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369 スキル練習


『フラン、行くぞ!』

「ん!」


 俺が目覚めた翌日。俺とフランはスキルの使い心地を確かめていた。


「はぁ!」

『よし! いい動きだ!』

「しっ!」

『そこだ!』


 俺が大地魔術で生み出した岩塊を、俺を使って切り裂くフラン。5メートル程の岩が、綺麗に真っ二つだ。俺自身の魔力の伝導、属性剣の使用も問題ない。


 だが、フランは心の底から不満げな表情を浮かべていた。


「……ダメ」

『やっぱり?』

「ん。全然ダメ」

『だよな』


 まあ、フランが気に入らないのも仕方がない。まず肉体操作法に魔力がかかり過ぎている。暴発はしなかったものの、発動にも時間がかかったし、効力も低かった。総じて、無駄が多すぎたということだろう。


 それでも、俺が肉体操作法を使うよりも遥かに上手く、フランはこのスキルを扱えてはいるんだがな……。多分、肉体を動かすことに慣れているからなんだろう。だが、俺たちが求めている水準に全く届いていないことも確かなのであった。


 それだけではない。操風を使っての空中跳躍も酷いものだった。フランは空を駆けあがって岩塊を上から斬りつけるつもりだったのだが、2歩目が自身のイメージよりも発動が甘く、床板を踏み抜くような感じでバランスを崩してしまったのだ。


 何とか3歩目の空中跳躍に過剰に魔力を注ぎ込んで大きく跳躍はしたものの、一歩間違えればそのまま落下し、岩塊の下敷きになっていただろう。まあ、俺のサポートがあるので実際にそうはならないが、その危険があったということだ。


 それ以外にも、岩塊の脆い場所を探ろうとして全方位察知を発動させたようだが、あまりの情報量に顔をしかめていた。やはり戦闘の流れの中で扱うにはしばらく練習が必要だろう。結局、岩塊を斬れはしたものの、攻撃力任せの力技だったからな。


 空気圧縮を使っての抜刀術に至っては発動さえしなかった。空中跳躍の制御が難しすぎて、スキルが上手く機能しなかったのだ。


『結構マズいな……』

「ん」


 スキルは全て上位スキルに進化したはずなのに、戦闘力はすさまじく下がってしまった。今の状態だと、脅威度Cどころか、Dクラスの魔獣相手にさえ苦労する可能性がある。


 その前に試した、肉体操作法による再生も異常に魔力効率が悪かった。あえてつけた腕の傷を治すのに、普通に再生スキルを使う場合の10倍くらいは魔力を消費したんじゃなかろうか? ただ、再生力自体は上がったので、習熟して来れば回復魔術よりも手軽に傷を癒せるかもしれない。大分先の話になるだろうが。


 ただ、絶好調な部分もある。俺は魔力の扱いが目に見えて上達していたのだ。魔術の同時起動も今まで以上に速いし、形態変形などもより繊細に行える。岩塊の破片を防ぐための障壁の起動も、驚くほどスムーズだった。


 大地魔術の消費魔力も減った上に、発動が速い。今ならミューレリアがやっていたような、カンナカムイのアレンジも出来るかもしれなかった。いや、出来るだろう。


 まあ、一応病み上がり? 的な状態なので、もう少し様子を見てから試すつもりだけどね。スキルを使用しての戦闘力が下がり、魔術関連が強化されていた。


 これでスキルの扱いに習熟してきたら、確実に以前の俺たちを超えることができるだろう。


「師匠。もっかい」

『おう!』


 その後、俺たちは様々なスキルを駆使して、確認と訓練を行った。俺が変形して、王術・地、王技・地の検証も行ったが、正直戦力にならないというのが感想だな。まあ、遠距離攻撃時に弓王術・地、近接時に拳王術・地が使えるくらいだろう。結局、剣王術をひたすら磨き、習熟度を上げる方が強くなれると思う。


 俺たちはひたすら肉体操作法、全方位察知、全存在感知、隠密隠蔽術、王威、操炎、操水、操土、操風を使い続けた。


 最終的に行きついた訓練法は、王威と隠密隠蔽術を維持しながら、肉体操作法と操風、操炎で加速と急停止を繰り返し、俺が打ち込む石と風の礫を全方位察知、全存在感知で把握してひたすら躱し続けるというものだ。さらに、操水、操土で生み出した壁で受け流したりもする。


 そうやって長時間の訓練を行っていると、アリステアの館の中からアースラースが出てきた。


「苦労してるみたいだな」

「……ん」


 フランがアースラースの言葉にうなずいた、その直後であった。


「ふん」

「……っ!」

『なっ!』


 いきなりアースラースが背負っていた地剣・ガイアを掴むと、フランに向けて振り下ろしてきた。殺気さえにじませた一撃だ。フランに回避されたガイアは、地面に深々と突き刺さっている。


 フランが咄嗟に躱していなければ、大怪我を負っていただろう。


『何をするんだ!』

「くっく。よい避けっぷりじゃないか。今のはスキルをキッチリ使ってなけりゃ躱せない攻撃だったはずだぜ?」


 む、確かに言われてみたら……。フランもアースラースの言葉を聞いて、なるほどといった様子でポンと手を打っている。


 つまり、本能的に危険を察知して、無意識にスキルを使ったってことか。使いこなすとまではいかなかったが、頭で考えて使っていた時よりも、スムーズに使用できたことは確かだ。


「使いこなすためにひたすら訓練を繰り返すこともいいだろう。だが、実戦も同じくらい重要だぜ?」


 まあ、理解は出来た。でも口で言ってくれりゃいいのに。しかし、感覚派のフランはアースラースの行動に納得しているらしい。コクコクと何度も頷いていた。


「ん。わかった」

「ならいい。師匠が居れば、最悪死にはせんだろう?」


 アースラースの闘気に釣られるように、フランが俺を構える。


『ちょっ!』

「はぁぁ!」

「ふぅぅ!」


 俺が何かを言うよりも早く、フランたちは模擬戦を始めてしまった。もう! これだから戦闘狂たちは! 勝手に通じ合っちゃって!


 それからしばらく、2人は激しい模擬戦を続けた。いや、模擬戦の範疇か? 互いに強い回復方法があるが故に、遠慮がない。死ななければいいやというアバウトな感じで、高威力の攻撃を繰り出しあっているのだ。


 実際、途中で何度か治癒魔術を使うシーンがあった。ただ、この戦いの間にフランの動きは目に見えて良くなっていったのも確かだ。


 やはりアースラースが言う通り、実戦に勝るものはないのだろう。アースラースは狂鬼化が一度リセットされたおかげで、この程度の戦いでは発動することはないようだ。彼に稽古をつけてもらえるなんて今しかできないことだろう。


 自らの身を削って、フランに胸を貸してくれたアースラースには本当に感謝だな。


「ふははははは! だんだん動きもよくなってきたぞ!」

「しっ! まだまだ!」

「はははは!」


 まあ、完全に楽しんでいるっぽいけどね。


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