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351 Side キアラ

本日、5話分を一気に投稿しております。

347 sideミューレリアからお読みください。


Side キアラ


 最悪の事態を避けたと思ったら、再び最悪が襲って来たようだ。


 フランの持っていた剣が、勝手に暴れだした。しかもその力の強さと言ったら、アースラースと比べても遜色がないのではなかろうか? もしかしたら、それ以上かもしれない。


 アースラースは暴走しているとはいえ戦闘的な判断力は持ち合わせていた。そのため、ダンジョンの崩落に巻き込まれるのを恐れて本気を出せずじまいだった。奴の神剣は広範囲殲滅に向いているからな。逆に、狭い場所では真価を発揮できないのだ。


 いや、それが無くともこの剣は異常だった。極大魔術を同時に5つも発動し、剣王技を放つなど、まともではない。しかも飛行し、姿を変形させたうえ、アースラースのスキルを奪った能力まであるのだ。それら1つだけでも、最上位の魔剣と言っても過言ではない能力だった。


「しかも、まだまだ底が見えないからな」


 神剣か、廃棄神剣に並ぶ力を持っていてもおかしくはないだろう。何なのだこの土地は。神級鍛冶師の近くには、神剣や魔剣が集まってくるとでも言うのだろうか?


 鋼で出来た狼のような姿に変身したフランの剣は、より凄まじい魔力を放っている。鋼の狼から立ち上る赤黒く凶悪な魔力は、遠くから見ているだけでこちらを不安にさせるような圧迫感がある。メアが動けなくなってしまうのも無理はなかった。


 メアがフェンリルなどと呟いていたが、あながち間違ってもいないかもしれない。少なくとも、私が今まで見た狼系の魔獣の中で、最強であることは間違いないだろう。


『グルオオオオオオ!』


 メアを狙った攻撃を咄嗟に防いだが、一発でかなりのダメージをもらったな、全身が悲鳴を上げている。それでも、私が倒れる訳にはいかない。敵は狼だけではないのだ。


「おいおい、婆さん。やる気の顔だなぁ?」

「小童どもが逃げる時間を稼いでやらねばなるまい?」


 そう、こいつらが相打ちにでもなってくれればよいが、そうならなかった場合が恐ろしかった。どちらかに追われてしまえば、逃げる術もない。誰かがここで足止めをしなくてはならないのだ。メアたちを逃がして、私は剣を抜く。


「死んじまうぜ?」

「どうせ老い先短い命なんだ? 若者の為に使うのも悪くあるまい? ――閃華迅雷!」

「くははは! いいね! どんだけ弱っちくても、死ぬ気の相手とやり合うのは楽しいからな!」

『ガオオオオォォォォ!』


 そうして、三つ巴の戦いが始まった。鋼の狼は目の前の敵を、つまり私とゼロスリードを執拗に狙っている。


 そして、ゼロスリードもまた私と狼を狙っていた。いや、狙っているというよりは、戦闘を楽しんでいるという感じだな。だが、このまま私さえ崩れなければ、2つの脅威を足止めし続けられるはずだった。


「問題は、私がどこまでもつかだな……」


 病み上がりなうえ、昨晩から激闘が続いている。悔しいが、今の私に何時間もの戦闘は不可能だろう。最も良いのは一気呵成に攻撃を加え、こいつらを瞬殺することだが……。


 無理だな。神剣の攻撃にさえ耐えきったゼロスリードと、倒せるかどうかも分からない無機物の狼。短期間で殲滅できる可能性は低かった。


 ならばどうするか?


「……はぁ!」

「さすがにいい動きをするな!」

『ガオオオ!』


 あえて狼に背を向けつつ、ゼロスリードに攻撃を仕掛けた。剣と黒雷でゼロスリードの動きを阻害しつつ、背後からの狼の攻撃をギリギリでかわす。冷や汗が止まらない。まさか尻尾を鞭のようにして攻撃してくるとは思わなかった。覚醒していなければ反応すらできなかっただろう。


 だが、狙い通り鋼の狼の攻撃がゼロスリードに襲い掛かった。わずかに掠っただけではあるが、ゼロスリードの邪気が削れたのが分かった。つまり、あの剣のもつ破邪顕正は未だに有効であるということだ。


「これで行けそうだな」


 そうこれが私の取れる唯一の道。私でも、ゼロスリードを倒すことができるただ1つの方法だ。狼は正直どうしようもない。ならば、倒せる方を先に倒す。それだけだ。


「おいおい、今みたいな攻撃、何度も食らうと思うなよ?」

「そうか? なら試してみよう」


 速さと回避に重点を置き、駆ける。脳をフル回転させ、狼とゼロスリードの行動を読み、誘導するのだ。当然、両者の攻撃は私に集中する。だが、それがどうした。この程度で絶望していては、この年まで生きてはこれないのだ。


 狼の攻撃は激しさを増すが私には当たらず、ゼロスリードにダメージを蓄積させていた。仕切り直そうとしたのか、ゼロスリードが一旦距離を取ろうとする。だが、逃がさない。私は黒天虎の全力を以って、ゼロスリードを追う。無論、狼を背後に引き連れて。


「このババア!」

『ガオオオ!』

「ふはははは! そらそら! さっきまでの威勢はどうした! 邪人よ!」


 激痛に襲われる体を酷使し続け、私は踊り続ける。強者の間でクルクルと。命を削りながら。狼の牙を紙一重でかわし、ゼロスリードの剣を受け流し、血反吐を吐き。


 速さではほぼ互角――いや、狼は私よりも速いか。攻撃力では圧倒的に負け、防御力、再生力は比べる事さえおこがましい。しかし、それでも戦えているのは、いくつか要因がある。


