせ」
「利益の半分? 悪魔の素材全て? 何もしていない騎士団に、それを渡す理由がありませんが」
「我らを無視しておいて、何を言うか! 貴様ら冒険者どもが目先の欲に目がくらみ、町の守りを蔑ろにした挙句、ゴブリンどもの巣へ向かっている間、我らが町の治安を守っておったのだ!」
「くっ。尻込みして誰も参加したがらなかったから、こっちの要請を無視しただけのくせに」
「何か言ったかね?」
「いいえ、なにも」
そういうことね。ホブゴブリンに恐れをなした騎士団は、討伐への参加要請をあえて無視した。
それが、冒険者ギルドだけで行った討伐が、思ったよりも少ない被害で、凄まじい利益を生んでしまった。今更ながらに、その利益を欲しくなったのだろう。
卑しいのはどっちなんだよ。
「おい、手始めにその剣からよこせ。相当の業物の様だが。どこで盗んできたのだ? 正直に申せ」
クソデブ貴族野郎が近づいてきた。
(斬る?)
『まて、もう少し様子を見よう』
俺だって、本音はぶった斬りたいけど。
「騎士団からギルドへ、命令権はありません。それでも、あなたは我らに命令するというのですね? 冒険者が命がけで得た利益の大半をよこせと?」
「当然の権利である」
この野郎、言い切りやがった。そして、ギルドマスターから凄まじいまでの殺気が噴き出す。うわあ、これだけ怒っていて、よく手を出さずに我慢できるな。それどころか、表面上はニッコリ笑っているし。ちょっと尊敬したぞギルマス。
「まずは契約書にサインをしてもらおう。ほれ、ここに貴様の名を入れれば、素材の引き渡しが受理される」
「それは騎士団としての総意ですか? 団長もご存じなのですよね?」
「……当たり前だ」
「では、問い合わせますが宜しいですか?」
「む? そんなこと、する必要なかろう」
「それを決めるのはこちらです」
なんか、風向き変わったぞ。
「問い合わせることに、何か問題でも?」
「ふざけるな! 我が嘘をついてるとでもいうのか! ふ、不愉快だ。今日はこれで帰る!」
うわぁ。凄まじい図星っぷり。ポイント稼ぎか、着服して利益を貪るためか。ともかく団長っていう奴に、無断で来てるのは確かなんだろうな。
『よし、こいつで試してみよう』
何をって? スキルテイカーだ。都合よくユニークスキルを持っているし。
(私もやってみたい)
『おう。まずは俺が試してみよう』
対象は勿論ユニークスキルである。しかし、このスキルって鑑定がないと、初見の相手には使いどころが難しいな。
あの悪魔は鑑定を持ってなかったが。ガチャで引いた的なことを言ってたけど、スキル構成が微妙に変だったのはそのせいなのか? 初期スキルがランダムだったとかね。もしくは、ダンジョンマスターが鑑定を付けるのを忘れたとか? うん、有り得そうだ。
「また来る!」
おっと、カモが帰っちまう。
『いくぞ。スキルテイカー!』
――上手くいった。このスキル、エフェクトがないのが最高だよな。こっそりスキルを盗めちゃうし。凶悪だ。
虚言の理:Lv5が手に入った。ユニークスキルは奪えてしまうらしい。このスキルの真のヤバさは、スキルレベルをそのままに奪えてしまうところだろう。高レベルのスキルを奪えば、いきなり熟練者だ。
欠点は、セットスキルではなく、あくまでも俺のスキルとして登録されてしまうため、フランと共有できないところだろうか。逆も然りだ。場合によって、どちらが使うか選ばないといけないな。
「スキルテイカー」
フランが俺に続いて小さい声で呟いた。これも当然成功だ。一番レベルが高い宮廷作法:Lv4を奪っている。
くくく。大事なスキルが無くなったことに気づいて、慌てふためくがいいわ!
(師匠、やった)
『おう。大成功だ』
(もう斬る?)
『斬らんで良い斬らんで良い。何でそんなに斬りたがる?』
(あいつ嫌い)
だんだんうちの子が危険になっていく気がする。手に入れた宮廷作法の効果で、お淑やかになったりはせんかね? いや、無理だろうな。
「ふぅ。申し訳ありませんでした」
「あれは誰?」
「大貴族のボンボンであり、アレッサ騎士団の副長でもある人物です。地位を金で買った俗物でありますが、家柄が良いため、扱いづらいのですよ。1年程前に赴任してきて以来、ことあるごとに身分を振りかざすので、町中で嫌われていますね。まあ、ギルドに対してこれほど馬鹿な行動に出るのは初めてですが」
「騎士団に文句言う」
「無理ですよ。大抵のことは、親が握りつぶしてしまいますから。だからこそ、あそこまで馬鹿に育ったんでしょうが。それに、虚言の理と言う嘘を見破るスキルを持っており、無下にも扱えぬのです」
「雑魚でも、副長? お金があればいい?」
「そこは国に言ってやってください。それに、雑魚は雑魚なんですが、レベルはそこそこなのですよ。貴族にはよくいますが、強い騎士とパーティを組ませて、魔物を狩らせてレベルだけを上げるのです」
リアルなパワーレベリングってことか。だから、戦闘系スキルは成長してない訳ね。ただ、見かけ上は、レベル30の騎士という訳だ。
「次来たら、ブッ飛ばす」
「できれば止めていただきたいですね。大丈夫です。副長はあの通りの馬鹿ですが、団長は話が分かる方ですので。話を通せば、暫く大人しくなりますよ」
「なら、いい」
「おねがいします。こちらから手を出したなんてことになれば、累は我々にまで及ぶので」
結局自分たちのためかい! まあこの人の場合、馴れ合いよりはギブアンドテイクの方が信用できそうだけどな。
「改めて、悪魔素材の提供、ありがとうございます。おかげで、当ギルドも非常に潤いました」
「ん」
「で、本当に魔石はお持ちではないのですか?」
ギルマスお前もか!
