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394 再びウルムット


 バルボラでの用事を済ませた俺たちは、王都へと向かう前にウルムットを目指していた。


 というか、そもそも獣人国に行ったのはウルムットの冒険者ギルドのマスター、ディアスの依頼を受けてということになっている。


 その内容は、行方不明となった黒猫族の冒険者の捜索。まあ、キアラ婆さんのことだな。


 半分は有名になり始めていたフランを守るための建前みたいなものであったのだが、実際に本人と出会い、その死を看取ったからには、報告しない訳には行かない。


 武闘大会のインパクトが未だに残っているようで、この町でのフランの注目度は凄まじかった。街を歩けば人々が振り返り、立ち止まれば人垣ができるのだ。しかもそのほとんどが冒険者という状況である。


 だが、中には武闘大会以降にこの町へやってきた冒険者もいるらしい。


「なんであの小娘に注目してるんすか?」

「おめー、知らねーのか?」

「は、はい」

「あれが黒雷姫だよ」

「ええ? あ、あれが? ただの獣人の娘っ子じゃないですか!」

「これだからルーキーは……」


 なんていう言葉がそこかしこでかわされている。新人たちには見ただけで実力を測るなんて真似、出来ないから仕方ないよな。そして、冒険者ギルドの外で、久々のイベントである。


「おい、小娘。新人が随分といい剣を持ってるじゃねーか?」

「ちょっと顔貸せよ」


 どうやらギルドに入ろうとしている新人や駆け出しをカモにしている、不良冒険者たちであるらしい。


 外見は冒険者と言うよりも完全に山賊だった。毛皮のベストとか、防御力あるのか? 防寒用なのか? スキンヘッドが1人にモヒカンが2人という、絶対にお友達にはなりたくない外見である。


 能力的には雑魚だ。にしても、40近い年齢でこの能力って……。多分、危険を冒さずに、採取や雑魚魔獣狩りをして日銭を稼ぐような生活を長年続けてきた、なんの気概も展望もないタイプの冒険者なのだろう。


 別にそれが悪いとは言わない。生活のために冒険者をやっている人間は多いだろうし。だが、他人に迷惑をかけるのなら話は別だ。


「おら、こっちこい」

「さっさとしろや」


 男たちは手慣れた様子でフランを取り囲みつつ、ギルドのすぐ脇にある路地へと誘導しようとしている。普通の新人冒険者であれば、ガタイの良い男たちにこれだけ威圧されてしまえば従わずにはいられないだろう。


「げへへ、ウルムットはガキが多くてやりやすいな」

「まったくだ。おい、なに突っ立ってやがる」

「とっととそっち行け!」


 フランを進化させるためにダンジョンマスターのルミナが無理をしたせいで、ウルムットのダンジョンは大きく力を減じている。そのせいで出現モンスターのランクが下がってしまい、産出素材の質も低下してしまった。


 結果として、冒険者やギルドの実入りが減ってしまったが、その損失を補てんするために新人の修行場としてルーキーを呼び込んでいる。こういう馬鹿どもにとっては獲物がそこら中にいる状態なのだろう。


「おい小娘! 突っ立ってねーで――ゲボ!」

「てめぇ! いきなり――ガハッ!」

「お――ブゲラッ!」


 よかったねフランの機嫌が良くて。ワンパンで済んだからね。ちょうど町に入る前に食事を終えたばかりだったのだ。不機嫌だったら俺を抜いていたぞ?


 まあ、男たちは血を吐いてもがき苦しんでいるけどな。


『ちょいとスキルの力加減を間違えたな』

(ん。ちょっとだけ力が入っちゃった)


 フランは骨の1、2本程度で済ますつもりだったんだが、どう見ても肋骨が4、5本は粉々に砕け、内臓まで損傷を受けている。わずかな苛立ちのせいで、力がやや入り過ぎたのだろう。


 ただ、1人目よりも3人目の方が少しダメージが少ないかな? 多分、3回目の方がちょっとだけスキルの制御が上手くいったんだろう。1人目が8割殺しのところ、3人目は7割殺しくらいで済んでいる。


 悶絶させるだけのつもりが、大怪我させてしまったわけで、完全に失敗してるな。だが、俺は褒めて伸ばす男。


『3人目はちょっとだけ上手くいってるじゃないか』

(ん。コツがつかめてきたかも知れない)


 ここは失敗を指摘するよりも、上手くいった部分を褒めるべきだろう。このまま馬鹿どもが大量に絡んできたりしないかな? あと100回くらい繰り返したら、フランのスキル制御の訓練になるんだが。


 無理だろうけどね。周囲で大勢の冒険者がこっちを見ている。噂はあっと言う間に広がるだろう。彼らのざわめきを聞きつけたのか、ギルドの中から誰かが出てきた。


「ちょっと、何の騒ぎ?」

「エルザ?」

「あらん? フランちゃんじゃなーい! お久しぶり!」


 現れたのはガタイの良いマッチョメンだ。相変わらずの赤毛のアフロに、濃いメーク。そしてピッチピチの服装。


 ランクB冒険者のバルディッシュ――ではなく、エルザである。


 クネクネナヨナヨとした女性っぽい動きをしたガチムチの男ではあるが、その実力は確かである。ランクA以上というのが英雄クラスの超人であることを考えれば、普通の冒険者の中ではトップクラスと言っていいだろう。


 また、外見に似合わず面倒見が良く、フランも色々と世話になった。


 まあ、オカマでバイでマゾでストライクゾーン広めという真性の変態なので、気は許さないけどな!


「また会えて嬉しいわん!」

「ん。ディアスいる?」

「ええ、中にいるわよ。それにしても、この倒れてる子たちって、もしかしてフランちゃんに何かしようとした?」

「ん」

「まったく、実力差もわからないのかしら……。自業自得ね! まあいいわ。エリック、ケイン」

「あ、はい」

「なんすか?」

「こいつら、他の子たちと手分けして医務室に放り込んでおいてくれる? 私はフランちゃんとお話があるから」

「わかりました!」

「了解っす!」


 相変わらずこの町の冒険者たちはエルザに従順だ。いや、逆らえない気持ちは分かるけど。野次馬に混ざっていた何人かが、エルザの指示通りに馬鹿どもを担いで運んでいった。


「それで、ギルマスに用事ってことよね?」

「ん」

「いるにはいるんだけど、今はオーレルお爺ちゃんとお話し中なのよね。少し待っててくれる? まだ終わらないか聞いてくるから」

「オーレルにも話があるから、ちょうどいい」

「あらん? そうなの? じゃあ、フランちゃんを通していいか聞いてくるわ」

「お願い」

「うふん。フランちゃんのためだもの!」


 去り際、エルザがバチンとウィンクをする。おおう、久々の悪寒! ちょっとだけビクッと震えてしまったぜ。


(どうしたの師匠?)

『フ、フランは今のを見ても何ともないんだろ?』

(今の?)

『いや、何でもない。何でもないんだ』

(?)


 やっぱりエルザは苦手だ。


次回から通常のペースに戻します

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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ誰にでも合う合わないはありますからね
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