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356 解析開始

 アリステアの館は、不思議な外観をしていた。石造りの二階建ての建物なんだが、外壁が全て1枚の巨大な岩でできていたのだ。鏡面のように磨かれ、表面には僅かな凹凸もない25メートルほどの岩壁を4枚合わせて箱型にし、屋根代わりにもう1枚載せたらこんな形になるだろう。


 そんな不思議な見た目の建造物に、規則的に小さな窓が備え付けられている。窓が無かったら、確実に住居だとは思わないだろう。良くて遺跡か魔法装置ってところか。


「どうだ? アタシの館は?」

「相変わらず、目がちかちかする上に無駄にデカいな。これが持ち運び可能ってんだから、とんでもないぜ」


 なんとこの館自体が魔道具であり、携帯可能であるらしい。さすが、神級鍛冶師の館だな。一筋縄じゃいかないぜ。


「ふん。この館に無駄など一片もない。それを理解できんとは、お前こそ無駄にデカイだけだな」

「ぐ……」


 アリステアはアースラースの言葉が気に入らなかったのか、ギロリと睨んで辛辣な言葉を吐く。だがアースラースは言い返したりもせず、たじろぐだけだった。


 やはりアースラースはアリステアが苦手であるようだ。言い返すこともしない。いったい2人の間に何があったんだろうな。


 馬車を特製アイテム袋に仕舞ったアリステアに導かれるままに、館の中に足を踏み入れる。そこは外見同様――いや、それ以上に不可思議な光景が広がっていた。


 どうやら館全体が作業場になっているらしく、エントランスなどは一切存在しない。一歩足を踏み入れると、即アリステアの研究室兼工房となっているようだった。


 ただ、言われなくてはここが研究室兼工房だとは思わなかっただろう。というか、パッと見ではどんな用途の部屋なのか、全く分からなかった。


 壁や天井が薄く輝いているのだ。しかも魔術的な光ではない。なんと、金属がメッキのように張り付いていたのだ。磨かれた銀食器のような金属の壁が、ランプなどの光を反射して眩しく輝いていた。


「すごい」


 目がチカチカするのか、フランが目を細めながら壁や天井を見つめる。それを見たアリステアが何でもない事のように説明してくれた。


「ああ、あれか。ミスリルのメッキだ。魔力的に繊細な作業をするには、外界の魔力が1番邪魔になるからな。ああやって外の魔力を遮断してんのさ」

「ミスリル? ミスリルなの?」

「おう」


 フランが立て続けに驚かされるっていうのも、中々珍しい光景だ。しかし、メッキとは言えこの量のミスリルだぞ? メチャクチャ贅沢なんじゃなかろうか? さすが神級鍛冶師だ。


「その程度で驚いていたら、こいつとは付き合えないぞ?」

「うるさいバカ鬼。これから大事な話があるから、お前は上に入ってろ。客間は分かるな?」

「分かっている。ただ、その前に何があったか説明してほしいんだがな?」

「どこまで覚えてる?」


 フランが尋ねると、アースラースは軽く顎に手を置いて唸る。記憶の引き出しを開いているのだろう。


「あー……俺が暴走して、お前さんのスキルで俺から狂鬼化を奪って暴走を止めてくれたっていうのは王女から聞いてる。だが、その後すぐに意識を失っちまって、気づいたらここで目が覚めてたって感じだな。邪人野郎が、何かと戦っていたのは何となく分かるんだが……」


 狂鬼化が解除された後にメアたちに保護され、本当に軽く説明されたようだな。そして、俺が暴走してゼロスリードと戦い始めたくらいに気を失ったということか。


「これだけ気持ちのいい目覚めは久しぶりだ。礼を言う」


 アースラースが深々と頭を下げた。本当に感謝してくれているらしい。


「でも、奪っただけだから、すぐに復活しちゃう」

「それでもだ。たとえ数日でも、自分が自分でなくなる恐怖から解放されるのは、ありがたい。でかい借りが出来ちまったな」

「ああしなきゃ、自分たちが危険だっただけ」

「むしろ、王女やキアラをこの手で殺さずに済んだことを感謝しなきゃならねぇ。奴らにもあとで詫びを入れないとな」


 そうか。アースラースはキアラが死んだことを知らないのか。だが、フランは自分の口から説明するだけの割り切りが未だできていないのだろう。眉間に皺をよせ、何かを堪える表情で俯いてしまった。


