401 奴隷の種類
フランはエリアンテからさらにオークションの話を聞いていた。
「武具と魔石以外のオークションには興味がないのかしら?」
「他にどんな種類がある?」
「そうね……あなたが興味ありそうなところだと、魔獣素材オークション、料理オークション、魔道具オークションかしら?」
「料理オークション?」
やはりそこに反応したか。短い間にエリアンテもフランのことをわずかに理解して来たらしい。苦笑しながら頷いている。
「ええ。主に扱うのは食材ね。魔獣食材だけではなく、霊茸や、魔法野菜など、各地の珍しい食材が出品されるわ。市場に提供する程の数がない、希少食材が主になるの」
「なるほど」
「それ以外だとレシピや、調理方法の技術などが出品される場合もあるかしら」
要は料理に関係するもの全てが出品対象ということなんだろう。暇があったら覗いてみたいな。
「ただ、料理そのものは出品されることはほとんどないけど」
「平気」
「あら? 料理できるの?」
「ん」
「そ、そうなの……。てっきり同類かと」
フランが頷くと、エリアンテがちょっと焦った顔で呟いている。どうやら料理ができないらしいな。いや、この様子じゃ洗濯も掃除もできなさそうだ。
他にも美術品オークションや物件オークション、服飾オークションなどもあるらしい。フランは全く無反応だが。フランが最も反応したのは食材オークション――ではなかった。
「奴隷オークション?」
「ええ。取り扱われるのは重犯罪奴隷のみだけど、興味あるのかしら?」
「ない!」
「どうしたの急に怖い顔して」
「別に」
やはりフランは奴隷売買に対しては複雑な思いを持っているらしい。闇奴隷だけではなく、正規の奴隷であっても、売り買いするつもりはないようだ。
通常の奴隷に関しては闇奴隷に対するような嫌悪感はないようだが。そもそも、奴隷にはいくつか種類があるらしい。以前聞いた話だが、主なものは借金奴隷、軽犯罪奴隷、重犯罪奴隷の3つだ。
借金奴隷はその名の通り、借金のかたに身売りをした者たちだ。それ以外だと、生活苦からの身売りもここに含まれるらしい。
ただ最初に借金奴隷の待遇を聞いた時、本当に奴隷なのかと疑問に思ってしまった。奴隷化の魔術で隷属させられているので奴隷と名付けられているが、意外ときっちり権利が保障されていたのだ。
主は奴隷に対して給金を払い、さらに衣食住の面倒を見なければならず、非人道的な扱いはできない。性的な奉仕をさせたり、犯罪行為に加担させることは厳禁なのだ。契約魔術は奴隷を縛るだけではなく主も縛るので、違反することもできない。俺の印象としては、職業の自由がないハローワーク(衣食住の保障付き)と言った感じであった。
短い者は一ヶ月程度で解放され、借金奴隷だったからといって差別もされない。場合によっては奉公先で技能を身につけることもできるので、結構気軽に借金奴隷となる人間は多いらしい。やはりハローワーク的なイメージだな。
軽犯罪奴隷から、急に扱いがひどくなる。こちらはセーフティネット的な意味合いのある借金奴隷と違い、刑罰としての奴隷化だからだ。さすがに非人道的な扱いは許されないものの、その権利は借金奴隷にくらべると大きく劣る。護衛として使われたり、肉体労働に従事する者がほとんどであるらしい。
無理やり3Kのブラック職業に就かされるようなイメージかな。ただ、こちらはきっちり仕事をこなせば解放されるし、一応の人権的なものがある。
そして最後の重犯罪奴隷は、もう悲惨の一言だ。そもそも死刑囚をただ殺すよりも、その前に労働力として使い潰そうという目的である。人権などという言葉はほぼ存在していない。
どうやらこの重犯罪奴隷の中でもいくつか種類があり、性奴隷や肉壁奴隷など、用途があるらしい。実は奴隷のシステムに興味があって、冒険者ギルドで話を聞いてみたんだが、フランの機嫌が悪くなって最後まで話を聞けなかったんだよね。なのでこれ以上詳しくは知らなかった。
まあ、フランが身を落としていた闇奴隷の方がもっと酷いんだが。これが、いわゆる俺たちがイメージする奴隷だった。
実のところ、借金奴隷も犯罪奴隷も、契約は自分の意思で結んでいる。そもそも、奴隷契約は双方の合意がなくては術が発動しないのだ。重犯罪奴隷ですら、死刑や公開拷問刑よりはましという理由で自らの意思で重犯罪奴隷になることを選んでいる。
だが、闇奴隷は違う。彼らは自らの意思で奴隷になるのではなく、無理やり奴隷にされてしまう。奴隷契約時にネックとなる双方の合意という部分をどうクリアするのかというと、そこは想像するのも悍ましい方法だ。そして、非常に単純なやり方でもある。
攫ってきた相手を徹底的に痛めつけ、闇奴隷の契約に合意すればこれ以上は勘弁してやると囁くのだ。その契約内容は、重犯罪奴隷にさえ保障されているいくつかの権利さえなく、ただただ契約者の命令に完全服従するだけの存在に成り下がるというものである。
闇奴隷は売買は勿論、所持しているだけでも極刑ということになっているが、それでもなくなることはないらしい。犯罪組織や、馬鹿な貴族が闇奴隷を常に求めているからだ。
そんな闇奴隷であった過去を持つフランが、奴隷売買に対して否定的なのは仕方ないだろう。不穏な空気を察したのか、エリアンテが強引に話を変えた。
「あ、あとは従魔オークションなんかもあるわよ? 調教済みの従魔なんかが出品されるの。あなたも確か狼の従魔を連れてるのよね? 興味ないかしら? あら、そういえば今日は従魔を連れていないの?」
「ん。ウルシ」
「オン!」
「これは……。ダークネス・ウルフ? と、とんでもないのを従魔にしてるわね。影潜りが使えるの? 最強の護衛じゃない。しかもそのサイズは……」
「ウルシは小さくなれる」
「オンオン!」
「はあ、ユニーク個体になるとなんでもありね」
ギルマスであるエリアンテも、影の中のウルシは感知できなかったらしい。確かに、今じゃ慣れてしまっているが、普通に卑怯だよな。
その後、オークションへの参加証を作ってもらっている間、エリアンテがどこに泊るのか聞いてきた。
「フラン、あなたは今日の宿は決まっているのかしら?」
「まだ」
「だったら、良い宿を紹介しましょうか? 高ランクの冒険者御用達の宿よ」
どうやら宿を紹介してくれるらしい。ただ、問題が1つあるな。
「そこ、従魔も一緒に泊れる?」
「ああ、その宿は当然従魔オッケーよ。ウルシもそのサイズなら問題ないわ」
ならそこでいいか。武具オークションは2日後だというし、それまでは王都の観光をしたいしね。拠点は必要だ。




