36 ゴブリン討伐戦 悪魔
扉の向こうは今までの洞窟とは違い、石壁に囲まれた、人工的な部屋だった。
「よぉよぉ! 初めての客だ! 歓迎するぜ!」
うーん、ガラの悪いニイチャンが宙に浮いている。肌がタールみたいに黒くて、蝙蝠みたいな翼が生えていて、角があって、非常に威圧感のある姿をしていた。ただ、そのチンピラっぽい態度が、全てを台無しにしている。怖さ半減だな。
まずは鑑定だ。
種族名:デーモン:悪魔:魔獣 Lv30
HP:1900 MP:2409 腕力:720 体力:798 敏捷:775 知力:882 魔力:1108 器用:658
スキル
穴掘り:Lv3、暗黒魔術:Lv4、威圧:Lv4、運搬:Lv2、恐慌:Lv4、剣技:Lv5、剣術:Lv5、状態異常耐性:Lv7、土魔術:Lv7、登攀:Lv1、毒魔術:Lv7、魔力障壁:Lv6、闇魔術:LvMax、料理:Lv1、暗黒強化、暗黒無効、暗視、自動魔力回復、支配無効、皮膚硬化、魔力小上昇、腕力小上昇
エクストラスキル
スキルテイカー:Lv6
称号
悪魔伯爵
装備
魔影鋼の長剣
説明:ダンジョンマスターによってのみ召喚される、ダンジョン固有種。混沌の神の眷属であり、その戦闘力は非常に高い。最低脅威度はCであるが、Sに到達する個体の存在も確認されている。召喚時、元となる個体にダンジョンマスターが能力を付与するため、その能力は千差万別。魔石位置:心臓。
『悪魔ね……』
強すぎる。1000を超えるステータス値なんか、初めて見たぞ。
暗黒魔術:闇魔術の上位魔術。闇と影、毒と死を司る。
恐慌:自身を目視している対象に、精神状態異常〈恐慌〉を与える。
魔力障壁:魔力を消費し、物理、魔術、双方に耐性のある障壁を展開する。
スキルテイカー:条件の合う、対象のスキルを収奪する。
うわ、スキルも厄介な物が揃ってる。
『フラン、ヤバイ相手だ。気を抜いたら、瞬殺されるぞ!』
「ん!」
ゴブリンやアーミー・ビートルたちから魔力を吸収しまくったおかげで、俺の魔力はほぼ満タンだ。スキルも魔術も使い放題である。だが、それでも目の前の相手に勝てるとは言い切れなかった。それくらい、圧倒的だ。いつでも使えるよう、転移の羽は常に準備しておかないとな。
「はっはぁ! やる気じゃねーか! いいねぇ! 俺はガキだからと言って、容赦しねーぜ? なにせ、ダンジョンを抜けてきたってことだしなぁ!」
「おい、悪魔! 何やってる! さっさとそいつを片付けろ!」
うん? よく見ると、部屋の向こうに、ゴブリンがいるな。ただ、普通のゴブリンと違い、流暢に言葉を操っている。
種族名:レアゴブリン:邪妖:魔獣:ダンジョンマスター Lv11
HP:25 MP:131 腕力:12 体力:12 敏捷:13 知力:44 魔力:13 器用:7
スキル
穴掘り:Lv2、眷属召喚:Lv5、棍棒術:LV2、心話:Lv2、調教:Lv2、覇気:Lv1
装備
樫の棍棒、革のローブ、身代りの腕輪
雑魚いが、ダンジョンマスターに間違いないらしい。じゃあ、壁の窪みで輝いているのが、ダンジョンコアか? ここが、ダンジョンの最奥ということか。
しかし、本当に雑魚だな。こいつが、悪魔を使役しているのか?
ゴブリンや、アーミー・ビートルは分かる。こいつの配下に相応しいだろう。だが、あの悪魔は強すぎじゃね? ダンジョンマスターの特殊能力か? 悪魔使役の能力とかあったら、面白そうだったのに。スキルにその手のものは確認できない。
もう一つ残念なのは、ダンジョンを操る様なスキルがないことだ。多分、ダンジョンコアを通してダンジョンメイキングを行うんだろう。なので、ダンマスのスキル自体には、それ系のスキルが何もない。
「うるせえ! 侵入者はきちんと始末してやるから、黙ってろ!」
「くそっ。モンスターガチャにGP全部つぎ込んで激レア悪魔を引いたとこまでは最高だったのに! なんでいう事を聞かないんだ! しかも、術師型の癖に、近接戦闘をやりたがるしよ!」
すげー説明臭い台詞だったけど、おかげで全部わかった。悪魔には支配無効のスキルがある。そのせいで、ダンマスの支配さえ、受け付けないらしい。
「この部屋まで到達する奴がいるなんて! 我が精鋭たちはどうした!」
「やられたんじゃね? 所詮はゴブリンどもだし」
「人間の様な下等生物に、至高の生物たるゴブリン兵団が負けるわけないだろう!」
「あーはいはい。そうだな」
「とにかく、お前は奴らを叩き潰せ!」
「言われなくとも。なかなか歯ごたえのありそうな相手だしよ」
悪魔はそう言って、剣を引き抜いた。
「じゃあ、あいつがうるせーから、行くぜ?」
悪魔がそのまま突っ込んでくる。魔法スキルの方が高いくせに、自分から接近戦を挑んでくるなんて、超好戦的なやつだ。フランと気が合いそうだな。
「おらぁ!」
「はぁ!」
ギィィン! ガキィ!
