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331 追撃


『いくぞ!』

「はぁぁ!」


 フランは空中跳躍を使って、キアラと激しく斬り合うミューレリアに一気に迫り、斬り掛かった。普通の斬り合いであれば剣技で上回るフランが有利。しかし空中戦は飛行可能なミューレリアが有利。その結果、互いの攻撃を慎重に防ぎ合う展開が続く。だが、ミューレリアの動きがかなり悪いな。推測だが、破邪顕正の封印効果により、邪気を扱う能力が低下しているように思えた。技の発動などに、僅かなラグが生じているのだ。これはチャンスだった。


 最早、俺に対しては邪術障壁など無意味だと分かっているのだろう。ミューレリアはキアラの攻撃を無視して、フランだけに集中し始めた。キアラたちには自分に致命傷を与えるのが不可能だと判断したためである。だが、本当にそうかな?


「はぁぁ!」


 突如、メアが3者の戦いに割って入る。ミアノアにぶん投げられるようにして、ここまで飛び上がってきたのだ。クイナの幻像魔術でギリギリまで隠れていたせいで、俺以外にはその姿がいきなり現れたように見えただろう。


 ミューレリアは一瞬メアを無視した。だが、すぐに防御態勢を取ろうとする。危険察知スキルなどで、やはり無視はできないと判断したのだと思われた。それを俺たちが邪魔する。メアの攻撃を障壁で防ごうと思ったら、フランの攻撃を防ぐことが疎かになるだろう。結局、ミューレリアは転移して逃げることを選択したらしい。ミューレリアの姿が消え、十数メートル離れた場所に現れていた。


『逃がさん!』

「この! 忌々しい!」


 俺たちもその直後には転移して追いかけ、攻撃を続行する。俺たちの攻撃はかわされてしまうが、それで構わない。奴の注意を一瞬でもメアから逸らすことが目的なのだ。


「それで逃げたつもりか! はぁぁ、砲閃火!」


 メアがまるでSF映画のレーザービームのような、金色の光線を放つ。どうやら金炎と白火を圧縮して撃ち出したらしい。邪神化したワルキューレを黒焦げにした金殲火は近接用の技、こちらの砲閃火は遠距離用なのだろう。


 俺たちに意識を向けていたミューレリアは白金の光線に対応できず、下半身を消し飛ばされていた。


「ぎぃぃっ!」


 メアが全力を込めた渾身の攻撃だ。あの威力の攻撃であれば、さしものミューレリアであっても防ぐことはできないらしい。臍から下を失った姿のまま、激痛に喘いでいた。どうやら苦痛無効は持っていないらしい。


「く、糞獅子がぁ! あとで八つ裂きにしてやる!」


 すぐにミューレリアの傷口からボコボコと肉が盛り上がって再生を始める。同時に周囲に邪気の霧のような物を発生させた。危険感知がビンビンと反応しているな。触れるのは危険そうだ。この霧で身を守ろうとしているんだろう。だが、それでも俺とフランの追撃を遮ることはできない。


 フランはその場で俺を大上段に構えた。一見すると、俺の念動で宙に浮いたまま霧に阻まれて動けずにいるようだ。


「剣王技・天断――」


 だが、額に浮かぶ玉のような汗と、深く繰り返される呼吸が、その集中具合を物語っている。時間にして僅か数秒。だが、その間に練り上げられた全霊を込めて、フランが俺を振り下ろした。邪気の霧もろとも、大気が切り裂かれるのが分かる。


「ぎ、ぎざま……!」


 邪気が払われ、一瞬で霧が晴れた後には、天断によって左肩口から右の脇までを切り裂かれた哀れな姿のミューレリアだけが残されていた。傷口からボトボトと内臓と血が大地に向かって落ちていくのが見える。メアの砲閃火と違って傷口が焼かれた訳ではないからな。


 だが、邪人であるミューレリアはさすがにしぶとい。既に再生が始まっている。しかし、その隙にキアラが忍び寄っていた。


「私を忘れてくれるなよ!」

「この、ババァァ!」


 キアラが黒雷転動を活かした一撃でミューレリアに斬り掛かる。ミューレリアは障壁を切り裂いたキアラの攻撃を剣で受けたものの、威力を殺しきれずに地面へと凄まじい勢いで叩き落とされた。轟音とともに、大地に減りこんでいるのが見える。


 ミューレリアに一矢報いたキアラだったが、俺を装備するフランや、圧倒的な魔力を誇るミューレリアと違い閃華迅雷は凄まじい負担になっていたのだろう。攻撃を放った直後に覚醒が勝手に解除され、生命力と魔力が枯渇寸前の状態でミューレリアの後を追うように地面に落ちていった。


