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340 情報の齟齬


「キアラ師匠、もしかして……」

「ああ、見えたぞ」


 境界山脈近辺特有の、背の高い割に密度が薄く木材には向かないという木々の間を抜け、山脈の麓にたどり着いた時であった。開けた視界の先に、それはいきなり出現した。


 俺たちが見つめる先には、大量の邪人の死骸が散らばっている。そして、そのさらに先。境界山脈の山肌に、ぽっかりと大きな口を開ける巨大な洞窟が見えていた。


『周辺に魔力は感じないな』

「ん」


 かなり巨大な洞窟だ。入り口だけでも高さ15メートル以上はある。横幅に至っては40メートル以上あるんじゃなかろうか? 入り口付近であればちょっとした村でも作れそうな広さである。


 たまに、入るだけでも入り口にある崖を下らないといけない洞窟などがあるが、ここはなだらかな傾斜になっており、歩いて入り込むことが出来そうだった。地球だったら、ちょっとした探検特番の舞台にはなりそうな感じだ。


 俺たちはコソコソと洞窟の入り口に近づいた。入り口付近には苔むした巨大な岩々が転がり、天井からは巨大な鍾乳石が連なってぶら下がっている。


 一見すると天然の洞窟のようだが、岩などの配置が少し不自然に思えた。明らかに通り道となるようなルートが存在している。


「かなりの大軍が出入りした痕跡があるな。しかも、かなり大型の魔獣の足跡なども残っている」


 キアラがスンスンと鼻を鳴らしながら、洞窟の前の地面を軽く触る。パッと見は多少踏み荒らされただけだが、キアラレベルになると、どんな相手がどれほどの数通ったのかが分かるらしい。


「ここがダンジョンの入り口で間違いないだろう」

「そうですか。では、早速入りましょう」

「ああ。罠などはないという話だったが、気を付けろよ」

「はい」


 そうして、再びキアラを先頭にして洞窟の中を慎重に進んでいくと――。


「む、あれは……」

「灯ですね……」

「血の臭いがする」


 キアラが立ち止まり、メア、フランがそれぞれ反応する。確かに、洞窟の先が変化していた。鍾乳洞が途切れ、急に石造りの建造物に変わっているのだ。壁にはランプのような物が設置され、本当に砦か何かの通路に見えた。


 しかも、またもや大量の魔獣の死骸である。こちらでは邪人たちが押しつぶされて死んでいた。しかも床だけではなく、壁や天井にまでそのペッタンコの死骸が張り付いたままだ、


「こちらはアースラース殿の仕業でしょうね」

「ああ、それにしても凄まじいな。普通はダンジョン内の狭い通路では大規模な攻撃は使いづらいのだがな……」


 メアとキアラがそれを見て呻く。広範囲の攻撃であれば、自分まで巻き込まれる可能性が高いからな。だが、重力操作なら周囲への被害が少なくて済む。自爆もしづらいのだろう。そう考えると、火や水、風に比べて土魔術はダンジョン内で使いやすいのかもしれない。


「大地魔術はダンジョンに強い?」


 だが、フランの言葉にキアラが首を傾げる。


「一概にそうとも言えん」

「なぜ?」

「ダンジョン内には土が無い場所も多いのだ。洞窟を利用してるのでもない限りな」


 ダンジョンの壁などは石だったとしても、ダンジョンの支配の下にある。それを操ることは非常に難しいようだった。試してみたが、地面を針にする術は、消費魔力が通常よりもかなり多くなっている。


 魔力で生み出した土の塊を発射するタイプの術ならともかく、大地を操って敵を攻撃する術は使いづらいだろう。


 そう考えると、重力操作系の術が覚えられる大地魔術まで育てていないと、土属性は使いづらいかも知れないな。

 

 ウルムットのダンジョンではここまで酷くなかったと思うが、それもダンジョンそれぞれなのだろう。


「む!」

「今のは!」

「ん、凄い魔力」


 アースラースによる虐殺現場を抜け、さらに進もうとしていると、フランたちが身構えてしまうほどの巨大な魔力が感じられた。同時に、ズズンという振動が壁を揺らす。


「何者かが大きな魔術を使ったな」

「アースラース殿ですかね?」

「多分な。我らも急ぐぞ」


 道中、ヨハンの言っていた通り、罠などは一切なかった。だが、途中で急に行き止まりとなり、下へと降りる階段が出現する。


「ふむ……獣人国側はしばらくは一本道だと言っていなかったか?」

「はい、そのはずです」


 そもそも、このダンジョンのメイン部分はバシャール王国側に存在している。獣人国側へと拡張された部分はあくまでも、境界山脈を越えて侵攻するための地下道という扱いでしかないという話だった。


「なぜこのような階段が……。だいたい、こんな狭くては魔獣など通れんぞ」


 キアラの言う通り、その下り階段は完全に人間サイズだった。通れてミノタウロスまでだろう。オーガだときついかもしれない。


 だが、それは変だ。俺たちが入ってきた洞窟の出口を、魔獣の大軍が出入りに使ったことは確かである。だとしたら、そいつらはどこから来たのか?


 それとも、ダンジョンの中であれば転移させられるのか? だったらもっと入り口側に転移させればいい。この辺りにも魔獣たちが行軍した痕跡が大量に残っているのはおかしかった。


「分からんことだらけだな……。だが、ここで引き返すわけにもいかん。クイナ、先導を作れるか?」

「はい。少々お待ちを」


 先導を作る? どういうことかと思って見ていたら、クイナが幻像魔術で小人のような物を生み出した。見た目は幼稚園児サイズのマネキンといったところか。


 それにしてもクイナの幻像魔術は相変わらず凄まじいな。気配や熱さえ感じる。なるほど、こいつに先導させるわけか。罠などを誤魔化せるかどうかは分からないが、潜むモンスターであれば十分騙せるだろう。


「相変わらずいい腕だ」

「恐縮です」

「よし、行くぞ」



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