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384 慰労会


 参加した慰労会は、想像の斜め上を行く内容であった。というか、飲み会のようなものだというレイモンドの言葉は、フランが参加し易くなるように使った方便だとばかり思っていたんだが……。


『まさかマジで飲み会だったとは』

「もむもむもむもむ!」


 フランは目の前に積み上げられた様々な料理を口いっぱい頬張り、ひたすら貪っている。いや、フラン以外のほとんどの参加者もそうだった。


 最初は一応、主賓や王族、上位貴族の挨拶的なものがあったのだ。フランもその場で功労者として紹介され、その美しさに感嘆の溜息が漏れたりもしていた。


 その後の歓談の時間では、身の程知らずにもメアやフランに話しかけてくる顔自慢、武力自慢の若者たちもそれなりにいた。


 まあ仕方ない。フランだけではなく、めかし込んだメアも相当可愛いしね。青と白の白雪姫チックな服装のフランとは対照的な、白と赤のドレスだ。


 肩出しで、中々攻めたデザインだな。まあ、メアの幼児体型のせいでセクシーさは全くないが、その可愛らしさは十二分に引き立てられている。


 俺は今はフランの首に巻かれた金属製のチョーカーに成りすましている。奴隷の首輪を思い出して嫌がるかとも思ったが、特にトラウマはないようだ。普通に首輪っぽいチョーカーに変形した俺を巻いていた。


 武器持ち込み可だから、いつも通りでもいいんだが、フランの可愛さを俺が損ねる訳にはいかないからね。姿形には結構凝っているよ? 小さい金属の輪を繋げたような造形である。


 首からなら障壁を展開すれば即座に頭部と心臓という2大急所も守れるし、悪くない装備場所なのだ。アリステアに改修してもらったおかげで、形態変形の持続時間が飛躍的に延びている。戦闘せずにじっとしていれば数時間くらいはこのままでいられるだろう。少なくともパーティが終わるまではチョーカーのふりをしていられるはずだった。


 多くの青少年の目を釘付けにしたフランとメアのドレス姿であるが、ほぼ全員が数度の会話で退散していった。単純に、相手が進化している上に、自分よりも強いと理解して逃げていったのだ。完全に色気よりも食い気だしね。


 普段であれば遠目からでも分かるはずなのだが、色ボケ状態の若者たちは近寄るまで気づけないらしい。それを年かさの上官たちがニヤニヤと見守っていた。若者たちの玉砕っぷりを肴に一杯やっているのだろう。


 短い歓談の時間が終わると、コース料理的な物が運ばれてくる。贅を凝らした高級料理たちである。


 そこでもまた、フランが注目を浴びることになった。言い方は悪いが、教養のない冒険者だと思われていたフランが、美しい宮廷作法を披露したからだ。実力のある冒険者として尊敬されていたものの、まさかそんな芸当が出来るとは思っていなかったんだろう。


 メアも驚いている。彼女自身は王族なので宮廷作法は身に付けさせられたが、まさかフランが出来るとは思わなかったのだろう。


「す、すごいなフラン」

「はい。お嬢様より美しいかもしれません」

「う、うむ……」


 メアの場合、なんとかマナーを間違えずに食事ができているって感じだからね。


「負けていられませんね」

「そ、そうだな……」


 クイナの言葉に素直にうなずくメア。さすがに年下でどうみてもガサツなフランにマナーで負けたことはショックだったらしい。クイナが感謝の目でフランを見ている気がする。


 他の獣人たちも目を丸くしているな。勿論、獣人国では強い者が好まれるので、これまでだって下に見られていたわけじゃない。ただ、可愛いドレス姿で、メアにも劣らず美しいテーブルマナーを披露したフランを見る目は確実に変わったようだった。


 英雄的な相手に向ける眼差しだったのが、アイドルを見るようなかなり熱のこもった視線になった気がする。おいおっさん、頬を赤らめるんじゃない! そっちのガキ、少々フランを見る目が危ないぞ!


