2 I Can Fly
さて、まずは周辺の状況を確認するか。
まず、俺がいるのは、古びた遺跡の様な場所だ。屋根なんかなく、だだっ広い大平原に、ぽつんと存在している。遠目から見たら、大きめの噴水みたいに見えるかもしれない。
俺は、その中心に設置された台座に、宝剣よろしく突き刺さっていた。これはあれか? たどり着いた者に与えられる、伝説の武具的ポジションなのだろうか? にしては、周辺にダンジョン感はないが。
台座のせいで振り向くことができないので、背後のことは認識できない。だが見渡す限り、高い木の存在しない、茂みと低木だけの平原が続いていた。目を凝らせば、遠くに時折動く影もある。動物だろうか。
『人っ子一人見当たらないんだが』
自力で動けないか。
いやまて、スキルに確か念動があったはずだ。もしかして、これで動けたりしないか?
『むん』
集中だ。念動念動。
すると、俺の体がふっと軽くなった気がした。台座から刀身が僅かに離れた感覚がある。その感覚を大事に、剣が空を飛ぶイメージを思い浮かべた。
『おおお! 浮いたぞ!』
イメージすれば、自由自在だ。台座を離れた俺は、空中をスイスイと動き回った。
『アイ・キャン・フラーイ!』
速さはあまり出ないが、今はこれで十分だ。自力で動き回れることが分かったしな。
台座の周辺を動き回ってみた。やはり、遺跡みたいに見える。元は煉瓦の様に茶色いブロックで組まれていたのだろう。だが、長年風雪にさらされてきたせいか、色は黒ずみ、所々を苔が覆っている。
広さは直径20メートルくらいだ。
『一体誰が作ったのか。俺の制作者だとは思うが……』
これだけ古そうだってことは、俺は相当長い間放置されていたのだろうか。
剣に転生と言っても、何もないところから剣がオギャーと生まれる訳もない。俺の体を作った人間がいるはずだ。まあ、肉体が何かの事故で剣に変質したとかじゃなければ、だが。
その製作者が、使用者の第一候補ということになるのだろうが、製作者がすでに死んでいたりしたらその可能性は消えてしまう。
だが、俺の体である剣自体には、苔やほこりが付着していない。まるで、昨日今日ここに差し込まれたみたいに。
周辺を観察しながらいろいろ考えていたら、体に違和感が走った。
『……あれ?』
なんか、疲れが……。力が抜けていく感覚が、剣の体を襲う。
そして、落ちた。
『まじか!』
必死に念動を使おうとするが、全く反応しない。高さは、推定で10メートルはある。
『浮け! 浮いてくれ!』
だが、奮闘虚しく、俺は地面に思いきり叩きつけられた。
ガイイィィィーン! という、大きな金属音が響く。
『いー……たくはないけど。どっか割れたりしてないか? ひびとか』
慌てて体を見てみるが、どうやら無事なようだった。体の感覚にも、おかしなところはない。あれだけの高さから落ちて無事とは、やはり名剣なのかもしれない。
『でも、どうして落ちた?』
急に倦怠感の様なものが生まれ、念動が使えなくなった。
異変の原因を探るべく、ステータスをチェックしてみる。
原因はすぐに分かった。
『保有魔力がなくなってるな』
保有魔力:0/200となっていた。多分、念動を使っている間、魔力を消費し続けるのだろう。倦怠感の原因もこれに違いない。魔力切れになっても、意識を失わないのがせめてもの救いか。
『5分は飛んでなかったよな。多分3分くらいだったはずだけど』
俺は石畳の上で、しばらく待ってみた。すると、魔力が僅かに回復する。どうやら、1分で1回復するらしい。一時間待って60まで回復させると、俺は再び念動を唱えた。
『よし、浮くな』
問題なさそうだ。俺はそのままステータスをチェックした。ガンガン魔力が減っていく。
『念動を使っている最中は、1秒で1消費かな? それだと、200で3分程度っていう計算も成り立つし』
また地面にたたきつけられてはたまらない。俺は、魔力がなくなる前に、急いで台座に戻った。刺さってみると、妙に落ち着く。
『ふぅ。戻ってこれたか』
だが、これで下手に動きまわるのは危険だと分かった。暫くは台座周辺から出るのは避けて、平原を観察して過ごすとしよう。
平原を見ていると、色々な生物の姿がある。地球のサバンナの様に、哺乳類ばかりかと思いきや、どう見ても昆虫だったり、不定形だったりするやつらもいた。しかも、その大きさはまともじゃない。
例えば、最初に見つけた蟻っぽい姿の影は、大型犬くらいの大きさがあった。
剣でよかった。少なくとも、襲い掛かられることはなさそうだし。
『改めて、地球じゃないな』
もっと遠くを見ると、より大きな獣の影もあった。目測でしかないが、10メートル近いだろう。少なくとも、象よりはでかいと思う。
『いわゆる、魔獣ってやつか?』
それらを見ていて、1つ気になることがあった。
『あんなデカイ魔獣がいて、人間がここにたどり着くこととか、あるのか?』