358 アナウンスさんとケルビム
「廃棄神剣についてはある程度分かったな?」
「ん」
『おう』
「では、このケルビムと、師匠の関係についてだ」
いよいよか。ちょっと緊張してきた。
「アタシなりに考えてみたんだ。神剣を廃棄する際、どうやって廃棄するか?」
「ん? 捨てる?」
『いや、それだけじゃダメだろ。存在しちゃいけない訳だし、溶かしてインゴットにするとかじゃないと……』
自分が溶かされるシーンを想像して、身震いしてしまった。人間だったら、猟奇的な殺され方をするホラーシーンを想像したような感じだ。うーむ、自分が想像以上に剣になっていてちょっと驚いたな。
「勿論、炉にぶち込んで、オレイカルコスの塊に戻す場合もあるだろう。だが、それはそれで勿体ないとは思わないか?」
『言われてみたら……』
神剣なんて、作るのに膨大な時間と労力がかかるはずだ。それを完全に破壊して、無かったことにできるか? 俺ならできない。むしろダメだと言われた部分をどうにかして、再利用を考えるだろう。
「だろう? まがりなりにも、神剣として生み出された一級品の剣だぞ? だったら、中の能力だけを消去して、外側は違うことに流用すればいい」
『つまり、俺がそれってことか?』
「もしかしたら、だけどな。神剣としての機能は失っても、その器としての大きさは他の魔剣などの比じゃない。新たに違う能力を付加することは出来るはずだ」
だが、エンブレム部分が違うのはなんでだ? 絵の通り、天使のエンブレムじゃなきゃおかしいんじゃないか?
「そこだけだったら、作り変えることはできる。新たな剣として生まれ変わらせる際に、エンブレムを新たにするのはおかしいことじゃないだろう?」
「ん。確かに」
「それに、アタシの今の話が確実な訳じゃない。他の可能性としては、ケルビムを作る際の試し打ちや、失敗作だった可能性もある。あとは、本番使用品の前に作られた試作品だったということも考えられるな」
「師匠は失敗作じゃない」
『ありがとなフラン』
「確実に言えるのは、師匠と神剣ケルビムには何らかのつながりがあるってことだ。場合によっては、何らかの能力を受け継いでいる可能性もある」
ケルビムの能力か……。ここまでの話で、俺はある存在を思い出していた。廃棄神剣の話を聞き始めたあたりからもしかしたらと思ってはいたんだが、聞けば聞く程、それは確信となっていく。
いつもそばにいてくれる頼れる存在、アナウンスさん。今でも俺に対してレベルアップや称号の通知を機械的に届けてくれるアナウンスさんではあるが、一度だけ会話可能になったことがあった。初めて潜在能力解放を使用したリッチ戦の最中である。そして、アナウンスさんは別れ際に気になる言葉を残していた。
〈個体名・師匠に感謝を。神に存在を許されず、製作者によって存在を抹消され、器としてのみ存在を許された私が、最後に主のために力を行使することができました。あなた達の道行きに、知恵の神の加護があらんことを――〉
まさに、アリステアに聞いた話そのままではなかろうか? しかもアナウンスさんは潜在能力解放中、神域という言葉を口にしていたはずだ。
〈――神域へとアクセスを試みます――成功。ライブラリーを参照。アクセス能力の消失と引き換えに、天眼の情報を入手。天眼スキルを構築――成功しました〉
と言っていた。これも、アリステアが語っていた神域の知識を閲覧して、干渉する能力のことなんじゃなかろうか。アナウンスさんについてアリステアに教える。
「興味深いな。それは確かに、ケルビムの残滓といえる存在かも知れない。となると、本当にケルビムを再利用して作り出されたという可能性が高くなってきたぞ」
『それも誰かが言っていたな……。そうだ、あの謎の声だ。あの声がアナウンスさんは「既に消えた存在の残滓。それが、潜在能力解放で奇跡的に表に出てきただけだ。限界以上に力を行使した代償に、その残滓すら消えちまった」とか言ってたはずだ』
