366 統合スキルの検証
メモリスキルがとんでもないことになっていた。これが統廃合という奴なんだろう。
武器、戦技系スキルの王術、王技をいくつも入手している。ただ、元々所持していた剣王術、剣王技と違うのは、地という言葉が付いていることだろう。
アリステアにも解析をしてもらうと、どうやら王術・地、王技・地は、本来の王術、王技の下位互換のようなスキルであるらしい。
剣王術は短剣術や刀術など、剣系武器全てを網羅するスキルだが、王術・地もそうであるのだ。弓王術・地であれば、短弓術、長弓術、弩弓術などを利用できるわけか。
ただ、その効力は半減してしまうようだ。剣王術・地が最高レベルになってようやく剣王術の半分くらいの効果があるらしい。万能だが、効果は低いってことか……。とは言え、普段使わないスキルがまとめられたのは見やすくていいな。
「師匠、スキルの解析も良いが、使えるかどうかはどうだ?」
『おっと、そうだった……ちょっと待ってくれ』
俺は以前のようにメモリスキルをセットするように念じてみた。問題なく火魔術がセットできる。魔術スキルに特に変化はないな。改修によって減った物も、増えた物もない。
『――よし、使用にも問題ない』
無詠唱でトーチの術を使用すると、小さい灯が目の前に浮いている。魔術に関しては改修前とほぼ変わりがないだろう。
「スキルの使用が問題ないのであれば、他のスキルを解析してみよう」
『そうだな』
アリステアはスキルを武器に付与することもあり、また神剣などの情報を持っていることからも、古今東西のスキルに精通していた。これは助かるね。
次のスキルは肉体操作法。これは剛力や瞬発、回避など、肉体を強化、もしくは操るスキルを統合したスキルであるらしい。
全方位察知、全存在感知、隠密隠蔽術もそれ系のスキルを全て統合したタイプだな。ただ、アリステアにも言われたが、あまりにも高性能すぎて、使いこなすのが非常に難しいスキルであるということだった。
実際、全存在感知を使用してみたのだが……。魔力感知を起動したはずが、電磁感知や気流視覚などが同時に起動してしまった。目の前に色々な余計な情報が表示されている。やはり使い方が非常に難しくなったってことか。
これ、戦闘時に余計な情報が大量に流れ込んできたら、命取りになるかもしれん。早急に対策が必要そうだな。
「どうだ?」
『精密に扱うには、しばらく練習が必要そうだな』
「だろうな。それらは長年の修練を積んだ、達人級の人間が習得するスキルだぞ? 手に入れてすぐに使いこなせるわけがない」
『だとしても、使えるようにならないといけない。戦闘じゃ必須のスキルばかりだ』
スキルが成長したことは確かなんだが、当面は戦闘力が下がってしまう可能性もあった。由々しき事態だぜ。
「使うのはかなり難しいと思うぞ。例えば、今までは剛力や瞬発を、無意識に、それも高レベルで発揮できていたはずだ。しかし肉体操作法でそれらの効果を補おうとしたら、より繊細な使用が求められるはずだ」
『なるほど』
「瞬発力を上昇させようとして出力を間違えればぶっ飛んで行っちまうかもしれないし、相手をぶん殴る時に剛力の出力を間違えれば自分の腕と相手が粉々になるかもしれない」
『特化型のスキルから、万能型の上位スキルに変わった分、扱いが難しくなるとは思ってたが、それほどか』
「使う前に、しっかり確認することだ」
『ああ、そうするよ』
次に試すのは王威スキル。これは竜などの上位魔獣が持つスキルであるらしい。威嚇や威圧の上位スキルだが、威力がかなり強い。
自分から発せられる威圧感が異常に増したのが分かった。威嚇した訳じゃないのに、アリステアが顔を歪めている。やはり精密な操作ができていないな。むしろこの状況でスヤスヤなフランが凄いぜ。
この王威スキルを今までのような威嚇や威圧と同じように軽い気持ちで使ったら、周囲の一般人などがバタバタと気絶する事態になりかねなかった。結局、使いこなすための訓練が必要だということなんだろう。
魔術耐性は、火炎耐性や雷鳴耐性、暴風耐性スキルなどの魔術への耐性スキルが統合された物だ。これはまあ、単純に強くなったと思えばいいかな?
