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398 裏通り


 王都の前に出来た行列に並ぶこと4時間。俺たちはようやく王都に入ることができていた。いやー、長かったぜ。


 ウルムットやベスティアと違って冒険者に絡まれたりすることもなく、平和に過ごせたのが唯一の救いだろう。


 同時に審査を受けていた、商人さんたちとも別れて、とりあえず冒険者ギルドを目指す。バルボラのギルドマスターであるガムドに、まずは王都のギルドで自分の紹介状を見せるようにと言われているからだ。


 千年以上も昔からこの地に存在しているというだけあって、王都の内部の建物は古めかしい造りの物が多い。表通りの商店などはそこまでではないが、一歩路地を入ると黒ずんだ石造りの建物が並んでいる。さすがに千年建て替えていないわけではないと思うが、百年二百年は優に経過していそうだった。


 しかも路地が凄まじく入り組んでいる。まるでというか、完全に迷路状態だ。都市計画とか関係なく、無計画に家や集合住宅を建てまくったのだろう。


 なんでそんなことをしみじみと考えているのかというと、現在絶賛迷子中であるからだ。


『いやー、近道とか考えず、大通りを進むべきだったな』

(跳んでいく?)

『いや、王都内で目立つ真似はするべきじゃない。もう少し、大通りへ出る道を探そう』

(わかった)


 城壁の付近はもっと整備されていたんだけどな。今俺たちがいるあたりはかなり昔の、王都が最も勢いよく拡張を続けていた時代に作られた部分なのだろう。


 いわゆるアパートのような集合住宅が立ち並び、その間を細い路地が縦横無尽に張り巡らされている。集合住宅の一階部分は商店になっている場合も多く、狭い路地には客引きの声が響いている。


 時には地下道や、集合住宅の中央をぶち抜くような道を、当てもなく彷徨う。ただ、フランもウルシもどこか楽しげだ。


 これが人の気配のないゴーストタウンのような場所であれば、不安と焦燥を感じてしまうだろう。だが、今いる場所は静寂とは無縁の場所である。


 安酒場と大衆食堂と、その他の怪しげな店がひしめき合い、酔客や婀娜っぽい女、どう見ても堅気ではない男たちが我が物顔で闊歩する。どこからともなく男たちが怒鳴り合う声や、女性の嬌声が響いていた。


 確かにガラが悪い、悪所とも言えてしまう場所ではあるが、同時に猥雑さと熱気も感じることができる場所でもある。


 フランは意外と気に入ったらしい。この賑やかな雰囲気が嫌いではないんだろう。迷っているにもかかわらず、ルンルンな足取りで路地をズンズンと進んでいく。


 時おり値踏みするような視線や、後を付けてくる気配も感じるが、そのへんは完全に無視である。まあ、気配の消し方のお粗末さから考えても、俺たちの敵ではないからな。


 俺たちでも気配の察知に苦労するような手合いは、すぐにフランの実力を察知して離れていく。逆に言えば、しつこく後を付けてくるような相手は雑魚だけということになるのだ。


『うーん、全然抜け出せんな』


 4階建て、5階建ての集合住宅が密集しているせいで王城や大神殿などの目印になりそうな建物も見えないし、完全に迷子だ。フランは方向感覚スキルがあるので、向かうべき方角は分かっているんだが……。行き止まりと急な曲がり角が無数にあるこの場所じゃ、あまり意味がなかった。


(誰かに聞く)

『まあ、それしかないな』


 問題は誰に聞くかだが……。その辺の店で適当に聞くかね?


 俺がそんなことを考えていると、フランが不意に反転した。そして、今まで進んでいたのとは正反対に歩き出す。


『フラン、どうしたんだ?』

(道を聞く)


 俺が誰にと聞く間もなかった。


「ねえ、冒険者ギルドに行くにはどうすればいい?」

「な……気づいてやがったのか!」

「?」


 フランが声をかけたのは、30分程フランを尾行していた1人の青年であった。この辺を縄張りにするチンピラってとこなのだろう。気付かれたことに驚いているが、あれで隠れていたつもりなのか?