 まあ、今のフランは魅力的だからな。惚れてしまうのは仕方ない。だが、フランとお付き合いするなら、フランを支えられるくらい強くないとな。


 この中だと、俺のお眼鏡にかないそうな男は3人しかいない。あとは全員落第である。


 1人がバラベラムという老将軍だ。この人が防衛軍の主将であったらしい。なんと十始族の1つである紫風象だ。身の丈は3メートルを超えていて、最初は巨人族か何かかと思ったほどだ。しかもこの巨体でありながら指揮系のスキルも充実しており、歴戦の猛将であるということをうかがわせた。


 今では柔和な笑顔を常に浮かべた好々爺なのだが、若い頃は破壊王などと呼ばれた荒くれ者であったらしい。


 多分、冒険者のランクで言えばAは確実だろう。少なくともゴドダルファよりも強かった。これで、老齢のために衰えているというのだから信じられん。まあ、確かに体力面はレベルに似合わず多少低い気はするが。この国の最高戦力の一角と称えられるのも当然だった。


 次に強いのがリグダルファという白犀族の男性だ。族長という称号を持っている。グエンダルファの父親で、武闘大会で戦ったゴドダルファの弟で間違いないだろう。


 ゴドダルファが獣王に仕える為に族長の座を捨て、繰り上がりで族長になったっていう話だったよな? とてもそうは思えないほどの実力者だった。


 体力面ではゴドダルファに及ばないものの、風魔術をレベル5で所持しており、魔力も敏捷力も高い。汎用性はリグダルファの方が高いんじゃなかろうか? ただ、白犀族は明らかにパワー系の種族だし、腕力、体力が高い方が尊敬されるのかもしれないな。


 当然、進化済みだ。また、武器はゴドダルファのような巨大戦斧ではなく、六角棍を使うようだった。2メートルを超える筋肉ムキムキの大男が、身の丈を超える六角棍を振り回す姿は中々迫力がありそうだった。


 ただ、兄に勝利したフランをどう思っているのか分からない。グエンダルファも知っていたし、リグダルファが知らない訳はないと思うんだが……。この人もクイナと同じ無表情系なので、顔に感情が出にくいのだ。一応挨拶はしたんだが、好悪どちらの感情も読み取ることはできなかった。


 そして一番気になったのが、リュシアス・ローレンシアというおじ様である。これがローレンシアの姓を持つ男か。リンフォードとは似ても似つかない、なかなかのイケメンである。


 大地魔術のスキルが高く、魔術師としての腕前はかなりの物だ。宮廷魔術師であるのもうなずける。


 称号関係などを見てみたが悪人系が所持しているような称号もなく、スキルに邪術系のスキルもない。メアが言う通り、悪い人間ではないのだろう。


 挨拶をしたが、こちらに対して含むところもなさそうだった。むしろ非常に物腰が柔らかく、好感が持てる程だ。まあ、フランはあげないけどね!


 メアやリュシアスと談笑するフランに話しかけようと、男たちが牽制しあっているのが分かる。


 だが、和やかな雰囲気は追加の食事が運ばれてくるまでであった。そこから先、パーティー会場は戦場と化したのだ。上官も部下も、老いも若きも関係なく全員が狩人と化し、食べ物を巡って激しく争っている。


 最初のフルコースはパーティの式典の一部、追加の料理は完璧に腹を満たすための大皿料理。そうやって分けられているんだろう。式典の中で2次会までやってしまう感覚に近いだろうか? 獣人国ではこれが普通の流れであるらしく、皆が疑問を口にすることなく、一斉に料理に群がっていた。


 フランとメアは勝者である。大柄な男たちを腕力で押しのけて最前線を確保し、運ばれてくる料理を大皿にこれでもかと載せ、自らの席に運んで確保していった。幼い少女に軽くあしらわれた上に、好物を根こそぎ奪われた大男が半泣きで逃げていったね。


「モグモグモグモグ」

『美味いか?』

「ん!」


 どうかドレスだけは汚しませんように!


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― 新着の感想 ―
族長とか宮廷魔術師とか他国だと貴族相当な肩書だろうと思うけど師匠の鑑定癖はもう治らんねw
[一言] 宮廷作法を上げれるだけ 上げてしまいましょう! 絶対、損には成りませんって! いざという時の 深窓の令嬢モード ・・・ そんなフランも見てみたい❗️ 内心、爆笑してるんだろうなぁ ・…
[気になる点] この世界だと汚れても即座に浄化魔法で何とかなったりしないかな? シミにならなそうで羨ましい…
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