技術系スキルも大分すっきりしたな。所持していたはずの絵画や歌唱がスッパリと消え去り、解体:LvMax、鍛冶:LvMax、投擲:Lv5、料理:LvMax、罠解除:Lv6、罠作成:Lv5だけが残った。
俺が残ってほしいと願っていたスキルばかりが残っているな。これらといい、狂鬼化といい、もしかしてスキルの取捨選択には俺の無意識が働いているんだろうか? 特に料理は残ってくれてよかったぜ。これが無いと、フランが心底ガッカリするだろうからな。
学術系も変化なしか。だが、その後の魔力能力系や特殊能力系のスキルが大分変化していた。見慣れないスキルが増えている。
『操炎:Lv1、操水:Lv2、操土:Lv1、操毒:Lv1、操風:Lv3……』
「ふむ。それらも聞いたことが無いスキルだ。ユニークスキルに操炎の理や操水の理といった、属性を操作するタイプのスキルはあるが……。多分、王術・地と同じで、それらの上級スキルの下位互換スキルなのだろう。多くのスキルが統合された結果のはずだ」
俺は一番気になっていたことを聞いてみた。
『空中跳躍が消えちまったんだが、このどれかに統合されたのか?』
そう、特に使用機会の多い空中跳躍の名前が見えなくなってしまっていたのだ。これは戦闘の幅がかなり狭まってしまう。
「うーむ、可能性としては操風じゃないか?」
『操風か……』
軽く試してみる。すると、目の前に足場が生み出される感覚があった。あれって、風系のスキルだったのか。それさえも分かってなかったぜ。だが問題もある。今までの倍以上、魔力を消費していたのだ。しかも足場がすぐに崩れてしまった。上位スキルになった弊害がここにも出たようだ。
残りの新スキルはキルマスター、全感覚強化、全肉体強化だな。まあ、結局このスキルたちも様々なスキルが統合された上位スキルなわけだが。
キルマスターはゴブリンキラーなどのキラー系スキルの上位スキルだ。特定種族へのダメージ効率は減ってしまうが、どんな敵との戦闘でも常に攻撃力小上昇効果が発動してくれるという地味に強いスキルだ。
全感覚強化は鋭敏視覚や鋭敏嗅覚などの、感覚強化系。全肉体強化は体毛強化や甲殻強化などの肉体強化系の統合スキルである。所持しているだけで全身が強化されるというのだから、実は今回手に入れたスキルで最も有用かも知れなかった。
あと忘れてはならないのは、なぜか俺に付いた混沌の神の加護と知恵の神の加護だろう。神様の加護が一気に2つって……。まあ、混沌の神の加護は何となくわかる。俺はあの女神の眷属らしいからな。
効果は、混沌の力に対する高い耐性が付くという、非常にアバウトな説明だった。混沌の力って何だ? 混沌魔術みたいな術があるのだろうか? だが、アリステアも混沌魔術という名の魔術スキルは知らなかった。いよいよ謎なスキルだぜ。
もう一つの知恵の神の加護も、なんで付いたのかは分からない。もしかしたらアナウンスさんのおかげかもしれないが……。ただ、魔術などの熟練度が上がりやすいというスキルらしいので、今後は魔術のレベルアップが早まる可能性があった。こちらは文句なく有り難い加護だった。いや、混沌の女神様の加護がいらないって訳じゃないですよ? まじで? だから怒らないでください。
にしても、全体的に統廃合が進められ、不要なスキルがバッサリと消去されたな。スッキリしたと言えばスッキリしたが、ちょっと寂しいことも確かだった。ずっと頑張ってゲットしてきたわけだしな。
俺はスキルの統廃合に満足していたんだが、アリステアが難しい顔で唸っている。
「これは、成功したと言って良いのかどうかわからんな……」




