332 バシャールの騎士たち
ミューレリアを庇うように飛び出してきた騎士の男を鑑定してみる。
名称:ヨハン・マグノリア 年齢:45歳
種族:人間
職業:隠密騎士
ステータス レベル:53/99
HP:457 MP:209 腕力:238 体力:198 敏捷:192 知力:110 魔力:97 器用:99
スキル
暗殺:Lv6、演技:Lv5、嘘看破:Lv3、隠密:Lv6、感知妨害:Lv6、宮廷作法:Lv2、気配察知:Lv3、弓術:Lv3、剣技:Lv7、剣術:Lv8、社交:Lv5、盾技:Lv4、盾術:Lv6、消音行動:Lv3、毒耐性:Lv5、毒知識:Lv6、麻痺耐性:Lv3、水魔術:Lv1、話術:Lv5、気力操作、痛覚鈍化
ユニークスキル
危険視
称号
殺人者、バシャール王国副騎士団長
装備
気配遮断の剣、天魔鋼の盾、消音のミスリル全身鎧、消臭の外套、音消しの腕輪、魅了耐性の指輪
驚くほどの実力者だった。直接的な戦闘力ではフランたちに及ばないものの、暗闘ではかなりの力を発揮するだろう。いわゆる暴力的な暗殺者ではなく、人の間に入り込んで静かに命を奪うタイプの暗殺者だった。
しかも称号にバシャール王国副騎士団長とある。バシャール王国の騎士団の構成は分からないが、かなりの上位者であることは確かだろう。ミューレリアはバシャール王国と組んでいたわけだし、援軍がいてもおかしくはなかった。
ヨハンはフランの剣を弾いて距離を取ると、ミューレリアに向かって叫ぶ。
「今のうちに回復を!」
「何故出てきたの! あなたの仕事は私を助ける事ではないでしょ!」
だが、ミューレリアは怒っているような、それでいて焦っているような顔で、ヨハンに怒鳴り返す。せっかく助けたのに怒声をぶつけられたヨハンだが、その顔には爽やかな笑いが浮かんでいた。
「ははは! 確かに私の仕事は貴女の監視! ですが我が国を二度も救ってくださった貴女を見捨てる訳にはいかないでしょう!」
「……好きになさい!」
ミューレリアはそう叫ぶと、回復に集中しようとする。
「させない!」
「行かせん!」
この男、フランの動きについてきたぞ。脇をすり抜けようとしたフランの前に立ちふさがり、盾を構える。多分、ユニークスキルの危険視の効果だろう。いまいちイメージが掴みづらいが、自分や仲間に降りかかる危険を視覚で捉えるというスキルだった。危険察知の視覚版なんだろう。
「はぁぁぁ!」
『食らえ!』
どれだけ見えていようとも、それでも防げない攻撃を放てばいい。ヨハンを排除するため、フランの剣聖技に合わせて風魔術と火炎魔術を放つ。
だが、それさえもヨハンは防いでみせた。剣は盾技で、風魔術は剣で散らし、火炎魔術は回避する。思った以上にユニークスキルが強力だな。
ただ、剣を受け止めたことで多少後退している。俺はミューレリアに念動カタパルトを放つために溜めていた念動をヨハンに対して解放した。威力よりも範囲を重視して、ヨハンの体勢をより崩すことが目的である。
「くっ! 回避しきれん!」
ヨハンは咄嗟に盾を構えて踏ん張ったが、念動に押されて大きくのけぞる。そこにフランが俺を叩きつけた。体勢を崩しているせいで踏ん張ることも出来ず、ヨハンは剣を受け止めた盾ごと真横に吹き飛んだ。
俺たちはそれ以上の追撃はしない。目当てはミューレリアだからな。だが、そんな俺たちを邪魔するように、どこからか魔術が撃ち込まれていた。
「エア・スライサー!」
20近いカマイタチがフランに降り注いだのだ。一発一発の威力もかなり高い。回避しつつ、飛びのいた俺たちが魔術を放った相手を見ると、ミューレリアの後方に魔術師風の格好をした男性と、その部下と思われる騎士たちが立っていた。どこにいたんだ? ヨハンが現れたあと、周囲の気配を探ったんだがな……。何かのスキルなのだろうか。
「ミューレリア殿は我らが守る!」
「お主たちまで出てきたのか!」
「ふはは! 仲間と恩人のピンチに、隠れていることなどできませなんだ!」
「そうです!」
「ここで隠れていては騎士の名折れ!」
そう叫んだ魔術師男の名前は、サンホーク・ゴールディ。43歳の暴風騎士である。剣術などはヨハンより弱いものの、暴風魔術:Lv4と詠唱短縮:Lv6を持っており、攻守のバランスがとれている。また、集団隠蔽というスキルを所持していた。これが集団で隠れていられた理由だろう。
サンホークは再度詠唱を開始しながら、鋭い目をフランに向けていた。いざとなったらミューレリアの盾になる覚悟が感じられる。騎士の男たちも、ミューレリアを守るように囲み、不退転の構えだった。だが、ミューレリアを狙うのは俺たちだけではない。
「まずは護衛の騎士たちを排除する」
「オンオン!」