 フランなんか、尾行されていたとも思っていない。尾行というのは気配を消して、こっそり後を付けるものだ。こいつのは尾行にさえなっていなかった。そのおかげでフランに敵認定されずに済んだんだけどな。というか、敵とも思ってもらえなかったというだけだが。


「冒険者ギルドに行きたい」

「ああ? ギルド?」


 青年が激高して襲いかかってくるかと思ったのだが、意外に冷静だった。フランは見た目は弱そうでも、剣を背負い、気配を察知する程度の能力がある相手だ。しかも狼を連れている。


 ここは実力行使で全てを奪うよりも、小銭を稼ぐ方が安全であると判断したのだろう。


「別に教えてやってもいいがよ、出すもの出して――」

「おい、そこまでにしておけ」


 下卑た表情で情報料の催促をしようとした青年だったが、その台詞が誰かにさえぎられる。フランはその声の主である壮年の男性を、やや険しい目で睨んだ。


 この男性は、青年とほぼ同じタイミングで俺たちを尾行し始めた相手である。そう、尾行と言える程度には、気配の消し方が上手かった。斥候系の冒険者と比べても、遜色ない実力があるだろう。


 フランとしても、この男性は油断できない相手であると認識しているらしい。しかし、男性はフランと視線を合わせようとはせず、どこか及び腰の態度のまま、青年を睨みつけた。


「カルクさん、どうしたんすか?」

「その嬢ちゃんに手出しするな」

「手出しって、ちょいとばかり情報料を頂こうと思っただけっすよ?」


 当然のことながら、カルクという男性の言葉に、青年が不満げな表情をする。獲物を奪う気かと思ったのだろう。


「とにかくその嬢ちゃんに関わるな」

「はぁ? いったいどういうことっすか?」

「お前が知る必要はねぇ! 大人しくとっとと消えろ!」

「わ、分かりましたよ!」


 恐ろしく真剣な表情のカルクに怒鳴られ、青年はそのままフランから離れていく。去り際にフランを睨みつけるのを忘れないが、すぐにカルクに背中を蹴り飛ばされた。


 青年はゴロゴロと地面を転がって、壁にぶつかる。まさかそこまでされるとは思わなかったのか、怯えを含んだ表情でカルクを見上げているな。


「いいか、俺は大人しく消えろと言ったんだ」

「ひっ。す、すいやせんでした!」


 最後はカルクの威圧スキルに晒され、這う這うの体で逃げ去っていったのだった。その直後だ、カルクがその場で深々と頭を下げた。


「すいやせん。奴は実力の差も分からねぇボンクラなんでさ。ここは寛大な心で、許しちゃもらえねえでしょうか?」

「ん?」

「い、いや、怒ってねぇんならいいんでさぁ。ともかく、冒険者ギルドに行きたいってことでいいんですね?」

「ん。道教えてくれる?」

「へ、へえ。こちらです」


 どうやら自ら案内してくれるらしい。


「道教えてくれればいいよ?」

「いえ、案内させていただきやす。あいつみたいな馬鹿が、あんたにちょっかい出さないともかぎらねぇし。あんたが暴れるような事態になっちまったら、この地区がどうなっちまうか……」


 カルクは怯えを隠せない表情で呟いた。なるほどね。カルクは他人の実力を察知する術に長けているようだ。鑑定すると、弱者眼という魔眼の持ち主だった。これは、自分よりも強い相手を認識することができる魔眼であるらしい。しかも、自分との力量差がある程度分かるらしかった。カルクにはフランが途轍もない化け物に見えているのだろう。


 そんなフランたちが、チンピラ相手にブチ切れて暴れるような事態になったら? 周辺への被害は甚大になる。彼はそれを最も恐れているのだ。


 まあ、理由はどうあれ、カルクが道案内をすると言っている言葉に嘘はない。むしろ道には詳しそうだし、ここはカルクに頼ってしまおう。


「わかった。お願い」

「へぇ」


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― 新着の感想 ―
[一言] 市場ができる割に4時間って短い?商人が多いんだろうから積荷の確認とかあるだろうし、1人あたり5分だとして50人?王都から離れすぎるほどの行列できるほどじゃない気がする。トラック50台で考える…
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