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338 同士討ち


「これをやった存在に心当たりがあるのですか?」

「ああ、たった1人だけ、心当たりがある」


 キアラが周辺の惨状を見ながら、真面目な顔で口を開いた。


「ランクS冒険者、同士討ちのアースラースだ」

「同士討ち? それは間違いないのですか!」

「分からん。だが、奴以外にこんなことをやれる人間を、他には知らん」


 メアが驚いている。有名人であるらしいな。いや、ランクS冒険者であるのなら当然か。にしても、同士討ち? かなりヤバそうな異名が付いているんだが。


「誰? 同士討ち?」

「ランクS冒険者だ。知らないか? 同士討ちのアースラース」

「ん。なんでそんなに変な異名?」


 首を傾げるフランに、メアとクイナが説明してくれた。


「昔の話になるが、他の大陸の戦争に参加している際、敵もろとも味方を攻撃したからだと聞いている」

「敵は壊滅、味方にも甚大な被害が出たそうです」

「それだけではないぞ。他にも似たような逸話をいくつも持っている」

「それでも彼が罰せられないのは、圧倒的に強く、常に被害以上の戦果を出しているからだそうです」

「噂には虚実入り混じっているため、どこまでが本当なのかは分からんがな」


 今の話が話半分だったとしても、かなりタチがわるいな。なにせ、敵か味方か関係なく、近くにいるだけで注意を払わなくてはならない。


「まあ、本人は悪人というわけじゃないがな」

「キアラ師匠はアースラース殿にお会いしたことが?」

「ああ、何度か。ただ、悪人じゃないと言っても、暴れ出すと見境が無くなる奴だ。だから常に1人で放浪しているんだがな。もしアースラースと遭遇した時に私が逃げろと言ったら、絶対に逃げろ。絶対にだ」


 キアラが怖い顔でフランたちに言い聞かせる。キアラがそこまで言うということは、本気でヤバいのだろう。


 ただ、気を付けると言っても、能力が分からなければ、何に気を付ければいいのかが分からない。


「どんな力を使う?」

「おっと、そうか。知らないのだったな。有名過ぎて、ついつい知っているものとばかり思ってしまう」


 メアがそう言って頭をかく。それほど有名なのか。いったい何者なんだ?


「神剣使いだよ。アースラース殿は大地剣ガイアの所持者として知られている」


 なんと、神剣の所有者だったのか! しかも大地剣ガイアね……。この惨状を引き起こした能力の正体が、ちょっと分かってしまったかもしれない。


 大地魔術には、重力を操る術がある。俺もグレート・ウォールを習得するためにレベルを上げたおかげで、幾つか使えるようになっていた。


 さらに、岩などを降らせる術もある。大地剣の名を冠する神剣であれば、それらの能力を使える可能性は高い。重力だけなのか、成形した岩などと組み合わせたのかは分からないが、広範囲を一気に押し潰すことは出来るんじゃなかろうか?


「以前、奴がこの光景と全く同じ状況を生み出すのを見たことがある。どうやって生み出したのかも分からぬ美しい立方体の巨石に押しつぶされる野盗どもの悲鳴を聞いた時には、さすがの私も肝を冷やしたものだ」


 どうやら俺の予想は当たっていたらしい。ただ、これだけの破壊をまき散らせる奴が、戦闘になると熱くなって周りが見えなくなる? もはやそれは災害レベルだろう。


「大地剣ガイアの使い手、同士討ちのアースラース。覚えた」

「この先にいるかは分からんがな」


 まあ、確かに。ダンジョンに向かったかどうかも分からないのだ。そんなことを考えていたんだが――。



 10数分後。


「確実に北に向かっているな」

「ん」


 しばらく進むと、先程と全く同じ光景に出くわしたのだ。違う点があるとすれば、魔獣の質だろうか。死んでいる魔獣たちに、雑魚の姿が一切なかった。中型、大型の魔獣だけが押しつぶされて死んでいた。


 いや、もう1点違うところがあった。今度は巨大な岩の壁のような物が、圧殺地帯の周囲に作り出されていたのだ。縦横15メートル、厚さ5メートル程の壁だったのだが、近寄ってみると1枚岩ではなく2枚の岩がはり合わされていることが分かった。しかも、その間から赤黒い液体が流れ出ている。


 どうやら岩と岩の間に、魔獣が挟まれて死んでいるらしい。多分だが、トラばさみのように左右から岩の壁で挟み込んだのだろう。魔獣の死骸を挟み込んだまま静かにたたずむ岩のオブジェが、周辺には8つも立ち並んでいた。


「……これは確実だろう。これと同じ攻撃をアースラースが放っているのを見たことがある」


 魔獣を殲滅したのはアースラースで間違いないらしい。アースラースとダンジョンが戦っているということなんだろうか? この地域でこれだけの魔獣が出現したとなれば、確実にダンジョンに関係しているだろう。


「ミューレリアが呼び戻された理由は、もしかしてこれか?」

「なるほど、その可能性はあります。お嬢様、珍しく冴えておりますね」

「珍しくは余計だ! そんなことよりも、ダンジョンに急がねば。上手くすれば、アースラース殿のお力添えが期待できる」


 同士討ちに力を借りるのか? 出来れば関わり合いになりたくないんだがな……。だが、頭に血が上っていなければ、いきなり襲い掛かられるようなことはないのだという。


「ですが、アースラースの噂を聞く限り、大人しく力を貸してくれるとは思えませんが」

「雇えばよい! いざとなれば、色仕掛けでも何でもするしかあるまい」

「……色仕掛け?」

「な、なんだその眼は! もしかしたらアースラースがペッタンコが好きな変態かもしれんだろうが!」

「そうですね」

「生温かい目で見るな!」


 アースラースは自由人として知られており、相手が誰であろうと気に入らなければ従わないらしい。それどころか、国相手だろうが何だろうが、喧嘩をふっかけることさえあるらしい。逆に、気に入った相手であれば、かなり危険な依頼でも簡単に受けてくれるのだという。ただし、非常に高額な依頼料を吹っ掛けるらしいが。しかも前払いで。


「依頼料を払えませんよ」

「お前のへそくりを出せ。メイドの嗜みの中に、貯めこんでいるのは知っているんだぞ?」

「これはいざという時に貯めているのですよ? こんなところで使う訳にはいきません」

「今がいざという時だろうが!」


 話を聞けば聞く程、不安しかないんだが。


「ともかく、ダンジョンに急ごう」

「はい」


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