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397 久々の行列

 ウルムットを出発してから2日目の早朝。


「あれが王都?」

『そのはずだ。さすがにあの規模の都市がいくつもあるとは思えん』

「おっきい」


 快調に空を駆けるウルシの背の上から、巨大な都市の姿が見えていた。バルボラも相当大きかったが、こちらはあの大都市を遥かに超えた威容を誇っている。獣人国の王都、ベスティアよりもさらに大きい。


 城壁からして規格外だ。周辺を囲む森の木々に倍する高さを持っているのだ。高さが50メートル以上はあるだろう。魔獣の存在するこの世界では、安全を追い求めたらこのくらいは必要になるのかもしれない。


 しかも城壁は武骨なだけではなく、所々にある尖塔の屋根や壁には美しい装飾が施され、華麗さも感じることができた。なるほど絢爛さと堅牢さを兼ね備えた、王都の名にふさわしい都市である。


 位置的には、北部にあるアレッサから見て南東、南部にあるウルムットからは北東に存在している。国土の中心からはやや東にずれた場所だな。クランゼル王国建国時は、ここが国の中央部であったらしい。だが、長い年月で国土の形が大きく変わり、やや東寄りに位置することとなったそうだ。


 200年ほど前にはもっと海に近い場所に遷都をしてはどうかという話も出たらしいのだが、新たに都を築く費用と労力を考えて、取りやめになったんだとか。まあ、これだけの規模の都市を新たに作ろうと思ったら、その対価は凄まじいことになるだろうしな。


『じゃあ、この辺で降りよう』

「オン」

「ん」


 いつも通り、都市の手前で降りて、歩いて門へと向かう。すると、王都の手前には長蛇の列ができていた。ウルムットに入る時にもかなり長い列に並んだが、あれ以上だ。


 ウルムットを発つ前にディアスに忠告されていたが、目にすると想像以上だな。オークション目当ての観光客などが並んでいるのだ。これを一直線に並ばせてしまうと、最後尾は王都から大分離れてしまい、魔獣などによる被害も懸念される。それ故、入場待ちの人々は城壁に沿うように列を作っていた。


 周囲を騎士や兵士が巡回し、行列整理兼護衛をしている。


『面倒だが仕方ない。大人しく並ぼう』

「ん」


 列の最後尾を目指して歩く。地上に降りてしまうと、普通に先が見えんな。


 ウルムットでも行列に並んだ人々を相手に商売をしている人々が多く見られたが、こちらは規模が違う。それこそ、小さな村の市くらいは余裕で超えているだろう。


 露店どころか、普通に店が立っている。多分、簡易的に組み立てられる店なのだろうが、この時期の為に立てたのだろうか? 行列はゆっくりと流れているため、それぞれの露店の商品をじっくりと見る暇はある。


 まあ、日本の古き良き駅弁販売スタイルで、移動しながら商売をしている人たちも多いけどね。商品の内容や規模で、スタイルが違うんだろう。


 待っている間、飽きずに済みそうだ。


「見えた、あそこが一番後ろ」

『長かったな』


 多分、3000人くらいは並んでいるんじゃなかろうか? これでも、王都の住人や貴族、登録済みの人間用の門が他にあるというのだから恐ろしい。この列の人間は、ほぼ全員が王都が初めてか、1年以上ぶりの来訪ということになるのだ。つまり、オークションの参加者たちということである。


 ピンポイントでガルスに出会えるか、心配になってきたぜ。まあ、細かいことは王都に入ってから考えることにしよう。


『だいぶ時間がかかるはずだから、ゆっくり待とう』

「ん」

「オン」


 今回はウルシも一緒だ。影で留守番させようかとも思ったが、結構他にも魔獣を連れている者たちも多い。テイマーに連れられた狼型の魔獣や、大規模隊商の大型馬車を引く3メートル近い巨大な馬など、結構迫力のある魔獣たちが人間に混じって列に並んでいる。


 これならウルシが一緒でも大丈夫だろう。さすがに巨大化状態だとパニックになるだろうけどね。一応、従魔証をしっかり周囲から見える位置につけておく。


 ウルシが居れば雑魚なら絡むのをためらうだろうし、フランのソファ兼露払いの意味もあるのだ。


(じゃあ、ココントウザイする)

『お、久しぶりにやるか?』

(ん!)


