30 なんかランクアップ
なんとか30話。これも応援してくださる皆様のお陰です。
主に、作者のモチベーション的な意味で!
ゴブリンの群れとの交戦後、俺たちは速やかにアレッサへと戻ってきた。本当は防具の修復に行きたかったが、ギルドへと連れていかれる。
エチケットとして、浄化魔術で汚れを落とすが、酷い格好に変わりはない。ただ、冒険者は誰も気にしていないみたいだ。
「エレベントさん、どうでしたか?」
「おう。ギルマスに報告がある」
「お待ちください、確認してまいります」
エレベントのシリアスな顔を見て、事態の悪さを悟ったのだろう。ネルさんが、慌てて奥に引っ込んだ。
数分後。ネルがフランたちを呼びに来る。
「ギルドマスターがお呼びです。こちらへ」
ギルマスの執務室に入ると、ギルマスとドナドのコンビがいた。
「報告を聞きましょう」
「ああ。クラールたちと共に、現場に向かったんだが、そこでフランさんに出会ってな」
「すでに、戦闘は終了した後でした」
「そうですか。では、フランさんにお聞きしたいんですが……」
ギルマスが軽くため息をつく。フランの無口っぷりを分かっているからだろう。どうやって話をさせるか、思案している顔だ。まあ、ここは俺がフォローしてやるか。結構切迫した事態みたいだしな。
「報告をしていただいても?」
『フラン、角を出してやれよ』
「ん。コレ」
フランは道具袋に偽装した次元収納から、ホブゴブリンの角を取り出した。
「これは……ホブゴブリンの角?」
ギルマスは鑑定を使い、それが何であるのか理解すると、厳しい表情で取り上げる。
「ゴブリンに、ホブゴブリンが混じっていたのか! ゴブリンどもの総数は? ホブゴブリンは何匹だった?」
ドナドも、角を手に取って驚愕している。
「たくさん」
「あーっと、もう少し詳しくだな」
『130匹くらいだ』
「130匹くらい」
『ホブゴブが4、上位種が20くらい』
「ホブゴブリンが4、上位種が20」
「馬鹿な!」
ドナドが思わず立ち上がる。
「完全にゴブリンスタンピードの前兆じゃないか!」
「落ち着きなさい、ドナドくん」
「す、すいません」
「さて、フランさんに質問です。ゴブリンたちはどうしましたか? 撤退したのですか?」
「全部倒した」
「なるほど、撤退しなかったと」
「ん。最後まで向かってきた」
「それはまずいですね」
何がまずいのか?
ギルマスが言うには、フランが倒したゴブリンたちは、口減らしのために、巣の外に追い出された様なものらしい。繁殖が進み、巣で賄いきれなくなった下級ゴブリンたちが、キングの命令で溢れだしたのだ。なので、死ぬ覚悟で、巣の脅威になりそうなフランに向かってきたのだろう。
そこに、ホブゴブリンや上位種が混じっているという事は、巣の中は既にホブゴブリンだけで固められていると思っていいらしい。
「今回のゴブリンスタンピードは、規模が大きそうだな」
「冒険者たちに緊急招集をかけましょう」
「今日明日で準備を行い、明後日には巣の殲滅を試みる。そういった流れですかね?」
「ええ。まずはシーフ系冒険者に、巣の位置を探らせましょう。特別依頼を出します」
「では、俺はポーション類を確保するか」
慌ただしくなってきたな。ネルさん以外の受付嬢なんかも呼ばれて、いろいろ指示が出されている。
「では、エレベントさん。あなたにはもう一働きしていただきたいのですが、よろしいですか?」
「現場への道案内ですかい?」
「はい。シーフ系の冒険者を連れて、戻ってほしいのです」
「わかりやした。アレッサの一大事だ、俺も全力を尽くしましょう」
エレベントの言葉に、他の冒険者たちも力強くうなずいている。フランも付いていきたそうな顔だが、許しませんよ。
防具の修復もしないといけないし、今日は休ませる。それだけは譲れん。
「フランさんは……今日はお休みください。その防具では、無理はさせられませんしね」
「……ん」
フランは無念そうにうなずくが、グッジョブギルマス!
