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407 意外な場所での再会

 冒険者ギルドを出た俺たちは、早速オルメス伯爵の別邸へと足を運んでいた。気配を消して、遠目から屋敷を見る。


(師匠、あれ)

『なるほど、あれが蠍獅子か』


 フランが指差しているのは、オルメス伯爵邸の前にある屋敷の門柱だ。確かベイルリーズ伯爵家の屋敷だと言っていたな。


 さすがに貴族の屋敷の門なだけあり、かなり大きい。門柱だけでも10メートル以上あるだろう。そして、その天辺に設置された雄々しいマンティコアの石像が、門を守護するように通りを睥睨していた。


 その視線の先を辿れば、確かにオルメス伯爵別邸を向いているようだった。あとは、その視線の先に戦乙女が居れば完璧なんだが。


 高い塀のせいで中を覗くことはできない。ちょっとだけ忍び込もうかとも考えたが、危険すぎるのでやめておいた。外からでも、魔術による結界などを感じ取れたためだ。しかも、その強さは中々の物である。アシュトナー侯爵邸から感じ取れる魔力よりも、オルメス伯爵別邸の方が強い程だった。


 フランは行こうとしてたんだけどね。俺が全力で止めた。まさかエリアンテの会話がフリになりかけるとは……。危なかった。


『……上から見よう。ちょっと行ってくる。だからここを動くなよ?』

(ん)


 幸い今は夜だ。多少派手な動きをしても、目立つことはない。俺だけならなおさらだ。


 俺は魔術で上空に転移した。多少高めなのは、屋敷の結界に触れないよう細心の注意を払ったためである。魔力を探った感じ、屋敷を球体状に覆っているようだからな。


 上空で静止しつつ、オルメス伯爵別邸の庭に目を向けた。スキルを総動員して、庭を隅々まで観察する。そして、発見した。


『あったっ! 戦乙女の像だ』


 噴水の中央に設置された、戦乙女の石像があった。鎧兜を身に纏った、女性の姿をしており、間違いないだろう。マンティコアの石像の視線の先とも一致する。


 確信を得た俺は、再びフランの下に転移した。


『ただいま』

(おかえり。どうだった?)

『ビンゴだ。ここで間違いないだろう』

(そう)


 とは言え、上から見ただけでは屋敷の内部がどうなっているかまでは分からない。当然、ガルスの居場所も分からなかった。


『外から見るとそうでもないが、中にはかなりの人数がいるな』

(ん)


 気配を探ってみると、明らかに警備の兵士が多すぎた。しかも、多くの兵士が外ではなく、中を向いている。まるで脱走を阻止するために警備しているかのようだった。


『ウルシ、匂いはどうだ?』

(オン……)

『ダメか』

(オフ)


 屋敷には風属性の結界も張られている。これが音や匂いを遮断しているのだろう。


(どうする?)

『ガルスが囚われている場所を特定できればいいんだが』


 俺たちは何か手がかりを探すため、伯爵邸の周辺を歩いてみることにした。屋敷の中を相当数の兵士が巡回している気配があるな。俺たちに気付いている者はいないはずだ。


 ただ、そうやって周囲の気配を探りながら歩いていると、ウルシが何かに反応した。しきりに周囲の匂いを嗅いでいる。


『もしかしてガルスか?』

(オン)


 首を横に振っている。違うらしい。


(オン!)


 ウルシが俺たちを先導するように歩き始めた。しかも、暗黒魔術で気配を消す念の入れようだ。俺たちも少々の消耗は気にせず、魔術とスキルを全開にして隠密モードへ移行した。今の俺たちなら、一般人の目の前を通過しても気付かれない自信がある。


 ウルシの後を付いていくと、オルメス伯爵別邸から離れていくな。そのまま裏路地を通って、アシュトナー侯爵邸の前を走る大通りへと回り込むルートを進んでいる。


(オン)


 すると、裏路地の出口直前で、ウルシが唐突にその歩みを止めた。そっと頭だけ出して、通りを見るウルシ。俺たちもウルシに倣って、こっそりと表通りを覗いてみた。


『あの浮浪者か?』

(オフ!)


 ウルシが見つめているのは、俺たちの潜んでいる路地から見て通りを挟んで向こう側。ややアシュトナー侯爵家側に近い路地の入口だった。


 そこには、大きめのボロ布を身に纏った浮浪者が蹲っている。王都ほどの大都市であれば珍しくはない光景だ。実際、俺たちだって何人も目にしてきた。


 貴族街にいるのは珍しいのかもしれないが、あの場所なら死角になっているし、巡回の兵士などが気付かない可能性もあるだろう。


 だが、少し見ていて、その浮浪者のおかしさに気が付いた。


『気配が異常に感じられないな』

(ん。それに魔力も変)

『……スキルで気配を隠しているのか』


 どうやらただの浮浪者ではないようだ。かなりの実力者だ。少なくとも、隠密系技能の腕前は、ランクC冒険者に匹敵するだろう。


『あの位置……アシュトナー侯爵邸を監視してるのかもしれん』


 浮浪者の視線は、アシュトナー侯爵邸の表門を向いている。


 それにしても、ウルシはあれだけ離れた場所からよくこの浮浪者に気が付いたな。気配の薄さや不自然さを感じ取ったのか?


 そう疑問に思っていると、浮浪者が身を翻した。そのまま路地の奥へと入っていく。俺たちに気付いたか?


 とりあえず気配を消した状態で、その後を追うことにした。浮浪者が消えた路地をそのまま追うような真似はしない。


 浮浪者の入っていた路地の、隣にある路地を使い、一定の距離を維持したまま後を付けるのだ。見失ってもウルシの鼻さえあれば追えるしな。無理はしない。


 そのかいもあってか、俺たちは浮浪者に気付かれることなく、尾行をすることが出来ていた。人目に付かぬように貴族街の路地を進むこと数分。


まさか自分が見張られているとは思わなかったのか、周囲を警戒しつつも、浮浪者が頭からかぶっていたローブを素早く脱いだ。浮浪者のふりを止めたということなのだろう。


 その下からは、驚くほど引き締まった肉体が姿を現す。明らかに戦闘用に鍛え上げられた筋肉と、実戦で磨き抜かれた戦士の気配を身に纏っている。先程は男の実力をランクCの斥候職程度と感じたが、間違いだった。明らかに斥候が本職ではなく、戦闘を生きる糧とする者の身のこなしだ。


 というか、その顔には見覚えがあった。なんであいつがここにいる?


(コルベルト?)

『ああ、間違いない』

(オン!)


 バルボラでは屋台を手伝ってもらい、武闘大会では強敵として対峙したランクB冒険者。拳で魔獣を砕く格闘家。鉄爪のコルベルトだ。


 ウルシが反応したのは、コルベルトの匂いを覚えていたからだろう。リンフォード戦では手を携えて共闘した間柄だからな。


(どうする? 声かける?)

『……うーむ、どうするか』


 知らぬ仲ではないとは言え、現在は味方であるとも限らない。冒険者として誰に雇われているか分からない間は、注意するべきだろう。俺たちのように何か事情がなければ、個人的に侯爵家を見張ったりはしないと思うんだよな。


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