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354 神級鍛冶師


 フランとアリステアが話をしていると、メアも話に加わった。


「今のお話。アリステア様がその剣の修復を請け負ってくださるということですか?」

「おう。その娘が許可するのであれば、だけどな」

「ぜひお願いするべきだ。このような幸運、中々ない事だぞ?」


 メアとアリステアがフランを見る。


(師匠? いい?)

『……ああ、頼もう』


 そもそも、この女性のおかげで、凄まじく楽になった。腕も信用出来るだろう。なにより、メアが心の底から信頼の表情を向けている。


「ん。お願いします」

「任せておけ。それで、お前達はこの後どうするつもりだ?」

「それは……」


 メアがキアラを見る。ここまで皆を引っ張ってきたキアラは亡くなり、ミアノアは憔悴している。クイナはあくまでもメイドであり、グエンダルファは経験不足。アースラースは意識を失ったばかりで、フランもリーダーとしての適性は低い。


 このメンバーをまとめられそうなのがメアしかいなかった。見回して、それを自覚したのだろう。軽く俯いて赤い目を軽く擦ると、すぐに顔を上げる。


「まずはこのダンジョンのマスターが本当に死んだのかを確認します。そして、コアを破壊します」

「いいのですか? 貴重な大型ダンジョンですが?」


 アリステアの問いに答えたメアに、クイナがそう聞き返す。だが、メアははっきりと頷いた。


「国をまたいだダンジョンなど、災禍の芽となるだけだ。必ず所有権を求めて国家間の争いになる」


 まあ、どちらかが手に入れれば、片方の国は絶対に疑心暗鬼になるだろう。今回、戦争に使われてしまった事で、必ずそのイメージが付きまとうからな。そして、所有権を手放すには、見返りが大きすぎる。双方で共同統治するための機構をきっちり造り上げないかぎり、いつか必ず争いを呼ぶはずだ。


 でも、仲の悪い獣人国とバシャール王国が手を取り合うなどありえない。今回の事でその仲はより悪化したはずだ。だったら破壊してしまった方がいいかもしれないな。メアもそう考えたらしい。


「王族としては、利用を考えねばいけないのだろうがな……」

「いえ、私も賛成です」


 それに、獣王の性格を考えたら破壊に賛成する気もする。なんか「色々と面倒なことになりそうだったら、先にぶっ壊しちまえ」とか言いそうだ。ともかく、メアは自分で破壊すると決めたようだ。その瞳に迷いの色はない。


「我とクイナは奥に進みます。アリステア様は、フランたちを連れて先に脱出してください」

「まあ、お前には剣を見せてもらってるしな。いいぜ。脱出までこいつらはアタシが預かろう。そのままアタシの館に向かっちまってもいいのか?」

「我らが追い付かなければ、そうしていただけると有り難いです」

「その後はどうする?」

「クイナたちを連れて、グリンゴートに戻ろうと思います。色々と知りたいこと、調べたいこともあるので。ただ、フランとその剣は、アリステア様に預けたいと思います。よろしくお願いできますか?」

「その剣もじっくり調べたいし、構わないぜ」

「フランもそれでいいな?」

「……ん」


 フランが不承不承うなずく。


『済まない』

(ううん。今は師匠が一番大事)


 本当はメアと一緒に行きたいのだろう。だが、今は俺の修復が先決であると考えて、その言葉を飲み込んだのだ。


「それと、そっちのバカ鬼はどうする? なんならこちらで預かるが?」


 アースラースとも知り合いであるらしい。親し気という感じではないが、気安さは感じられる態度だ。メアは少し考え込んだ後、アリステアに頭を下げた。


「お願いできますか?」

「承った」


 アリステアは、グエンダルファの外套の上に寝かせられているアースラースに近寄ると、ひょいと担ぎ上げた。見た目に反してメチャクチャ力持ちだな!