エレベントたちは、さらに詳細の確認を行うらしい。
「じゃあ、帰る」
「ああ、待ってください。お帰りの前に受付によって行ってください、Fへのランクアップの申請をしておきますので」
「? まだ、依頼を5つ達成してない」
「ゴブリンの大軍を1人で殲滅するような冒険者を、Gのままにしておけるわけがないでしょう。それに、Gランクでは今回の討伐依頼に参加できませんからね。こちらの都合でもあります」
「がははは。強い冒険者は1人でも多い方がいいからな」
「突然の依頼ですからね。どれだけの冒険者が集まるか、分からないのです。その時に、確実に戦力に数えられる人間は貴重ですから」
「明日にでも、討伐戦への参加依頼が告知されるだろうから、その依頼を受けてくれ」
「ん。必ず受ける」
「助かります」
「じゃ」
ギルマスの言葉通り、受付ではランクアップ手続きをしてくれた。特に問題もなく、あっさりとしたものだ。時間も、数十秒くらいだろう。ただ、ギルドカードにはFの文字がある。
「あがった!」
嬉しいらしい。他人の評価はどうでもいいが、こういう目に見えて分かるランクとかは、気になるみたいだな。レベルとかもそうだ。まあ、自分の強さの目安にもなるしね。
『よし、参戦も決まったし。防具の修復に行こう。ただ、今の手持ちで足りるかね?』
「武器を売る」
『ギルドで売れるか?』
聞いてみると、ギルドでは素材や採取物の買取しかしていないという事だった。
『じゃあ、ガルスのところに持っていくか』
問題は、こんな出来の悪い武器を、ガルスレベルの鍛冶屋が引き取ってくれるかどうかだ。
『いや、待てよ。もう1人、商人の知り合いがいたじゃないか!』
「?」
『おいおい。まあ、影薄かったけどな。ランデルだよ』
「ああ」
その「そう言えばそんなのもいたな」的反応やめれ。まあ、俺も人のこと言えんけど。
『西の大通り沿いにあるって話だ』
「探す」
大きいアレッサの町で、ランデルの店を発見できるか心配だったが、探してすぐに発見できた。通りの入り口付近にあったし。店の前にランデルがいたからだ。
「おや、フランさん! もしかして、僕の店をお探しだったり?」
「ん。売りに来た」
「それは嬉しいな! ささ、入ってくれよ」
ランデルが店に招き入れてくれる。
『何というか、非常にごちゃごちゃしてるな』
狭い店内に、所狭しと商品が陳列されている。ハチミツと毒薬が並んでたり。日用雑貨と武器が並べてあったり。統一性もなかった。
「汚い」
『おおう。せっかくオブラートに包んで言ったのに!』
ランデルを見ると、苦笑している。
「はは。よく言われるんだ。売れそうなものを、片っ端から並べてるだけなんだけどね」
だとして、手広過ぎじゃないか? まあ、俺が口出すことじゃないし、いいんだけど。一般人は近寄りがたいだろう。
「これ、買い取って」
「うわ。アイテム袋を持ってたんだね!」
「一応」
次から次へと取り出される武器に、ランデルは若干引いている。
「それにしても、これは……! 凄い量だね」
「まだある。同じくらい」
「ええ? ちょっと待って。悪いんだけど、床に置いてくれるかい?」
「分かった」
「こんなに入るなんて、かなり高級なやつなんだね。僕のは凄く小さくて使い辛いから羨ましいよ」
さすがプロなだけあって、世間話しながらも、武具を査定していく。その眼は鋭く、商人の顔だ。
「うーん、あまり状態は良くないね」
「ゴブリンが落とした」
「ああ、そういう出所の物だったんだ。いくつか鋼鉄製の武器もあったから、多少はましだけど……。合計で13000ゴルドかな?」
(いい?)