あの声も謎なんだよな。敵というよりは味方っぽいし、考えてどうにかなるような事でもなさそうだから努めて気にしないようにはしてきたんだが……。現状で無視はできない。俺はアリステアに謎の声についても聞いてみることにした。
『実はな、俺の中にはアナウンスさんとは別にもう1人? 誰かがいるみたいなんだ』
「なに? それはどんな相手なんだ?」
『うーん……』
どんなと言われてもな。やや柄が悪そうな男性で、俺の中にいる。月宴祭が近づくと、力を取り戻せるらしいんだが、毎回色々と邪魔が入ったりしてまともに会話できたことはない。ただ、俺の事情について色々と知っているようではあったな。
「それだけじゃ、予想すらできないな」
『だって、名前も姿も分からないんだ。仕方ない――いや、姿は一度見たか』
バルボラの宿で、幻のような感じで姿を見せたんだ。確か、潜在能力解放のせいであの男性も何故か消耗してしまい、しばらく声をかけられそうにないということをジェスチャーで謝りに来たんだった。
『えーと、壮年の男性だったな。オールバックにした銀髪で、ローブっぽいゆったりとした服を着てたはずだ』
「やはりヒントにはなりそうもないな」
『やっぱり?』
銀髪の男性なんて、いくらでもいるだろうからな。
「ただ、それも後で調べてみれば何か分かるかもしれん。刀身の修復が終わったら、内部の解析と修復に取り掛かるからな」
というか、あの男性と会話が出来ればすべて解決する気もするんだよな。アリステアの力で、話をすることはできないんだろうか?
「なるほどね。じゃあ、その謎の声とやらとのコンタクトも目的に、頑張ってみようか」
『頼む』
「任せておきな」
『あとなにか手助けになりそうな情報は――そうだ、俺はどうやら混沌の神の眷属らしいんだが?』
「なに? 混沌の神? 知恵の神ではなく?」
『ああ』
「ふむ……。神剣はその名の通り、神の力を宿す剣だ。それぞれの神剣が、力を与えてくれた神に属する眷属なんだが……。ケルビムは知恵の神の眷属だったはずだ。それが混沌の神? なるほど、調べてみる価値はありそうだ」
おお、よかった。多少は役に立ったかもしれん。他にまだ伝えていない情報はなかったか?
『あ、俺が刺さってた場所の詳しい情報とか、何かヒントにならないか?』
「魔狼の平原だったか? 正直言って、直接祭壇とやらを調べられるんでもなければ意味はないな」
『そうか』
「アタシも行ったことがないんだよな。ここ100年ほどで大陸は全て制覇しているんだが、魔狼の平原は未到達だ」
「100年?」
『え? 今何歳なんだ?』
全部の大陸に行ったという情報よりも、年齢の話の方が驚いたんだけど? 見た目から完全に人間だと思っていた。
「アタシはハーフエルフなんだ」
「耳は? アマンダは尖ってた」
そうだ。ランクA冒険者にして鞭使いのアマンダは、ハーフエルフだったが、耳がエルフのように尖っていた。だが、アリステアの耳は人間のように丸い。
「はは、アタシ以外にハーフエルフの知り合いがいるのかい?」
「ん」
「まあ、アタシの場合は人間だった父親の血が濃く出たみたいでね。外見は人間寄りなのさ」
そりゃそうか。ハーフなわけだし、必ずエルフの外見を受け継ぐわけじゃないよな。
「まあ、寿命が長いのは種族的な事だけじゃなく、職業的な理由もあるけどな」
『職業が寿命に影響するのか?』
「職業がというよりは、職業の固有スキルに、肉体最盛っていうスキルがあんのさ。その名の通り肉体を最盛期に保つスキルだが、長期間若々しい肉体が維持されることで寿命も延びるみたいだね」
若さを保つスキル? あまり鍛冶師っぽくないスキルだな。いや長期間、鍛冶師としての最盛期を保つと考えればありなのだろうか? しかも、固有スキルが数あるって言ったよな。さすが神級鍛冶師ともなると、多数の固有スキルがあるみたいだな。
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