329 キアラと援軍
ミューレリアの張った結界が消えた直後、乱入してきたのはこちらの味方であった。いつの間にか覚醒を可能としてたキアラ婆さんによって、メアと戦っていたワルキューレがあっと言う間に葬られる。
だが、援軍はキアラだけではなかった。他の皆のところにも、手助けが入ったのだ。
デュラハンと戦うクイナの下には、キアラのお付きのメイドでもあるミアが加勢に向かっていた。
「クイナ先輩、お手伝いします」
「ミアノアですか。では、あれをやりますよ?」
「あれ、ですね。了解です」
無表情とマイペースのメイドタッグ結成だ。ミアノアはフワフワカールの桃色の髪の毛と、茫洋とした眠たげな瞳がチャームポイントの小柄な美少女だ。だが、次の瞬間には中々インパクトのある姿に変わっていた。
「覚醒」
肘から先が一瞬で肥大化し、まるでそこだけ巨大な違う生物の腕を取り付けたかのようだ。その表面は矢尻のような形の大きい灰色の鱗が覆い、指から先は牛の角に似た鋭く太い爪が生えている。他の部分が人間のままであるが故に、腕の異様さが際立っていた。思わず鑑定しちまったぜ。
ミアノアの種族は灰山甲。多分、センザンコウの獣人なのだろう。腕力と防御力が高い上、固有スキルは腕力瞬間倍化。完全に物理特化型の能力である。
一直線に突っ込むミアノアを囮にしつつ、クイナが幻像術も併用してデュラハンに忍び寄ると、関節技でその場から動けなくした。
背後から両腕を掴んで捻じり上げつつ、膝裏に蹴りを入れて片膝立ちにさせたのだ。柔よく剛を制すのお手本という感じだった。痛覚が無いアンデッドが相手でも、関節を通して発揮される力の流れをコントロールすることで、その動きを阻害する事ができているのだろう。
そこにミアノアが肉薄した。全腕力をつぎ込んだ右の爪を、デュラハンの胴に突き入れる。
「はぁぁぁ!」
「――」
捻じり込むように放たれた鋭い爪の一撃は、デュラハンの鎧をあっさりと貫き、巨大な穴を穿った。威力が爪先に集中しているので、デュラハンの体が爆散したりもしない。あれならば魔石も粉々だろう。
デュラハンを貫通した爪は、クイナの直前で止まっている。自らに勢いよく迫る鋭い爪を見ても、クイナは微動だにしなかった。これも信頼の成せる業なのだろう。
攻撃力が低い代わりに動きが速く、相手の邪魔が得意なクイナと、動きは遅いが一撃必殺の力を持つミアノア。かなり良いコンビだな。
「ミアノア、少し血が飛びました」
「先輩、そのくらいは勘弁してくださいよ」
「腕が鈍ったのではないですか?」
「そ、そんなことないですって」
リンドの助けに入ったのは、見覚えのある大男であった。すでに覚醒をしているのか、全身鎧の隙間からのぞく皮膚が、灰色に染まっている。ゴツゴツとした硬そうな皮膚だ。
「衝波あぁぁぁっ!」
こちらもいつの間にか進化を果たした、犀の獣人グエンダルファであった。闘技大会で俺たちと戦ったゴドダルファと比べるのは可哀想だが、王都で別れた時よりははるかに強くなっている。
俺たちも散々苦しめられた、全身から衝撃波を打ち出す黒鉄犀の固有スキル『衝波』を放ち、アッパースイング気味に振り上げた戦槌の一撃と組み合わせてデュラハンを上空へとかち上げていた。
「クオオオオォォ!」
空中で身動きが取れないデュラハンに向かって、リンドが容赦なく襲い掛かる。背後から火炎のブレスを浴びせた後、尻尾で思い切り地面に向かって叩き落とした。
その時点でデュラハンにはかなりのダメージではあるが、そこにグエンダルファと一緒に追撃をしかける。
「おらぁぁ!」
「クオオォォッ!」
地面にめり込んでいるデュラハンに対して、グエンダルファが戦槌技を叩き込み、リンドが高空から猛スピードで降下しながらさらに尻尾の一撃を加えた。
「ちっ! いい加減ブッ潰れろやぁ!」
「クオオオ!」
それでも動きを止めないデュラハンに対して、グエンダルファたちが連続で攻撃を叩き込み続け、何とか仕留めることに成功する。
ミアノアと違って一撃で倒せなかったところに、レベルの差を感じさせるな。やはり進化して強くなったとはいえ、ミアノアたちのような達人レベルには至っていないということなんだろう。
「よっしゃああ!」
「クオオオォォ!」
そして、フランの助けに入ったのは、ある意味最も待ち望んでいた加勢であった。
「ガルルル!」
「ウルシ!」
フランの影から飛び出してジークルーネの足首に噛みついたのは、偵察部隊の排除に出たまま戻らなかったウルシであった。
「この狼、どこから――」
「もらった」
「くそぉ!」
完璧に魔石を貫いた――と思ったんだが。直前でジークルーネの姿がその場からかき消えていた。
「これ以上、戦力を減らされるのは困るのよ」
「申し訳ございません、ミューレリア様」
ミューレリアが自分の横にジークルーネを転移させたのだ。もう俺の攻撃のダメージからは立ち直ったらしい。それでも先程よりも邪気が大分減っているが。
「オン!」
「ウルシおかえり」
「オウン」
ミューレリアを睨みつける俺たちの下に、ウルシが駆け寄ってきた。ウルシもどこかで戦っていたのだろう。その全身には痛々しい傷跡が残り、その戦いの激しさを教えてくれる。
多分、キアラたちがポーションや回復魔術で癒してくれたのだと思う。だが、ウルシの傷があまりにも深すぎて、完全には治らなかったのだ。
特に背中から右わき腹にかけて残る傷跡は、よく致命傷にならなかったと感心してしまうほどに大きかった。その部分は毛が生えずに剥げたままなので、非常に目立つのだ。他の傷も深いものは剥げたままなので、その怪我の酷さを生々しく感じることができた。
『ちょっと待ってろよ。グレーター・ヒール!』
「これもおまけ」
俺の魔術と、フランのぶっ掛けたライフポーションによって、ウルシの傷跡が見る見る癒えて行く。多少残ったが、先程までに比べれば全然目立たない。
ただ、一ヶ所だけどうしても消えない傷があった。
『ウルシ、かっこよくなっちまって』
「ん。迫力が出た」
「オン!」
眉間から、左目の下を抉るように穿たれた傷である。まるで任侠映画の登場人物のような傷跡だ。ただでさえ怖いウルシの顔の迫力が一段階アップしたな。今までは子供が泣き出す程度だったのが、大人でさえ道を譲るレベルで凶悪さが増していた。
多分、特殊な攻撃で付けられた傷なのだろう。完全に傷跡を消し去るには、さらに上級の魔術やポーションが必要になるようだった。
「さて、中々舐めた真似をしてくれたわね……」
ミューレリアがそう呟いて、怒りに満ちた瞳で俺たちを睥睨した。消耗しているとはいえ、まだまだ俺たちなど遥かに上回る圧倒的な邪気をその身に宿している。ミューレリアの怒気を向けられた俺たちは、思わず身構えてしまっていた。
相手が誰だかわからずとも、一瞬でその危険性を理解したのだろう。キアラも硬い表情でミューレリアを見上げている。
「おいおい、予想以上の化け物だな」
それでも戦意を保っているのはさすがだな。キアラたちと一緒にこの戦場へとやって来た、冒険者と思しき男たちは全員が顔色を無くして、今にも逃げ出しそうな様子だというのに。