「……」

「どうした?」

「はぁ……このバカ鬼! 後にしろ! その時にキアラの最期を聞かせてあげるからよ」

「……ああ」


 アリステアの言葉とフランの態度で、理解したのだろう。アースラースの顔から表情が抜け落ちた。だが、これだけは教えてやらないといけない。


『お前のせいじゃない』

「……誰だ?」


 本当はもっと詳しく教えたいが、やはり自力での念話での会話はまだ無理だ。ただ、キアラは暴走したアースラースの手にかかったわけではないと、絶対に伝えなくてはいけないと思ったのだ。


 どんな関係だったのかは分からないが、古い知人であったようだしな。


「それも後で教えてやる。ただ、お前が殺したんじゃない。その後、邪人との戦闘での無理がたたったらしい」

「そうか……。分かった。じゃあ、部屋を借りるぞ」

「腹が減ったのなら食堂に行け。ゴーレムに命じれば何か出すだろう」

「ああ」


 そして、アースラースは悄然とした様子で、階段を上がっていった。上の階が居住スペースなんだろう。それを見送ったアリステアは一瞬だけ悩まし気な表情を浮かべるが、すぐに真面目な表情で俺とフランに向かい合った。


「さて、さっそく師匠の修復を始めるぞ。そのままの状態を放置していると思うだけで、アタシのストレスがうなぎ上りだからな」

「ん。お願いします」

『頼む』

「師匠は喋らんでいい。それよりも、まずは刀身の修復だ。単純にリペアをすればいいのかどうかも分からないから、サンプルを採取して、分析を行う。で、足りない素材をつぎ足しながら、あまり師匠に負担のかからない方法で修復を行う。いいな?」

「???」


 うん、フランは完全にちんぷんかんぷん状態だな。ただ、武器の修復に関してアリステア以上に詳しく、得意な人間などいないだろう。だったら、すべて任せるさ。


『お任せで』

「……とりあえず、念話紐を巻いておくか」


 アリステアが念話紐を俺の柄に巻いてくれた。これで多少は2人と会話しやすくなる。毎回フランたちに紐を握ってもらわないといけないけどな。


「フラン、師匠をそこの台に置け」

「ん」

「じゃあ、解析を始める。フランはどうする? なんなら、食事でも用意するが?」

「いい。見てる」

「分かった」


 そして、アリステアによる解析が始まった。金属製の不思議な素材でできた台の上に置かれた俺に、アリステアが様々な魔術やスキル、魔道具を使用していく。凄いのは、どれもが鑑定や解析系の物ばかりであるということだろう。それだけの種類を使えるのも、それだけの情報を処理して有効利用できるのも凄い。


 外から見たらメッチャ地味だけどね。だって、半壊した剣に手をかざして、じっとしているだけなのだ。


 これは速攻でフランが飽きてしまうだろうな。そう思ってたんだが、10分経っても、20分経っても、フランは作業をするアリステアをじっと見つめたままだった。


 眠気が襲ってくる様子も、飽きてソワソワし出す様子もない。それだけ、俺の事を真剣に考えてくれているということなんだろう。不謹慎かもしれないが、少しだけ嬉しくなってしまった。俺ってフランに愛されているなと、改めて感じたからだ。


 1時間後。ようやくアリステアの解析が終了したようだ。額の汗をぬぐいながら、アリステアが呟いた。


「やはり金属部分はオレイカルコスか」

「オレイカルコス?」

「神級鍛冶師にしか生み出すことができない、特殊な金属だな。正しい知識が無い人間にはハルモリウム系合金としか思えないだろうが、特殊な術で加工すれば神剣の素材にもなる、神の金属だ」


 ウルムットでもその名前を聞いたことがあるな。


『俺は、その金属で造られてるのか?』

「そうだ」

「じゃあ、師匠を作った人は神級鍛冶師?」

『いや、神級鍛冶師の作ったオレイカルコスを何らかの方法で入手しただけって可能性もある』


 思わず否定の言葉を口にしてしまった。神級鍛冶師に作られたすごい剣かも? なんて期待して、違った時にダメージがデカイからね。


 だが、俺の否定の言葉を、アリステアがさらに否定する。


「いや、オレイカルコスをここまで完璧に扱うのは神級鍛冶師じゃないと無理だ。少なくとも師匠の外身は神級鍛冶師が手掛けているだろう」

『え? じゃあ、俺って神剣……?』

「それも違う。銘が無い」


 はい、やっぱり期待しちゃダメでしたー。そうだよな、神級鍛冶師が作ったからって、神剣とは限らないよな。


「いや、銘が無いんじゃなくて、削られたんじゃないかと思う」

「削られた?」

『元々何らかの銘があったけど、消されたってことか?』

「実は、師匠の出どころについて、少しだけ心当たりがある」


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