『1つ平均200ゴルド強ね……。状態から考えたら、良いところなんじゃないか?』
「分かった。それでいい」
ランデルがアイテム袋から、硬貨を取り出す。
「では、こちらをどうぞ」
「ん」
受け取った金は、全て次元収納に仕舞いこむ。取り出すのも簡単なので、良い財布代わりだ。
「ありがとうございました。またよろしくね」
面白い商品が沢山あるし、また来ることもあるだろう。その時には、何か買わせてもらおう。
金も手に入ったし、次はガルス爺さんの店だな。相変わらず、広場には商人がたむろしている。俺たちは、先日も利用した裏口から、店に入った。
「こんちゃー」
「おお、お前らか! どうした? まだ鞘はできてないんだが」
「ん、今日は違う」
『防具を直してほしいんだが……』
そうして、防具を見せた第一声が「な、なんじゃこりゃ~」だった。
「おいおい。たった1日でここまで……。一体どうした?」
「ゴブリンと戦った」
「ゴブリン?」
『正確には。ゴブリンの大軍だ。100匹超えのな』
「ホブゴブもいたよ」
「はぁ? それは、一大事じゃねーか! スタンピードが起きるぞ!」
『すでに冒険者ギルドには報告済みだ』
「そうか。しかし、よく無事だったな」
「師匠のお蔭」
「師匠?」
『俺の名前だよ』
そう言えば、ガルスには俺の名前を教えてなかったかも。ただ、嫌な予感がする。
「はぁ? なんでそんな変な――」
『良い名前だろ? フランが考えてくれたんだ!』
気づけ、ガルスよ!
「お、おお。いい名前じゃな。本当に」
『だろ? そうだろ?』
「最高の名前じゃ! 名剣に相応しいな!」
ふー。危なかったぜ。気配で伝わったのか、ガルスはフランをチラチラ見つつ、俺の名前を褒めちぎる。不自然なくらいに。
「そ、そう言えば、防具の修復だったか?」
『そうなんだよ! 直るか? 明後日には、ゴブリン討伐に行かなきゃならないんだが』
「それは問題ないぜ。直すのはすぐ済むからな」
「いくらかかる?」
「そうだな……1万ゴルドってとこか」
『結構安いな』
「まあ、魔水晶の代金だからな」
『魔水晶?』
「魔石と違って、地面から採掘される、水晶の一種だ。魔力を蓄えていて、儀式の触媒に使えるんだ」
『初めて聞いたな』
「直すのは、鍛冶魔術のリペアを使うんだが、その際に触媒として魔水晶が必要になる」
『じゃあ、魔術で直すのか?』
「おう。どうせなら見ていくか?」
『いいのか?』
という事で、ガルス爺さんの修復を見せてもらうことにした。
防具を作業台の上に置く。そこには、魔法陣が描かれているみたいだ。台座のようなところに黄色い魔水晶を置く。
あとは、ちょっと詠唱の長い魔術を使うのと変わらない。
「――リペア!」
ガルスの力ある声に応えるように、魔法陣が光り輝く。そして、光が収まった後には、傷と汚れがきれいさっぱりと消えた、新品の様な防具があった。
「すごい」
『ああ。新品同然じゃないか』
「そこまで都合のよい術じゃないぞ。同じ防具に何度も使うと、効力が落ちていくからな。今回は小さい魔水晶で済んだが、次はもう少し大きい奴を使わなきゃならん。料金も30000くらいはかかるだろうな」
そうなると、買い直した方が安い場合もあるってことか。その時の手持ちと相談だな。
「ありがとう」
「良いってことよ。ホブゴブどもとの戦いで、頑張ってもらわなきゃいかんからな!」
「任せて」
『俺たちが、キングもクイーンも倒してやるからよ!』
「ん。私たちの獲物」
「はははは。頼もしいな!」




