320 神の領域
クイナがフランに対して、メアが神剣を発見した時の様子を訥々と語っている。さっきまで邪気酔いなんていう状態異常だったのに、元気だね。
『ん? いや、待てよ。クイナ、大丈夫なのか?』
「なにがでしょう?」
『さっき、邪気酔いになってたはずなんだが』
「おお! そう言えばそうだった! すっかり忘れておった! 大丈夫なのか?」
「はい。問題ありません。それにしてもあれが邪気酔いですか。話には聞いていましたが、初めて体験しました」
どうやらクイナは邪気酔いについて知っているらしい。
「邪気酔いは、邪神の眷属の様な強い邪気を発する相手と長時間戦闘している場合などに起こるそうです。まるで二日酔いのような状態になるんだとか。お酒は嗜みませんが、あれが二日酔いなんですね。あの様な苦しい状態に自らなるのですから、やはり酒飲みというのは馬鹿なのでしょう」
酒飲みだって二日酔いになりたくてなる訳じゃないんだよ? ただ、お酒が美味しすぎて、少し飲み過ぎてしまうだけなのですよ!
「放っておくと危険らしいですが、邪気の元を断てば沈静化するそうです。お嬢様とフランさんがデュラハンを倒した時点で、違和感はすべて消えました」
そう言えば、メアの白火とフランのカンナカムイによって、邪神石の剣も消滅してたな。邪神石の槍よりも大分脆い気がするが……。魂を吸っていないからだろうか?
俺が邪神石の謎について考えていると、メアが不意に口を開いた。
「そう言えば、師匠はなぜそのような場所に刺さっていたのだ? 森の中なのだろう? 作った鍛冶師がそこに置いたのか?」
『いや、違う』
俺はメアたちに、台座で目覚めてから、枯渇の森に刺さって身動きが取れなくなるまでの話を掻い摘んで聞かせてみせた。念動で飛びつつ魔獣を少し倒して、遊んでいる内に枯渇の森に刺さってしまったという話を適当にしただけだが。一応、俺が転生者と言う事はぼかしてある。ここまで来たら明かしてしまっても良い気がするけど、転生なんて言う話を信じてもらえるとも思えないしね。
「魔狼の平原の台座か……」
『何か知ってないか?』
「知らん!」
さいですか。クイナにも聞いてみたが、やはり知らないらしい。クランゼル王国に行ったことがないというし、仕方ないが。
「それにしても、調子に乗って身動きが取れなくなるとは、師匠さんは非常に人間くさいですね」
おっと、クイナは鋭いな。いや、ちょっと考えればすぐ疑問に感じるか? インテリジェンス・ウェポンとは言え、イコール人間くさいとも限らないのだから。むしろ、考えて喋る武器と言われたら、もっと無機質な、それこそアナウンスさんみたいな存在を想像するだろう。
自分で言うのもなんだが、俺は無駄に人間くさ過ぎる。あえてこう作ろうとは思わないんじゃなかろうか?
「師匠は元人間だから、人間くさいのは当たり前」
あ、フランさん? それもばらしちゃうのね? いや、異界からの転生という部分は曖昧にして、単に人間の魂を剣に封じたという事にすればいいか。
だが、その事にメアたちが非常に驚いている。メアなどは目を見開いて、椅子から立ち上がっている程だ。
「そ、それは本当か?」
「ん」
「魂とは神の領域です。つまり、人間の魂を剣に封じるという行為は、神、もしくはそれに準ずる存在にしか不可能な行いです」
「うむ! やはり師匠はただの魔剣ではないな!」
なるほど、言われてみたらそうかもしれん。しかも俺は異世界から転生している。本当に神の意思が介在しているのか? まあ、こんなこと考えておいて、実は偶然でしたって言われたら最高に恥ずかしいけどね。どんだけ自意識過剰なんだっていう話だ。
「なあ、もしや師匠はフランにスキルを与えるだけではなく、自分でもスキルを使えるのではないか?」
『どうしてそう思った?』
「スキルとは魂の力であると聞いたことがあるのでな。人としての魂を持っているのであれば、念話や念動といった剣に付随しているスキル以外も使えるのではないかと思っただけだ」
『まあ、使えるけど』
「やはりか! 思えばフランの魔術やスキルの使用間隔は異常だったからな。何か秘密があるとは思っておったのだ」
俺たちの場合、フランが剣技を発動している間に、俺が無詠唱で魔術を連発したりしているからな。
高速思考に並列思考がないと――いや、それらがあっても人間では無理かもしれなかった。メアもフランの戦闘を見て、違和感を覚えていたらしい。だが、特殊なスキルの恩恵なのだと思っていた様だ。
「それ故、あの連打速度か。もしや、極大魔術も使えるのか? というか、あれは師匠のスキルなのか?」
『ああ』
「それは凄まじいな! 一見してフラン一人。しかしその実、師匠とフランで極大魔術を連発できるとなれば……。正直言って、現時点でも準神剣とさえ言えるかもしれん……」
『あ、でもメアとの模擬戦では俺は手出ししてないよ? スキルは貸したけど』
「それは分かっている。我らは似た者同士だからな! たとえ師匠が手助けをすると言っても、フランが聞き入れまいよ」
分かっていらっしゃる。戦闘狂は戦闘狂を知るって事かな?
「我らは似ているからな。齢も近く、種族も獅子と虎と似ている。強力な剣を所持し、戦いを求めている。フランもそうは思わぬか?」
「ん。思う」
「で、あろう? なればあれだ。その、あれなのだ!」
「ん?」
メアが歯切れの悪い物言いで、何やら訳が分からないことを言い始めた。急に顔を赤くして口ごもり始めたメアの様子に、フランも首を傾げている。
「わかるであろう!」
わからん。何が言いたいんだ?
「お嬢様、恥ずかしいのは分かりますが、もっとはっきり言わないとフランさんも分かりませんよ? 自分たちは似ているから、友達になろうとお伝えしませんと」
「な、なあああ! 何を言っておるか!」
そう言うことか。メアがモジモジしていた理由が分かった。短い付き合いだが、メアの性格では気軽にその手の事は言えないだろうというのは分かる。そして、クイナは絶対わざとだろう。
メアをからかいつつ、あえてばらしてしまう事で援護もしたのだと思われた。6:4でからかい優先な気もするが。
だが、メアが再び口を開く前に、フランが口を開いていた。
「私たちは一緒に戦ったからもう友達」
「フ、フラン……!」
友達というか、戦友? いや、戦友も友達の範囲内か。
「そうじゃよな? わ、我らは友達じゃよな?」
「ん」
「ああ、遂にお嬢様がぼっち卒業ですね」
メアとクイナが異常に感動している。まあ、喜んでくれているしいいけど。フランにも友達が増えるのは良い事だしね。




