372 黒天虎装備
アースラースが旅立った翌日。魔石を吸収し終えた後、俺たちもまたアリステアの館を出立しようとしていた。
『色々と世話になったな』
「いや、こちらこそいい経験をさせてもらった。また会えるのを楽しみにしている」
『防具まで改良してもらったのに、本当にあんな報酬でいいのか?』
「構わんよ。フランの反応を見ていたら、金なんぞよりも余程貴重なようだからな」
相手は神級鍛冶師だぞ。その神級鍛冶師に修復&改修してもらって、防具まで改造してもらったのだ。しかも、俺の修復などにはかなりの貴重な素材を使ったはずだ。
普通に考えたら、何億ゴルドもかかっても当然なんじゃないか? だが、アリステアは報酬などいらないと言ってきたのだ。俺という面白い剣を解析できただけで、お釣りがくると。
さすがにそれは悪い、報酬を払うと言い張ったら「じゃあ、100万くらいでいいぞ。気持ちだけもらっとくさ。魔獣素材ももらったしね。あと、カレーを鍋ごと置いていけ」とのことであった。
100万ゴルドって結構な大金だが、アリステアにとってははした金なのだろう。気持ち扱いだ。なので、100万ゴルドと、一番大きいカレー鍋を1つ置いていくことにした。
フランがカレーを渡すくらいだったら有り金全部置いていくって言い張ったが、町に行って香辛料を手に入れれば何とかなるからと説得した。だって、カレーなんて業務サイズの大鍋満タンでも、1万ゴルドかからないんだからね。
レシピを渡そうとしたら、料理は一切できないからいらないということだった。料理用のゴーレムは、予めインプットしてある料理しか作れないらしい。
「防具ありがとう」
「元の防具がいい物だったからな」
『ああ、メッチャ可愛いし、強いし、本当にアリステアに頼んで良かったよ』
フランが身に着けているのは、以前とは大分様子の変わった黒猫装備シリーズである。いや、名前はもう変わったから、新装備と言えるな。面影は残しつつも、そのフォルムは大胆に変更されていた。
だが、その性能は外見以上に凄まじい変化を遂げている。まずそれぞれの個別の防御力が50も上昇していた。元々の防御力が総計で350だったのだが、現在は300も上がって650だ。
耐久値も200上昇し、より壊れにくくなっただろう。効果も地味に強化されている。
名称:黒天虎の闘衣
防御力:150 耐久値:800/800
効果:快眠、消臭、浄化、精神異常耐性大付与
名称:黒天虎の手袋
防御力:120 耐久値:800/800
効果:衝撃耐性大付与、腕力中上昇
名称:黒天虎の軽靴
防御力:115 耐久値:800/800
効果:跳躍付与、敏捷中上昇
名称:黒天虎の天耳輪
防御力:65 耐久値500/500
効果:騒音耐性大付与、属性耐性大付与
名称:黒天虎の外套
防御力:135 耐久値800/800
効果:耐寒付与、耐暑付与、装備自動修復
名称:黒天虎の革帯
防御力:65 耐久値500/500
効果:魔術耐性中付与、状態異常耐性中付与、アイテム袋能力小
しかも、黒猫の加護が黒天虎の加護にパワーアップしている。
黒猫の加護は、黒猫装備を全て身に着けている間、全ステータス+10。さらに、即死無効というものだった。あと、黒猫族にしか装備できないという効果もあったか。
黒天虎装備はさらに強烈だ。全ステータス+20に加え、即死無効、雷鳴無効、隠密強化。そして黒天虎にしか装備できないという、現在ではほぼフラン専用の装備品となっていた。
まあ、かなり可愛いデザインだから、キアラ婆さんが生きていても装備するとは言わなかったと思うけどね。
基本は黒猫装備だ。だが、細部にフレアやレースのようなヒラヒラがあしらわれ、全体的に少女らしさが付け加えられている。
特に大きな変化は黒猫の闘衣だろう。首元にはつけ襟にも見える大きな襟が付き、肩口や胸元にもフリルがあしらわれた。下半身は完全にヒラヒラのスカートタイプになり、その下にキュロットとアンダースコートの中間のようなパンツを履いている感じだ。
やはり男勝りでもアリステアは女性なんだな。ガルスが作ったボーイッシュな物よりも、だいぶガーリーに仕上がっている。
「ヒラヒラしてるけど動ける」
『うんうん、フラン可愛いぞ』
「ああ、我ながらいい出来だ。似合ってるぞ。男どもの視線を独り占め間違いなしだ。きっと目立つぜ?」
「? 目立つのはまずい」
「どうしてだ?」
「モンスターに見つかる」
『フラン。アリステアの言ってる目立つはそういう意味じゃないぞ……』
うん。フランさん、可愛さには全く興味が無いからね。動き易くて、強いってところ以外に関心が無いのだ。
「師匠……」
『分かってる。分かってるが、こればっかりは仕方ないだろ? 俺は男だし、フランがそもそも可愛いものに興味ないんだから!』
「そうだが、せっかく素材がいいのに」
アリステアは自身に一切化粧っ気が無いのに、他人は気になるらしい。俺をジトーッとした目で睨んでいる。
『お、俺だってこのままじゃマズいなーとは思ってたんだ。善処するよ』
「……まあ、期待せずに待っておくよ」
『そうしてくれ』
「?」
最後に、フランとアリステアががっちり握手をかわす。
「いろいろありがとう」
「気を付けて行けよ。師匠のスキルをまだ使いこなせていないんだろう?」
「ん。修業しながら行く」
『しばらく無茶はしないよ』
最悪、ヤバそうな相手は転移で回避しながら進むことになるだろう。もしくは、スキルの使用が安定するまでは、俺の魔術をメインに戦うかだな。
『なあ、アリステアにメンテナンスをしてもらう時は、ここに来ればいいのか?』
「いや、アタシはこれでも世界中を定期的に巡っていてな。ここはあと一ヶ月もしない内に引き払う予定だ」
え? じゃあ、どうやってアリステアに連絡をとればいいんだ?
「アタシはこの後ジルバード大陸に居を移す予定だ。あんたらもその内ジルバードに戻るんだろ?」
「ん」
『クランゼル王国の王都で開催されるオークションに参加するつもりだからな』
「ああ、あれか。となると、あと2週間くらいだったか?」
『それくらいだな』
「だとすると、アタシの方が先にジルバードに渡るかもしれん。一応、ベリオス王国の南西部にあるアルスターという町の側にいるはずだ。近くに来れば、こちらから連絡を取るさ。もう師匠の魔力は感知できるからな」
アリステアは遠くからでも武具の魔力を感知する能力があるらしいな。だったら、簡単に会えるかもしれない。
『じゃあ、向こうで会おう』
「ん」
「おう。気を付けて行けよ」