『キアラ婆さんがやばい!』

「ん」


 フランが慌てて助けようと駆け出すが、キアラが怒ったように叫ぶ。


「私のことはいい! 戦いに集中しろ!」

「……!」


 言葉だけでなく、強い眼力が全霊でフランにそう告げている。すると、フランはすぐに方向を転換し、ミューレリアに向き直った。キアラならたとえ魔力を使い果たしていたとしても、どうにかなるという信頼もあるのだろう。


 主の危機だと理解したジークルーネが、フランとミューレリアの間に厳しい顔で割って入った。その手には漆黒の槍が握られている。だが、その顔には確かに理性の色が残っていた。外見的な変化は、眼球が漆黒に染まっているくらいだろう。


「行かせない!」


 その動きは先程とは大違いだ。単にステータスが底上げされただけではなく、感覚系や武術系スキルにボーナスが入っているのかもしれない。邪人となってしまったせいで俺の鑑定が利かなくなっており、正確には分からないが。


『邪神石の槍を使っているのに暴走してないぞ?』

「……なんで暴走しない?」


 フランの呟きにワルキューレが答える。


「ふははは! 私たちはできそこないの妹と違って、戦乙女の中でも特に神代の力を受け継ぎし存在! 戦神の眷属として生み出された存在なのよ! たとえ邪神となり果てようとも、主の力を与えられて暴走するはずがない!」


 なるほど、邪神が戦神としてまだ神々の仲間だった時に生み出された眷属なのか。同じ個体ではないだろうが、その系譜に連なる存在ということなんだろう。だからこそ、邪神の力に対しても耐性が――いや、親和性があるのかもしれない。


 獣人の十始族が、始祖となる神獣の力を受け継いでいるのと似ているな。


「はぁぁぁ!」

「ちぇぁ!」


 破邪顕正の効果によって、俺と打ち合わされる度に邪神石の槍に傷が付く。さらにジークルーネ自身の邪気も減り続けていた。槍が邪気の根源だからな。その槍が破邪顕正スキルの封印効果で力を減じることになれば、ジークルーネの力も減るのだろう。


 しかし、これ以上こいつに時間を稼がれては、ミューレリアが回復してしまうかもしれない。


『一気に片をつける!』

「ん!」

『はぁぁ! くらえ!』

「この娘、まだこんな魔力が残って――!」


 今日、何発目かも分からないカンナカムイを発動させる。しかしこれは威力を抑えた目眩ましだ。威力は抑えたと言っても多少なりとも破邪の効果が乗っているので、ダメージは期待できる。このくらいの攻撃でなければ、奴の動きを一瞬とは言え完全に封じることができないからな。だが、本命は形態変形による全方位攻撃だった。


 飾り紐を変形させての鋼糸攻撃。それをさらに発展させたのだ。イメージは、武闘大会の3位決定戦で対戦したフェルムスの攻撃である。全ての方向から一斉に襲い掛かってくる糸の津波。まあ、俺の場合はそこまでの量は生み出せないので、せいぜい細波程度だが。


 この技の欠点は、糸が少ないので威力が低すぎる事。今回のように、相手が邪人でもなければ大したダメージは与えられないだろう。利点はかわしづらい事。特に、邪人であればこれだけでケリがつくかもしれなかった。


 カンナカムイを防ぐために全力を費やしたジークルーネは、狙い通りその場で動きを止めてしまっている。そこにフランの剣技と、俺の攻撃が襲い掛かった。


「ぐぎゃぁぁぁぁぁ――」


 フランの剣技で槍を叩き折られた直後、まるで同時に何十もの斬撃を受けたかのように、その体がバラバラの細切れになる。


『ちっ、魔石値は少ないか!』


 暴走していないとは言え、邪神石の槍の影響はしっかり出ているようだった。残念だ。


 ミューレリアは部下が細切れにされたのを見て、歯をギリギリと食いしばってこちらを睨んでいる。ちょうど再生が終わったところであるようだ。


「本当に、やってくれるわね……!」

『フラン! 奴はまだ本調子じゃない! 今がチャンスだ!』

「ん!」


 空中から再びミューレリアに突っ込むフラン。しかし、再度それを邪魔する者がいた。


「うおおおおお!」

「誰?」

『人間か……?』


 そう。それは人間の男であった。まるで騎士のような出で立ちの男が、槍を構えてミューレリアを庇う位置に立っている。どうやら気配を殺して周囲に潜んでいたらしい。ミューレリアの仲間か?


「ミューレリア殿はやらせん!」


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