「ともかく、一度ここを出た方がいい。キアラもきっちり埋葬してやらなきゃいけないだろう?」

「そうですね……」

「フラン様、キアラ様を、よろしくお願いできますか?」

「わかった」


 ミアノアの言葉にうなずいたフランが、キアラの遺体を次元収納に仕舞った。知人の死体を収納するのって、物扱いしているような気がして、一瞬それでいいのか考えてしまったが、俺以外の奴らは特にそのことについて感傷のような事は感じていないらしい。


 そこは死というものが遥かに身近な世界なだけあって、死体に対する考え方もシビアな物なんだろう。放っておいたらアンデッドになったりするしね。そもそも、魂の概念があるから、死んだ後はもうそこにはいないという考え方であるようだ。


 出発の準備を手早く整えた俺たちは、そのままフランとウルシを先頭に、ダンジョンの出口を目指した。未だに皆が消耗しているので思ったよりも時間はかかったが、モンスターがいないので特に危険なことはなかったな。


 道中でも軽く試したが、俺とフランのスキル共有は生きているらしい。それだけは不幸中の幸いだった。ただ、俺の魔力が空っぽなので、今はフランの魔力だけでやりくりをしなくてはいけない。そこは気を付けなくてはいけないだろう。


 ダンジョンの迷宮部分を進んでいる最中に、ダンジョンが大きく震えるのが分かった。メアたちがダンジョン・コアの破壊に成功したのだろう。


 その後ダンジョンを脱出する直前に、メアたちは追いついてきた。そこで改めてコアを破壊して、ダンジョンを殺したことを報告される。今後、ここは単なる地下の建造物でしかなくなるわけか。


「じゃあ、ここで一度お別れだな」

「ん」

「色々とあったが、また訪ねてくれ」

「……頑張って」

「ありがとう。我らも師匠がちゃんと直るように祈っている。あと、キアラ師匠は、もう少しの間預けていていいか? 落ち着いたら、しっかりと葬儀を執り行いたい」

「まかせて」

 

 ダンジョンから脱出したメアとフランが固い握手をしながら、互いを励まし合う。


 バシャール王国とはまだ戦争の最中のはずだ。今後どうなるかはわからないが、北の脅威がなくなった今であればきっと負けることはないだろう。バシャール王国を撃退することができるはずだ。


 そうでなくては、キアラが命を張った甲斐がないからな。それをメアも分かっているのだろう。最後に力強くうなずくと、クイナとグエンダルファ、ミアノアを連れて去っていった。


 キアラの弟子として、王女として、あの小さな背に色々な重圧が圧し掛かっているのかと思うと、応援したくなるな。フランは馬車に乗り込むメアたちの背をじっと見送っていた。


『またすぐに会えるさ』

「ん」


 メアたちの乗ったゴーレム馬車が走り去った後、寂し気な顔のフランにアリステアが話しかけてくる。


「……じゃあ、そろそろいいか? もうアタシの正体に見当はついているかもしれねーが、名乗らせてもらうぜ?」

「ん」

「アタシの名前はアリステア。職業は神級鍛冶師だ。よろしくな、黒雷姫に、インテリジェンス・ウェポンさん?」


 やはりばれていたか。それにしても神級鍛冶師だと? 神剣の手入れを任されていると言っていたからもしやと思ったが、まさか本当にそうだったとは……。


 ただ、色々なことがあり過ぎて、もう驚く気力も残っていなかった。フランもそれは同じみたいだな。軽く目を見開いたくらいで、普通に自己紹介をしている。


「私はランクC冒険者。黒天虎のフラン」

『……俺は、師匠だ』

「オン!」

「あと、ウルシ」

「ところで、その師匠の名前は、フランが付けたのか?」

「ん」

「ということは、ネームドではないわけか……。このレベルでネームドでないということがあり得るのか?」


 ネームドっていうのは、素晴らしい装備品に対して、神様が名前を付けるっていうシステムだったよな? それクラスのアイテムと比べられるのは光栄だが、どうなんだろうな? 自分がそれなりに優れた剣だという自覚はあるが、「俺は神様に認められた剣だぜ! フゥー!」といえるほど自信過剰ではないのだ。


「とりあえず、アタシの館に向かう。そこまで行けば、師匠の解析もできるし、修理もできるはずだからな」

『よろしく頼む』

「おねがいします」

「こちらこそ、素晴らしい剣を触ることができるんだ、礼を言わせてもらうぜ。じゃあ、これに乗りな」


 アリステアがアイテム袋から取り出したのは、クイナが所持していたのとそっくりなゴーレム馬車だった。


 促されるままに馬車に乗り込む。アースラースはアリステアが馬車の床に放り投げた。


「だいじょうぶなの?」

「このバカ鬼がこの程度でどうにかなるわけがないだろう? そのうちバカ面下げて起きてくるさ」


 アースラースには辛らつだな。過去に何かあったのだろうか? まあ、それも目が覚めたら聞いてみたらいいか。


「じゃあ、出発だ!」


 そして、俺たちはゴーレム馬車に乗り込み、神級鍛冶師の館へと出発したのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] ようやく師匠の謎に迫れるのかな
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