「ははぁ! 良い剣だ! こいつとまともに打ち合えるとはな!」
名称:魔影鋼の長剣
攻撃力:561+450 保有魔力:56 耐久値:1000
魔力伝導率・C+
スキル:影戻り
魔力伝導率が高い。すでに魔力を纏わせているらしく、その攻撃力は1000を超えていた。しかも、スキル影戻りによって、投げたりしても手元に戻る。
こっちも、500程消費して、攻撃力を上げている。だからこそ、打ち合えているんだが。
「ちっ、剣の腕はそっちが上か! じゃあ、これならどうだ?」
「? くっ……」
奴の姿が一瞬で見えなくなったと思ったら、突然背後から現れやがった。
やばい! フランの左腕が、完全に切断されていた。大量の血が噴き出し、一気にHPが減少する。
『何が起きたっ……!』
俺は念動でフランの左腕を引き寄せると、断面同士を押し合わせた。そして、慌ててグレーター・ヒールを唱える。小さな部位欠損は治してしまう、Lv1治癒魔術だ。切断面の再接合程度は、楽勝である。
「お? 念動スキルでも持ってるのか? しかも、そのレベルの回復魔術を使うとは面白いな! 魔剣士か?」
悪魔は笑っているが、こちらはそれどころではない。
『今のは。何だ?』
悪魔の姿が突然消え、背後から切りつけられた。
『フラン! 大丈夫か?』
「だい、じょぶ!」
「おらおら!」
「ん!」
「もう受けるかよ! 良い反射神経だな!」
やはりだ。どう見ても消えている。瞬間移動? だが、奴のスキルにその手の能力はなかったはずだ。となると、魔術か? 闇魔術か、暗黒魔術だろうか……?
「おうら!」
「はっ」
やはり、そうだ。今、悪魔が転移した時、奴の影から魔力が流れ出た。そして、フランの影からやつが湧き出る。影を利用した、転移魔術だ。
タネさえわかれば、対処可能だ。なにせ、湧き出る先が分かっているのだから。
「ひゃはー――がっ!」
「調子に乗りすぎ!」
「かはは、やるねぇ! もう絡繰りに気づいたか?」
ちっ。余裕だな。一応、やつの脇腹を斬り裂いた今の一撃は、振動牙に魔毒牙も発動しているんだが。
「あ? 毒か? 俺の状態異常耐性をぶち抜いて毒を与えてくるとは……やるな!」
はいはい、またそれかよ! バトルジャンキーめ!
魔毒が、王毒、猛毒をさらに下回り、単なる毒になってしまったか。しかも、奴の持つ自動回復スキルのせいで、ほとんど効果がないみたいだ。
『フラン、直接攻撃は急所狙いでいくぞ』
「ん」
俺たちに有利なところは、相手がまだこっちを舐めていること。そして、俺の存在が知られていないこと。
なので、俺は大っぴらに攻撃はしない。こっそりと補助しつつ、いつでも逃げられるように転移の羽を準備しておく。
「はぁぁぁぁ!」
「ひゃはは!」
再びの激しい剣戟。
ピカッ!
そんな中、2人の周辺で何かが輝いた。直後、光の中からホブゴブリンが現れる。その数は4匹。
「いけ、我が眷属たちよ! 侵入者を殺せ!」
ダンジョンマスターの仕業だった。ここでホブゴブリンとは……。場違いすぎて、逆に恐ろしいぜ。
案の定、フランと悪魔の余りにも激しく、余りにも速すぎる戦闘に、全く手出しをすることができずにマゴマゴしていた。
「何をしている、さっさとやれ!」
ダンマスの命令に、意を決したホブゴブリンが、戦闘の輪に近づき……。
「邪魔だ!」
悪魔の剣で両断された。さらにもう1匹、フランの剣で切り捨てられる。
「な、なにをするのだ! 味方だぞ!」
「こんなくそ雑魚ども、邪魔なだけなんだよ! せっかく楽しくなってきたってのによぉ。消えろ!」
哀れ、残ったホブゴブたちも悪魔の放った黒い光弾に吹き飛ばされ、天に召されたのだった。
怒りと屈辱にプルプル震えるダンジョンマスターが、少し哀れに思えてきたな。そんな哀れなダンマスを余所に、フランたちの戦いは、より激しさを増していった。
広間には、打ち合わされる剣の音だけが、ギンギンと響き続けている。
「楽しいな! おい! だが、このままじゃらちが明かねーのも確かだ!」
そう叫んだ悪魔が俺を大きく弾くと、フランから僅かに距離をとった。
何をしてくる気だ?
「そろそろ決着を付けよーか! まずは、お前から戦う力を奪ってやる」
「?」
『やばい、奴のエクストラスキルだ!』
「ひゃははは。喰らえ、スキルテイカー!」




