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317 メアの炎

 デュラハンの魔石を食ったおかげで、凄まじい力が流れ込んでくる。ワルキューレと違って、莫大な魔石値だ。やはりワルキューレは邪神石の槍に魂を食われたせいで、何か異変が起きていたんだろう。


 魔石値もランクアップ直前まで一気に溜まった上、スキルもゲットできた。邪人たちを倒していたおかげでほとんどは所持しているスキルだったが、精神異常耐性が手に入ったのはでかいだろう。


「では、残った奴らを掃討していくとしよう。フラン、今度こそ我が糧とさせてもらうぞ?」

「了解」

「よし、では援護を頼む」

「ん」

「しばらく覚醒はできんが、あの程度の相手であれば問題は無かろう」

「お嬢様。こちらを」

「おお、これは覚醒ポーションか?」

「はい。こんなこともあろうかと、準備しておりました」


 クイナがメアに差し出したのは、どうやら魔法薬のようだ。今、どこから出した? 見間違いじゃなければスカートの中だが……。メイドのスカート、謎だぜ。


「それはなに?」

「覚醒ポーションだ」


 なんと、覚醒を連続で使うことができるようになるポーションらしい。肉体を変化させる覚醒は、肉体に著しい負荷がかかる。故に、連続での使用はできない。消耗した状態では、覚醒そのものが発動しないのだ。だが、この覚醒ポーションを使うと、その負荷を軽減し、覚醒を可能とするらしい。


 ただ、メチャクチャ危険な香りがする。無理矢理覚醒が使えるようにするとか、副作用がヤバそうじゃない?


「副作用は?」

「一本程度なら問題ない。明日から数日、ちょいと鼻が利かなくなったりする程度だ」


 獣人にとったら十分にまずい副作用じゃね? いや、それで覚醒を連続で使用できるようになるなら安い物か。


「魔獣どもはかなり散ってしまったな」


 メアの言う通り、統制のとれた邪人たちは逃げずに戦っていたが、魔獣は相当逃げ散ってしまった。できればこれ以上は逃さず、殲滅したいところだな。


 避難民たちに護衛部隊が向かってくれたとは言え、魔獣を減らしておくに越したことはない。


『まずは足を止めよう』


 俺たちがグレイト・ウォールで作り上げた城壁は、まだ無事な姿で残っている。ワルキューレによって幾つか大きな穴はあけられているが、補修はすぐにできるだろう。俺たちは直したこの城壁を利用して魔獣を殲滅することにした。


 邪人や魔獣をあえて外して攻撃魔術を放ち、俺たちが魔獣を食い止めるために利用していた隘路に逆に追い込んでいく。当然、隘路の出口は塞いである。


 魔獣たちはあっさりと俺たちの誘導にひっかかり、城壁へと追い込まれていった。かなりの数の魔獣が堀へと落下して身動きが取れなくなっている。これは放っておいたら回復した魔獣が堀をつたって逃げられるかもしれんな。俺たちは慌てて堀の両サイドを土魔術で塞いだ。ただ、それ以外はほぼこちらの思惑通りだ。


 そもそも、魔獣たちは相当に混乱していたし、怯えてもいる様だ。俺とフランに散々攻撃された後にリンドに追われ、指揮官であったワルキューレ、デュラハンを倒した凄まじい攻撃を目の当たりにしているからな。


 邪人たちも、メアとフランの魔術で追い立てられ、魔獣たちと一緒にグレイト・ウォールの方へと追い詰められていく。


「いいぞフラン! これで大分殲滅しやすくなった!」


 そして、メアによる殲滅が始まった。


 突っ込んで行って近くの敵は剣で葬り、中遠距離の敵に対しては火炎魔術を放つ。フランと俺のコンビとかなり似た戦い方だった。そこにリンドも上空から援護を加えている。


「クオオオォ!」

『俺たちはどうするか……』

(メアの援護)

『そりゃそうなんだが、全く倒さないって訳にはいかないだろ?』


 やり過ぎたらメアに怒られるだろうが、目ぼしい魔獣の魔石を少し頂くくらいはしておきたい。まあ、魔獣の殲滅が優先なのは変わらないが。まだワルキューレの主であるミューレリアとかいう奴もいるし、俺たちの勝利が確定した訳ではないからな。


 壁側に追い込んだ魔獣たちを囲む様に、俺たちはさらにグレイト・ウォールを発動させた。魔力的にはかなり無理をすることになるが、今は魔獣を追い込む方が大事なのだ。


「はぁぁぁ!」

『形態変形!』


 俺たちは近くの魔獣は魔石を食らい、遠くの敵には魔術を放つ。そうやって魔獣をグレイト・ウォールの檻へと追い立てながら、生命強奪、魔力強奪を使って失った力を回復させていく。


『よーし、これで完成だ!』

「ん!」


 多少時間はかかったが、邪人と魔獣たちの軍勢を、グレイト・ウォールでぐるりと取り囲むことに成功する。あとはメアが全てを叩き潰すのを援護するだけだ。


 いや、それすら必要ないかもしれない。魔獣たちのひしめく巨大な長城の檻の中央で、凄まじい魔力が立ち昇るのが確認できた。


 メアが金炎絶火を使用したらしい。それだけではない。メアの体から吹き上げる炎は、金と白の入り混じった美しい色をしていた。詳細は不明だが、白火も同時に使用したらしい。


『あれはヤバいな……』

「巻き込まれる?」


 その危惧は当たっていたらしい。グレイト・ウォールの上から魔獣たちを見下ろす俺たちの真横にクイナが駆け上って、逃げるように警告してくる。


「巻き込まれますよ? 私も逃げます」


 さっきまではメアのそばで一切巻き込まれることなく一緒に戦っていたクイナが逃げなくてはいけない程の大技が放たれるということなんだろう。見たら、リンドも上空へと退避していくのが見えた。


『フラン、俺たちも逃げるぞ』

「ん!」


 クイナの後に付いて俺たちも慌てて逃げ出す。その直後だ。


 グレイト・ウォールの向こう側から、巨大な火柱が立ち昇る。ちょっと離れた場所から見たら、噴火が起きているかのようにも見えるかもしれない。


 あまりにも強力なメアの攻撃に壁も耐え切れなかった様で、土がブクブクと沸騰しながら凄まじい早さで溶けだしていく。


『うわー……』


 あの側にいたら爆炎に巻き込まれるか、グレイト・ウォールが溶けて生み出された溶岩に飲み込まれていただろう。


「今日は張り切っておられるようですね。想定以上の攻撃です」

「やりすぎ」


 クイナと共に走りながら、俺たちは未だに轟轟と立ち昇り続ける金と白の火柱を見守る事しかできなかった。あの劇的な熱量の渦巻く壁の向こうで、魔獣も邪人も生き残っているわけがないだろう。文字通りの殲滅だ。未だに1000匹以上残っていた魔獣たちが、たった1発の攻撃で全滅である。


「メアは大丈夫なの?」

「問題ありません。少々お疲れでしょうが、自分の炎で自爆と言う事はありません。ただ、そのせいで周辺への気遣いが今一足りないのが困りものです。自分が全く平気なものですから、ちょっとくらい巻き込んでも平気だろうと本気で考えているフシがありますから。これはあとで教育的指導が必要ですね」


 それは恐ろしい。ただ、できればクイナにはしっかりとメアを教育してほしいものだ。まあ、とにもかくにも、これでこの場での戦いは終了だろう。一息つけそうだな。


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