 1つはゼロスリードがまだ遊んでいること。戦闘のスリルを楽しむ為、あえてこちらの思惑に乗っている。


 さらに狼の動きがややぎこちない事。速さは凄まじいのだが、動きの繋ぎがやや遅い。どうやら体を完璧には扱いきれていないようだ。


 さらに最大の要因として、経験の差が大きい。ゼロスリードも狼も、非常に強いうえに天賦のものがあることは確かだろう。だが、やや直感で動きすぎるきらいがあった。そして、そういった直感に対抗するのは経験だ。相手がどう動きたいか、どこを狙っているのか、それらを互いの動きを見ながら予測し合う。


 神経をすり減らしながら、脳を酷使しながら、粛々と戦闘を続けた。


「どりゃああ! いい加減、くたばりやがれ!」

『グルアアア!』

「……ふん」


 どちらも全く疲れた様子もない。嫌になる。こちとら、もう疲労と激痛でどうにかなりそうだというのに。しかし、一切手を抜くことはできない。僅かでも揺らげば、あっと言う間に命を落とすだろう。


「はっはっ……」

「婆さん! 息が上がってきたんじゃないか?」

「その、ババアを、捉えきれないのはどこのどいつだ?」


 挑発して、フランたちへと意識を向かわせないようにしながら、最後の力を振り絞る。だが、ギリギリで保たれていた均衡は、突如思いもよらない場所から崩れる。


『ガアアアアアアア――』


 鋼の狼が大きな悲鳴を上げると、その場で崩れ落ちたのだ。体がボロボロと砂のように崩れ落ちていく。何が起きたのだろうか?


 私とゼロスリードは示し合わせた訳でもなく、一旦距離を取って鋼の狼を観察した。いや、もう鋼の狼ではない。その姿は完全に崩れて消え去り、いまや単なる金属の塊と化していたからだ。


 だが、その崩壊は止まらない。むしろ加速すらしている。


 そして、鋼の狼が崩れて消え去ったその後には、フランの剣が転がっていた。全体にヒビが入った、廃棄寸前のみすぼらしい一振りの剣だ。すでに赤いオーラも黒い魔力も消え去り、先程まで神剣と伍すかと思うほどの凶悪な存在感を放っていた剣と同じ存在なのかと疑問に思ってしまう。


 こちらは本当に動きを止めたようだな。魔力の欠片も感じられない。もう、死んでいるだろう。残るはゼロスリード。こいつを引き付けておかねばならなかった。だが、ゼロスリードはつまらなそうな表情で、構えを解く。


「おい、なぜ剣を下す?」

「は? だってつまらねえだろうが。剣はもうだめ。婆さんは放っておけばすぐに戦闘不能だ。だったらもっと生きの良い――」

「させん!」

「おお? まだ元気だな? だが、明らかに速さが落ちてきてるぜ?」


 それは当然だ。激痛と目眩で、もはや足が動くのが不思議な程なのだ。だが、絶対にこの先には行かせない。


 黒猫族の将来とか、獣王国の未来とか、そんなものはどうでもいい。だが、あの娘たちを。血の繋がらない私の孫たちを、絶対にやらせはせん!


『――』

「うん?」

『――キアラ』


 なんだ? 誰かの声がする。これは念話か?


(誰だ?)

『俺は師匠……会話するのは初めてだな。まあ、俺の方は一方的に知っているが』

(なぜ? そもそも、どこにいる?)

『目の前だよ。そこに転がってる剣が俺だ。インテリジェンス・ウェポンなんだ』

(なんと!)


 だが、それならば狂鬼化スキルによって暴走する可能性もあるか。死ぬ間際で伝説の存在に出会うとは、人生とは何があるか分からんな。


(念話は助かる。もう口を開くのも億劫なんだ)

『キアラ。まずは閃華迅雷を解け。さもないともう数分もしないで――』

(ダメだ。閃華迅雷を解いた時点で、斬られて終わる)

『だが……このままじゃ本当に死んじまうぞ!』


 私は死ぬと言われ、それが本当の事だと自覚しながらも、ホッとしてしまった。フランが1人ではなかったことに。


 メアの周囲には多くの人がいる。クイナも、ハナタレ小僧だがそれなりに娘を愛しているはずの父親もいる。


 だが、フランは? 他の黒猫族たちでは、フランに付いていけないだろう。私が死んでしまったら、1人になってしまうのではないだろうか? そう思っていたが、ちゃんと相棒がいたんだな。


 ほんの十数秒会話しただけだが、この念話の主がしっかりと心を持った相手だと理解できる。こいつが居れば、フランは1人じゃない。肩の荷が下りた気分だった。


 これで心置きなく命を懸けられる。


(老人がせっかく格好つけてるんだ。最後まで恰好をつけさせてはくれないか?)

『……そうか。分かった。じゃあ、その命を少しばかり貸しちゃもらえないか? ゼロスリードを倒す』

(ふはは、いいぞ。何をすればいい? 私の残りの命、好きに使え!)

『まずは――』




やらかしました!

久し振りの予約投稿でミスって、1週間分を一気に投稿してしまいました!

土日で書き溜めた分が全部……。


いまさら取り下げるのもなんですので、このまま掲載しようと思います。

ただ、2日後の更新はちょっと無理そうですので、次回は4日後とさせてください。


先週からバタバタしてしまい申し訳ありません<(_ _)>


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