33 出発前のお約束
いつのまにか、日間ランキングで59位!
300位以内に入るのが当面の目標だったのに……。
これも皆様の応援のおかげです!
次は、目指せ50位以内ですね!
というか、急につまらなくなったと言われないよう、頑張ります!
ホブゴブリン討伐遠征当日。
俺たちはガルス爺さんの鍛冶屋に来ていた。頼んでおいた、鞘を受け取るためだ。
「よお、待ってたぜ。こいつを持って行ってくれや」
『おお、これが俺の鞘か!』
ガルス爺さんから手渡されたのは、黒く染めた革製の、シックな色合いの鞘だった。地味だが、仕立が良いおかげで、みすぼらしくは見えない。
「ん、師匠」
『おう。ではさっそく……』
フランが眼前に掲げ持つ鞘に、いそいそと収まる。
スポ
『おー……』
めっちゃ落ち着く。台座にハマってる時と、同じくらい。むしろ、台座が、鞘っぽくて、落ち着けたってことかもしれない。
『あー……』
熱い風呂に浸かった時の様な、極楽ボイスが出てしまった。しかし、本当にいいね。剣に、鞘収納欲求があったとは、自分のことながら知らなかったぜ。
しかも、ガルス爺さんの腕が良いおかげか、絶妙に体にフィットする。それがまた、布団に包まれているかのような、安らぎを与えてくれる。もう、ずっと鞘に収まってたい。それくらい落ち着けた。
『ガルス爺さん。最高だ。さすがだぜ』
「がはは。気に入ってくれて何よりだ」
「師匠、嬉しそう」
『おう、これはいい鞘だ~』
「しかも、単なる鞘じゃないんだぜ?」
ガルスがいたずら小僧の様な笑みを浮かべて、鞘に手を添える。
「ただの鞘じゃ芸がないと思ってな、少々鞘に細工をしておいた」
『なに? 本当かロンベ〇ク!』
「ロン〇ルク? 誰だ?」
『すまん、ちょっと興奮しすぎた』
鞘に細工? 一見、何もないけど。
「ここに金具があるだろ?」
「ある」
「これをこうして外すと――」
パカッ
「鞘が縦に割れた」
「おう。念動を使えば、嬢ちゃんの手を借りなくても、簡単に鞘から出れるって寸法よ」
『へぇ。こりゃいいな。鞘を元に戻すのも簡単だし』
念動で押さえて、金具を止めれば、あっと言う間に元通りの鞘だ。
「便利」
「だろ! 強度と両立するのに苦労したんだぜ?」
鍛冶師なのに、革製品も一級品とは。さすがに最高レベルの鍛冶屋なだけあるな。
『じゃあ、ありがたく貰っていくぜ?』
「おう。頑張って来いよ」
「ん」
さて、集合場所に行こう。門の前に集まり、ゴブリンの巣へ向かうらしい。まだ、ゴブリンはダンジョンから溢れだしておらず、今なら周辺へ被害を出さずに、殲滅ができるかもしれないということだ。
『冒険者って、こんなにいたんだな』
50人くらいはいるだろう。
「でもあまり強くない」
『ドナドが一番強いか』
ドナドはランクCだが、初心者を鍛える教官としても有名らしい。ほかにもランクCの冒険者はいるが、ドナドがリーダー役をすることに異論はないようだった。
「おい、なんで子供が混じってる!」
ただ、フランに対しては、異論があるみたいだな。まあ、ピリピリした冒険者たちの中に、緊張感薄めの少女が混じってたら目立つし、遊びじゃねー的にイラつく奴もいるだろう。
「剣なんか背負って、何のつもりだ」
声をかけてきたのは、お前も子供だろ!って言いたくなるくらいの年齢の、細身の青年だった。着ている鎧はまだまだ綺麗で、駆け出し感丸出しだ。
Gランクの冒険者は参加できないらしいので、Fランク以上のはずだが……。見た感じ、ゴブリンにだって勝てそうもない。ステータスではゴブリンより僅かに強いが、本当に微妙な差だ。
多分、戦闘系ではなく、街中での配達や、荷物運びの依頼でランクアップした口だろう。剣術Lv1とか、今まで見た冒険者の中ではダントツに弱いな。こんなのまで召集するなんて、人手が足りていないのだろう。
「ゴブリン退治にいく」
「アレッサを守るための、大事な戦いなんだぞ。お前みたいな子供、足手まといだ! だいたいな、ランクF以上の冒険者しか参加できないんだぞ。子供は帰れ!」
すっごい不愉快そうな顔をしているな。ただ、フランはマイペースに、青年をガン無視して、ボーっと立っている。
「おい、聞いてるのか?」
「?」
「ちっ。ほらこっち来い、ここは子供の遊び場じゃないんだ。冒険者ごっこは向こうでやれ」
