32 Side フラン
ブクマが200を突破しました。
ありがとうございます!
「ふぅ……はぁ……」
お風呂はサイコー。私がお風呂好きだって言ったら、師匠はなんだか驚いてた。『ね、猫なのに?』って。
猫ってお風呂が嫌いなの? 私は黒猫族だけど、猫を見たことがない。王都の貴族が飼ってるんだって。私たちよりも、全然良い暮らしをしてるって、お母さんが言ってた。
いつか、師匠と一緒に、見に行ってみたい。
師匠は、とてもすごい剣。喋る剣なんて初めて見たけど、声だけだと人間と変わらない。
それに、とても強い。しかも、私まで強くしてくれた。魔獣にも負けないくらい。でも、今のままじゃダメだと思う。私じゃ、師匠を使いこなせてない。師匠の足手まといになってる。
今日のゴブリンだって、師匠が1人で戦っていれば、もっと早く、もっと簡単に勝てたはずだから。
まずは、師匠に貰った力を、使いこなす。その後に、自分も強くなる。そうやって鍛えてれば、きっと壁も越えられると思うし。
だから、今日は少しわがままを言って、ゴブリンと戦った。師匠に怒られたけど、最後は笑って許してくれたし、褒めてもくれた。
すごく嬉しかった。明後日は、また戦い。もっと強くなれるチャンスだ。
「あら、フランさん?」
「ん?」
「お昼振りね。この宿は、ギルドと提携してるから、職員なら浴場を使えるのよ」
ああ、受付の人だった。
「ここに泊まってるの?」
「ん」
「ああー、やっぱり可愛いわね~」
「?」
「きゃー。その首のコテン具合最高よ!」
受付の時は、もっと静かだった気がする。猫被ってたのかな? 人間だけど。
「ねえ? フランちゃんって、呼んじゃダメかしら?」
「別にかまわない」
「ありがとう! フランちゃん!」
いきなり抱き付かれた。別にいいんだけど、少しびっくりした。でも、胸がフニィってしてて気持ちよいから、許す。
「討伐戦は、いよいよ明後日ね」
「ん」
「発表は聞いた?」
「?」
「まだ聞いてないみたいね。どうやらゴブリンがダンジョンから溢れだしそうなの」
「この辺にダンジョンがある?」
ダンジョンはとても有名な存在だけど、アレッサの近くにダンジョンがあるという話を聞いたことがない。
「最近、出現したみたいなのよ。今まで、その場所に洞窟なんかなかったし」
「ダンジョンが急にできるの?」
「ええ、そうよ」
「?」
「あら、知らない? 混沌の神が人類に課す試練として、様々な場所に時折出現するんだけど」
「知らない。混沌の神? 邪神とは違うの?」
「あら、それも知らないのね。じゃあ、お姉さんが説明してあげるわ」
受付の人は、神話から説明してくれた。
「簡単に言うと、この世界は、88柱の神様が作ったの。その中でも、特に力の強い、10柱の神様がいたわ」
まず最初に、太陽の神、銀月の神、大海の神、大地の神、火焔の神、風雨の神、森樹の神、獣蟲の神が、世界を作り、生命を作っていった。
そして、冥界の神が、輪廻の輪を作り上げ、世界の理が構築された。
78柱の子供神たちは、親神たちの作った世界に、様々な物をもたらし、世界をより大きくしていった。
「子供の神様?」
「ええ。有名なところだと、鍛冶の神や剣の神、闇の神や料理の神などがいるわね」
そして最後に、混沌の神はその名の通りに、混沌を世界に振りまいた。
ただ、受付の人が言うには、それは世界の停滞を防ぐための、必要悪としての困難。試練だったらしい。
それは、私にもよく分かる。困難を乗り越えれば、その分成長できるから。ゴブリンと戦って、成長できたみたいに。
「邪神は?」
「邪神は、元々は戦の神だったのよ。でも、その力に溺れて、世界を支配しようとしたから、他の神々と争いになり、倒されてしまったのよ。あまりの恨みのせいで、バラバラに分かたれた遺骸には呪いが宿り、そこから邪人が生まれると言われてるわね」
「なるほど」
混沌の神はいい人。邪神は悪い人。私をさらった奴隷商人みたいな。
「ダンジョンは、混沌の神が作り出した試練の1つと言われてるわ。ダンジョンマスターという、混沌の神の眷属がいて、世界に混沌を与えるために、活動してるの」
ダンジョンマスター。師匠の食べられる魔石は持っているかな。きっと、凄いスキルをたくさん持ってると思うけど。
「研究段階だけど、ダンジョンは最初にコアという宝珠が生み出されるらしいわ。そして、コアが出来た時に1番近くにいた生物が取り込まれて、ダンジョンマスターになるんですって」
「弱いのも強いのもいそう」
「ええ。ダンジョンマスターによって、ダンジョンの難易度や方向性はがらっと変わるんだけど、動物とかがダンジョンマスターだと、難易度は低い傾向にあるわね」
「変なダンジョンマスターもいる?」
「ドラゴンやオーク、ウルフにコカトリス。命さえあれば、どんな者でもダンジョンマスターになる可能性があるんですって」
「人も?」
「勿論。過去に何度か、人類種のダンジョンマスターも確認されているわ」
人の作ったダンジョン。面白そう。
「正直、神の試練とか言われても、迷惑の方が多いのよね」
死んじゃう人もいるから、それはしょうがないと思う。私みたいに、戦いを求めてる人は少ないから。
「そりゃあ、ダンジョンには希少な魔獣もいて、冒険者にとっては飯の種になってるわ」
ダンジョンは、悪いことだけじゃない。お金持ちになった人もいるし。
「宝箱とかもあって、そこには強い武器とか、魔法のアイテムも入ってるし」
英雄の伝説だと、ダンジョンで見つけた凄い武器を使って国を作ったり、悪い竜を倒したり、大活躍することが多い。私には師匠がいるから必要ないけど。
「でもね、結局は強力過ぎるダンジョンアイテムが、戦争で使われたりして、混乱がもたらされたりするのよね~」
結局、受付の人の愚痴だった。
でも、私はダンジョンで強くなるから、混沌の神は嫌いじゃないよ。
「明後日は、すごく楽しみ」