 どうやら、ウルムットの行列待ちの時にもやった古今東西が意外に気に入っていたらしいな。まあ、時間はたっぷりあるし、フランが飽きるまで付き合ってやろう。



 そんなこんなで2時間経過した。俺たちの順番はまだかなり先だな。


 すでに古今東西には飽きて、今はウルシとリバーシをやっている最中だ。ウルシの石はフランが置いてやっている。


 これは行列待ちの人間にボードゲームを売っていた商人から購入した物だった。人間の心理を巧妙についた、上手い商売だな。 


 因みに、リバーシの前はフランとウルシが○×ゲームをやっていたんだが、お互いに慣れてしまい、100戦くらい引き分けた時点で飽きたようだった。


 待っている間、ただゲームで遊んでいただけではない。お茶やおやつを食べたり、前後の商人さんたちと世間話をして仲良くなったりもした。


 俺たちの前に並んでいたのは、干した果物を行商しているレブさん(31)である。オヤツ代わりに干しブドウ、林檎チップを買ったことで仲良くなった。


 後ろに並んでいたのが香木を商っているメナンさん(41)。徒歩のレブさんと違って馬車持ちだ。幌無しの小さい馬車だし、引いているのはロバであるが。


 肉などの燻製を作る用に、いくつか香木を購入したことでこちらも話をするようになった。今ではフランとウルシのリバーシを後ろから覗き込みつつ、口出しをする程度には仲良くなったのだ。


「いやいやまてお嬢ちゃん。そこじゃない。こっちだろ」

「でも、それだとここを取られる」

「あえてだよ。そこを取らせて、次にこっちだ」

「なるほど」


 そんな感じでレブさんとフランが相談している横では、メナンさんがウルシに語り掛けている。


「ウルシよ。ここだ」

「オン?」

「確かに角を取られる。しかし、ここまで盤面が進めば、角を取られても逃げ切れる」

「オオン……」


 狼と真剣にリバーシの石をどこに置くか相談するおじ様。カオスな図だ。ただ、魔獣の中には人間並みの知能を持つ種族は珍しくないので、メナンさん的には違和感がないらしい。真面目にウルシと話している。


「……おお」

「やはり……」


 そんなフランたちの横を、妙にゆっくりと通り過ぎていくやつらがいた。特に何をするでもなく、ただ不自然なほどフランのことをチラ見しながら行ったり来たりしているのだ。あれで気付かれていないと思っているのかね?


 その不自然な通行人のほぼ全てが獣人たちであった。どうやら列に並んでいる獣人の間に、黒雷姫が並んでいるという情報が知れ渡ったらしい。


 現在は進化隠蔽スキルを使用しているので、獣人でもフランが進化しているとは分からないはずなんだが……。どうやらウルムットの武闘大会で盛大に進化姿を見せたことで、黒雷姫は進化していることを隠すことができるという噂が一緒に囁かれているらしい。


 なので、黒猫族の少女で、狼の従魔を連れたフランが、噂の黒雷姫であるとバレたようだった。もしかしたらウルムットで直接フランを見た人間でもいたのかもしれない。チラ見しに来た獣人たちは、フランが黒雷姫であると確信しているようだった。悪意は感じない、というか敬意しか感じない。拝むやつまでいるし。


『気にならないか?』

(なにが?)


 獣人国で散々注目されたせいで、この手の視線には慣れてしまったらしい。フランは全く気にしていないようだ。なら、とりあえず放置だな。直接話しかけられる訳でもないから、放置するしか手がないんだけどね。


4巻&コミカライズ2巻の発売まで1週間をきりましたよ!


あと、こみらの様に取り上げていただいております。

コミカライズの作画の丸山先生と簡単なインタビューに答えておりますので、興味がおありの方は手に入れてみてください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後が何が?じゃなくてウルシも参謀をかかえてるとかならなお面白かったかも
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