多分、この青年は、ホブゴブリン軍団との戦闘を前に、不安なんだろう。まあ、確実に格が上の相手だしな。で、妙に精神が昂っているところに、かっこうの攻撃相手がいたので、絡んできたと。
周りにいる冒険者たちの反応は様々だ。面白がって見ている者、我関せずと無視する者、青年も含めてうるさそうに見ている者。傍から見たら、子供同士が場違いに騒いでいる様にしか見えないしな。
「ん」
「くそっ、ちょこまか動くな!」
自分の手をヒョイヒョイと躱すフランに、苛立ったように怒鳴る青年。そろそろ怒られそうだから止めようかな。そう思っていたのだが、周辺の冒険者たちには、積極的に絡んでくる者はいないようだ。
いや、中には怒っている者や、怒鳴ろうとしている者もいたが、その周りの冒険者たちに止められている。
「おい、やめとけ!」
「なんでだよ――」
「あれが――」
「噂の――」
「まじで――」
ギルドでの出来事と、ゴブリンを倒したことが、一部の冒険者に広まっているらしい。ただ、どんな場所にも、情報の重要性が分かっておらず、周りの話に耳を貸さないやつというのはいる。この少年然り、威圧的に怒鳴りつけてきた冒険者然りだ。
「おい、クソガキども! さっきからうるせーんだよ! 邪魔だから失せろ! 荷物持ちは間に合ってる!」
「お、俺は荷物持ちじゃない! 歴としたFランクの冒険者だ!」
「なりたてのランクFなんざ、ランクGとかわんねえーよ!」
「それでも、俺はランクFだ。参加する資格はある!」
「私もランクF」
「?」
青年が驚いたように、フランを見下ろした。正式な冒険者だとは思ってもみなかったんだろう。
「ぎゃはははははっ。お前らがFランク? お前らみたいな雑魚ガキがFなら、俺はAランクだぜ!」
Sと言わないところが、この男の限界だろう。
「おいおい。本当にこいつらがFランクだっていうのか? 冒険者っていうのは、ずいぶん簡単にランクが上がるんだな」
「まあ、所詮は遺跡漁りどもだからな」
「次の仕事までの繋ぎにと思って登録してみたが、どうやら高ランクになるのは楽勝そうだな!」
こいつらも元傭兵か。聞いた話によると、隣国で戦があったが、思ったよりも早く終結し、仕事にあぶれた傭兵が大量に生まれてしまったらしい。
ステータスを見たけど、ぜんぜん大したことがない。これで、どうしてこんなに威張れるのかね?
「へっへっへ。お前、いいもの持ってるじゃねーか」
「おっ? ずいぶん上等そうな剣だな」
「ちょっとよこせよ」
俺に目を付けるとは、お目が高いね。まあ、奪おうと手を伸ばしてくるのは減点だが。主に、危機管理能力不足の面で。
フランに絡んでいた青年は、悪寒でも感じたのか、鳥肌を立てて飛びのいている。良い反応だ。フランの放った殺気を感じ取ったんだろう。対して、傭兵崩れたちは、下卑た面で伸ばす手を止めようとはしていない。
「ん――」
「お前ら、そこまでだ!」
フランが動こうとした直前だった。ドナドが傭兵たちと、フランの間に割り込んできた。そして、男たちをどやしつける。
「まったく、馬鹿どもが! 出発前にいらん騒ぎを起こすな!」
「いや、俺たちは別に……」
さすがに、ドナドから発せられる威圧感は感じ取れたらしい。顔が引きつっている。
「言い訳はきかない。すべて見ていたからな。ゴブリン退治でせいぜい働け! それでチャラにしてやる」
その間に、男たちに興味を失ったフランは、殺気を霧散させると、その場を立ち去る。これ以上目立たない方が良いと判断した、俺の指示だ。後ろでは、青年冒険者が、フランに文句をつけている。
「あいつ、ドナドロンド教官に助けてもらっておいて、礼の1つもないのかよ!」
「がははは。当たり前だ、俺はお嬢ちゃんを助けたわけじゃないからな!」
「は?」
「まったく、出発前に、戦力を減らされちゃ敵わんからな」
「??」
ドナドのやつ、フランをどんだけ危険だと思ってるんだ。いくらフランだって、大事な作戦の前に、戦力を減らすような真似しないさ。多分ね。それに、やりすぎたって、回復魔法でどうにかなるし。
『少しは後遺症が残るかもしれんけどな』
「?」
『なんでもない。ゴブリン退治を頑張ろうぜってことだよ』
「ん。もちろん」