「冗談です」
「危なかった」
「何がです?」
「手が出そうになった」
「はははは。それは怖い。では、くれぐれも、奴には気を付けてください。嘘看破のスキルを悪用して、他者を陥れるようなことも平気でやってくる男です」
「だいじょぶ」
「そうですか。貴女がそう言うのであれば、構いませんが……」
「もう良い?」
「ええ、ありがとうございました。あ、ちょっと待ってください」
「?」
「受付でランクアップして行ってください。すでに書類は通っていますので」
「また?」
「ええ。また、あなたがとんでもない成果を上げてくださいましたので。悪魔単独撃破の冒険者を、ランクFと名乗らせるなんて、できませんからね。とりあえず、ランクDに上がってもらいます」
「Eじゃない?」
「本来であれば、Cに上げたかったんですが。さすがに、他の支部の承認が得られませんでした」
そりゃそうだ。冒険者になりたての、12歳の小娘が、単独でランクB悪魔を撃破した? どこの冒険小説だ。
むしろ、Dに上がっただけでも儲けもんだろう。
「分かった。受付に行く」
「よろしくお願いいたします。そこで報酬も支払いますので。ボーナスも弾んでいますよ」
「ん」
受付でランクアップの話をしていたら、他の冒険者たちが騒がしい。どうやら、このギルドで最速の昇級らしい。実質、登録から4日だからな。
ランクアップするかしないかで、賭けをしていたらしいが、飛び級という事で、超大穴らしい。むしろ、そっちの騒ぎの方がデカイ。
「はっは! 嬢ちゃんのおかげで大儲けだ!」
「くそっ! 俺は大損だぞ!」
「わはははは」
「どうだ、一杯おごるぞ?」
「馬鹿、こんな小さい子が、酒を飲めるか!」
「いただく」
「おっ! そうか?」
「じゃあ、リンゴジュースでもおごってやるか!」
という事で、フランの冒険者ランクは、Dに上がったのだった。ランクDか。もう立派な中堅冒険者だ。
今日のことで考えたが、どこかで俺のことを明かしてしまったほうが良いだろうか? 今後、似た様な事もあるかもしれない。ランクDの冒険者なら、少し変わった魔剣を持っていてもおかしくないと思うし。
魔石を吸収して、強くなる剣。それくらいのことは明かす方が、フランもやりやすいだろう。ただ、それ以上はどうかな……。今度、ガルス爺さんに相談してみるか。
まあ、悪魔の魔石に関しては、フランがこっそり持っていると思っている奴がほとんどだろうし、問題ないだろ。「隠し持っている」が「剣で吸収しちゃった」に変わるだけだ。そう考えると、悪魔素材をギルドに還元しておいてよかったかもな。そのおかげで皆にボーナスが出たらしいし。
あとは今日の酒は奢っておくか。こういう小さな積み重ねが大事だしね。
「今日は私のおごり」
「何言ってんだ! こんな小さい子に奢らせられるか!」
「良い。ボーナスが出たし」
「おおう。太っ腹!」
「太ってない」
「ガッハッハ、面白れえ嬢ちゃんじゃねーか!」
「よっしゃー、負け分飲んで取り返すか!」
「わはははは!」
結局10万ゴルドも飲みやがんの……。
下に長々と説明してありますが、要は主人公とフランが共有できるスキルは、魔石を吸収して得たセットスキルだけ。それ以外は共有されない。ただし、スキルユニーク化(スペリオル化に変更済み)を使うと、セットスキルから除外されるので、以降は共有できなくなる、とうことです。
1話においてスキル共有の説明を「スキル共有:現在セットしているスキルを、装備登録者と共有し、付与することができる。」に変更しました。
14話で登場したスキルユニーク化のせいで、ユニークスキルは共有できないという誤解を与えてしまっていました。実際は、スキルユニーク化を行うとセットスキルから除外され、主人公専用のスキルとなってしまうため、共有ができなくなるという物でした。
紛らわしさを解消するため、14話、38話で名前の出ていたスキルユニーク化の名称を、スキルスペリオル化に変更しました。スペリオル化したスキルはセット可能スキルから除外され、主人公専用のスペリオルスキルとなってしまいます。当然、主人公専用スキルなのでセットスキルにセットできず、2度と共有は不可能となります。
魔石を吸収して得たスキルは全てセット可能スキルとなりますので、ユニークスキルもエクストラスキルもフランと共有可能です。また、スキルテイカーによって奪ったスキルは、主人公とフランの通常スキルとなるので、互いに共有ができません。
19話の文章中に鑑定遮断スキルの説明を加えました。
鑑定遮断:自身に向けられた鑑定を阻害する。この能力を持つ装備品は、装備者にも鑑定遮断の効果を与える。




