328 反撃開始
『ここは破邪スキルしかない!』
俺は状況を打破するべく、スキル一覧の中から破邪スキルを取得することにした。このスキルをゲットして、ミューレリアを攻撃する。そして、隙をついてフランたちを連れて逃げ出すのだ。
どんな術が出るかも分からない魔術にポイントを振るよりは、効果があると分かっている破邪スキルの方が確実だろう。自己進化ポイントを5消費して、破邪スキルを入手する。
《破邪スキルを獲得しました》
次は、破邪を進化できるかどうかだ。もし進化させられるのであればかなり強力な戦力になってくれるだろう。
《自己進化ポイントを消費して、破邪を進化させます。よろしいですか?》
よし! 破邪のランクアップも5でいけるらしい。これはもうこのスキルにつぎ込んでしまっていいだろう。
《破邪顕正を獲得しました。フランが称号、邪人討滅者を獲得しました》
破邪顕正:邪神の眷属を打ち払い、その力を封じる力。
なんだ? 急に説明がフワッとしたな。いや、むしろユニークスキルはこんな感じの説明が多い。剣神の祝福もそうだった。逆に期待できるだろう。
「なに? この剣、急に嫌な雰囲気が……」
やべっ。ミューレリアが俺の異変を敏感に察知した。
「それに、ステータスも見れなくなった……?」
多分、ミューレリアが俺のステータスを見ていたのは単なる鑑定スキルではなく、邪術のような邪神系スキルによるものだ。その効果が破邪顕正によって弾かれているのだろう。
まだ疑惑のうちに攻撃を仕掛けなくては!
『フラン! メア! クイナ! リンド! 今からミューレリアに攻撃を仕掛けて、その隙をついて逃げる! 準備をしろ!』
皆の返事を待つことはできないが、何の前触れもないよりはましだろう。一方的にフランたちにそう宣言した直後、俺は剣の体をクルリと反転させると、ミューレリアに対して念動カタパルトを発動した。破邪顕正を全開にするイメージだ。
『うおおおぉぉぉ!』
「ば、馬鹿な! 支配できてないの? でも無駄よ!」
俺の切先があと数センチで直撃するという直前、ミューレリアは咄嗟に障壁を張り巡らせる。先程までであれば、俺はこの壁を突破できずに弾かれていただろう。
だが、俺の攻撃はいとも簡単にミューレリアの張った障壁を破壊すると、その胴体を深々と貫いていた。
『うぉっ?』
「がはぁっ!」
俺も驚きの声を上げてしまうほど、あっさりとしたものだった。それこそ、障壁の存在などまるっきり無視だ。
しかも、ミューレリアが苦悶の表情を浮かべて苦しんでいる。俺がミューレリアの腹を深々と貫いた直後、奴の体内の邪気がゴッソリと減少したのが分かった。これが破邪顕正の邪気封印の効果なのだろう。
『くらえ!』
「ぎぃぃ! このぉぉ!」
さらにダメージを与えるために、ミューレリアの体内で火炎魔術をぶっ放す。だが、破邪顕正の効果は魔術には少ししか乗らないらしい。ミューレリアが身に纏った強力な邪気で打ち消されてしまった。多少傷口を焼いたものの、大したダメージは与えられなかったな。というか、ミューレリアはやはり侮れない。体内で爆発した火炎を、自らの邪気を制御することで抑え込んだのだ。
「な、なぜ……。何か能力を隠し持っていたとでも言うの……? うがぁぁぁ!」
『いがっ!』
今度は俺が呻く番だった。柄を掴んだミューレリアに凄まじい腕力で引き抜かれる。そして、そのまま刀身に拳を叩きつけられた。破邪顕正の効果で守られているとはいえ、障壁で防ぎきれるわけもない。俺の刀身は半ばから砕け散っていた。
「この駄剣めぇ! 大人しく私に従いなさい!」
圧倒的格下の俺に大ダメージを与えられて、ミューレリアは冷静さを失っていた。周囲が完全に見えていない。俺が飾り紐を密かに伸ばしていることにも気づいていないようだった。
『それは絶対にゴメンだ』
「ぎあぁぁぁぁ!」
飾り紐が無数の棘と化して、背後からミューレリアに襲い掛かる。やはりこれも破邪顕正のおかげなのか、1本1本はそれほど威力が無いはずなのだが、ミューレリアの障壁を無視してその体を刺し貫いていた。
背を反らせて絶叫をあげるミューレリア。激痛のせいで集中が途切れたのだろうか。戦闘開始直後にミューレリアが生み出した、時空魔術阻害効果のあるドーム型の結界が宙に溶けるように消えてなくなる。
よし、これで逃げられる! 俺は転移を使って速攻でフランの下に戻った。
「師匠!」
『フラン、待たせたな! 逃げるぞ!』
「ん!」
だが、俺たちが逃走に移るよりも早く、戦場に駆けこんでくる複数の影があった。どうやらドームの外で気配を殺していたらしい。その数は30程。敵の救援かと思ったが、邪気が感じられなかった。
先頭を走っていた特にすさまじい魔力を放っていた人間が、俺ですら捉えきれない程の速さで加速する。そして、メアと戦っていたワルキューレに突っ込んでいくのが見えた。その身に纏った黒い雷を残像のように残しながら。
「はぁぁぁぁ!」
「な、どこから――!」
ワルキューレは背後から突っ込んでくる謎の気配に驚愕の表情を浮かべ、とっさに振り向くが遅すぎた。その直後には謎の人影の繰り出した剣がその右胸を貫き、全身を黒い雷が焼き焦がす。
「馬鹿なぁぁ!」
それがネームドワルキューレ――ロスヴァイセの最後の言葉であった。跡には黒い炭だけが残されているだけだ。
「ふん。他愛のない」
「キ、キアラ師匠! なぜここに!」
メアが驚き半分、嬉しさ半分の叫び声を上げる。そう。謎の人影の正体は、いつの間にか進化を果たしたキアラ婆さんであった。
長身に、男前な表情、ピンと伸びた背筋は王都で出会った時と変わらない。だが、髪の毛には一目でわかる変化があった。その長い髪は全てが白髪だったはずなのだが、今は白と黒の縞模様になっていたのだ。それはまるで虎の縞のようであった。しかもその身には黒い雷を纏っている。そう、それは黒天虎へと至った証であった。
咄嗟に鑑定してみると、そのステータスは凄まじい事になっている。元々進化前の状態で進化後の獣人を上回る強さだったのだ。それが黒天虎となり、閃華迅雷を覚えたせいで途轍もない事になっている。
俺の補助でステータスが底上げされているフランですら、到底及ばないレベルだった。それだけの力を得たキアラが、不敵な笑みを浮かべながら呟く。
「悪いなメア。1対1を邪魔した」