グエンダルファとウルシが騎士たちに襲い掛かる。クイナとミアノアは、ともに疲労困憊で戦闘に加われそうもない主の護衛だ。2人には騎士の排除に力を貸してもらいたいが、ミューレリア相手に油断はできないからな。仕方ないだろう。
「行け! 俺たちだってここまできて、役立たずなどでいられるか!」
「おう!」
「あの邪人の首を取る!」
ここまでほぼ役立たずの冒険者たちであった。彼らも息を潜めて機会をうかがっていたのだろう。真正面から戦っても勝ち目がない事を早々に悟り、チャンスをジッと待っていたのだ。無駄な特攻を仕掛けないあたりが、さすがに中堅冒険者と言ったところだろう。だが、相手が悪すぎる。
「やめろ! お前ら! やるなら騎士に――」
思わずグエンダルファが声をかけたが、冒険者たちは止まらない。そして、騎士たちに襲い掛かる前に、ミューレリアの放った邪気の弾丸が冒険者たちを撃ち抜くのだった。生命力はあまり減っていないので、意識を奪うための攻撃だったのだろう。
だが、これはチャンスだ。今の攻撃でミューレリアの邪気がまた少し減った。それに、意識が逸れてもいるはずだ。
俺とフランは気配を消して駆け出すと、一気に騎士たちの間をすり抜ける。虚を突かれた騎士たちは、何かが通り過ぎたことに気付いて慌てて振り返ろうとしているが、もう遅い。あと一歩でミューレリアの背後だ。
『もらった!』
「だああああ!」
フランが剣を突き出したその瞬間、復活したヨハンがミューレリアを庇うように飛び込んできていた。どうやら危険視でミューレリアのピンチを予測し、身を盾にして庇ったらしい。
「ぐはぁっ!」
「しつこい」
ミューレリアを狙っていたはずのフランの突きが、ヨハンの胸部を貫く。それでも俺たちは諦めていなかった。そのままヨハンごとミューレリアを刺し貫こうと力を込める。
「させ、るがぁぁぁぁ!」
「無理するなヨハン!」
ミューレリアが叫ぶが、ヨハンは止まらない。
「ぬがぁぁ!」
なんとヨハンは自らの体により深く剣が刺さることも厭わず、そのまま前進してきたのだ。少しでもミューレリアから遠ざかろうというのだろう。さらに自らの手を傷つけながらも俺の刀身を握り込むと、抱きかかえるようにその場で蹲る。
「俺ごと、やれっ!」
その言葉に一切の躊躇もなく。他の騎士たちがフランに斬り掛かる。
『ちっ!』
俺はとりあえず転移で脱出していた。ヨハンは仲間の攻撃を数発受けて、血の海に沈んでいる。攻撃は失敗したが、厄介な男は始末できた。次はミューレリアに届かせる。そう考えて再度剣を構えたフランだったのだが、その背後から襲い掛かってくる意外な相手がいた。
「がぁぁぁぁぁ!」
「ひゃはは!」
「がおぅぅ!」
なんと、先程ミューレリアの攻撃で倒れているはずの冒険者たちであった。全員が邪気酔いの状態になっている。しかもその体からは僅かに邪気が立ち昇っていた。
他の冒険者たちも次々と立ち上がると、フランに殺到してくる。その様子はアンデッドのようでもあった。
「あはは! あの剣に効かなかっただけで、やはり邪神の支配は通用するわ!」
なるほど。さっきの弾丸で邪気を撃ち込んで、邪神の力で支配したってことか。
「このまま奴らを――?」
何やら言いかけていたミューレリアが突如背後を振り向いた。どうやらその視線は北を向いているようだ。
「ちょっと、何を言っているの! まだ第三騎士団のヨハン達も……! 侵入者?」
なんだ? 急に叫び出した。
「待ちなさい! 今引くなど……! 見殺しにするつもり? それは――くそぉっ!」
誰かと喋っているような感じだが……。しかも揉めているようだ。
「私は一度帰還しなければなりません……あなた達も早く離脱しなさい!」
「はは! 俺らには構わず行ってください」
「そうでさ」
「これが仕事ですから」
「あなた達の仕事は私の監視のはずでしょう! くっ、無駄死には許さないわよ! ヨハンをよろしく頼むわ」
ミューレリアがそう呟いて、ヨハンに取り出したライフポーションを振りかけた。死にかけていたヨハンの生命力が回復していく。かなり高価なポーションだったようだ。
『フラン、ミューレリアが逃げちまうぞ!』
「ん!」
俺はミューレリアの真横に転移した。その直後にフランが剣技を放つ。
「はぁぁぁ!」
「がぁぁ! こ、小娘、決着はまた次よ! 覚えてなさい!」
『ちっ。転移しやがったか』
ミューレリアはフランに腕を切り落とされながらも、転移してその場から姿を消した。周囲に気配も感じない。本当に逃げられたらしい。
「どこに行った……?」
『奴を追いたいが、今はこの騎士たちと冒険者どもだ』
「……わかった」
殺さずに取り押さえたいところだな。
レビューを頂きました。
毎回同じことを言っている気がしますが、とても励みになります。
これでまた戦えますね。
ありがとうございます!




