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313 邪神石の槍


 ワルキューレが持つ邪神石の槍から、凄まじい邪気が発せられていた。邪術師リンフォードが巨大化した時並の莫大な邪気だ。


『フラン! 何かする前に倒せ!』

「ん!」

「させん!」


 ワルキューレが構えた邪神石の槍を見た瞬間、フランとメアが飛び出す。だが、2人の剣は、ワルキューレの周囲に張られた障壁に阻まれてしまっていた。これも見覚えがある。リンフォードの使っていた障壁だ。全く同じものかは分からないが、同種のものだろう。


「この力は、本来はグリンゴートで解放する予定だったのだが、構わん! 貴様らを葬った方が、この国に対するダメージは大きいだろう。せめて道連れにしてくれる!」


 そう叫んだワルキューレの傷口が見る見る塞がっていく。だが、先程までの様なダメージを邪人に肩代わりさせた回復ではない。


 何せ傷口がボゴボゴと蠢いて盛り上がり、肉で塞がれてしまったのだ。しかも、再生した傷口は黒いゴツゴツとした瘤の様な物に覆われていた。まるでその部分だけがゴブリンの皮膚に変化してしまったかのようだ。


 いや、実際鑑定をしてみると、ワルキューレの種族が半邪人に。称号に邪神の奴隷が新しく加わっていた。さらにステータスが軒並み上昇し、スキルに邪術も加わっている。


 邪神石の槍とやらの効果なのか? 邪神系の奴らは邪人もアイテムも、説明が不明になるから詳細がわからん。


「我が魂を食らい、全てを破壊しろ! 邪神石よぉぉ!」


 ワルキューレの体から発せられる魔力が、邪気に塗り替えられていく。


「くっ。フラン! もう一度だ!」

「ん!」

「――インフェルノ・バースト!」

「はぁっ!」


 今度は中距離から火炎魔術と雷鳴魔術を放つフランたち。だが、その攻撃も障壁にあっさりと弾かれていた。


「うがああぁぁぁぁぁぁぁ!」


 今度はワルキューレが一気に突っ込んで来る。その眼球は漆黒に染まり、口から漏れ出すのは呻き声にも似た禍々しい咆哮だけ。もはや理性を感じることはできなかった。急速に邪人化が進んでいるようだ。


「がぁぁ!」

「なぁ! こいつめ!」


 パワーが遥かに増したワルキューレによってフルスイングされた槍を剣で受けたメアが、大きくのけぞった。


「メア!」


 フランが援護のために攻撃を加える。どうやらワルキューレの障壁はオートガードではない様で、背後からのフランの斬撃はあっさりとワルキューレの背中を斬り裂いた。


 相手の防御力が上昇しているものの、その一撃は背骨と肉を深々と斬り裂いている。だが、傷口は一瞬で黒い皮膚が盛り上がり、塞がってしまった。しかも、全く痛みを感じていないかのように、動きを一切止めない。


「があ!」

「ぬぐわ!」


 ワルキューレの放った前蹴りが金炎の防御を突き破り、メアを吹き飛ばす。当然、ワルキューレの脚は炎で焼かれ、膝から先は完全に炭化してしまう。しかも、メアを蹴った衝撃で炭化した脚は完全に砕け散った。しかし、一瞬で肉がグジュグジュという耳障りな音を立てて盛り上がり、足が再生してしまった。傷が治る度に、美しい女性の姿をしたワルキューレの肉体にゴブリンの様な醜い体が混ざり合い、より異様な姿に変わっていく。


 ワルキューレはその場で重い槍を片手でクルリと回して逆手に持ち替えると、背後にいるフラン目がけて突き出してきた。


「うがああぁぁ!」

「むっ!」

『おら!』


 俺の念動を併用して、その槍を受け流す。体が流れたせいでバランスを崩したワルキューレに、フランが剣聖技で反撃した。同時にメアの火炎がその身を焼く。メアはワルキューレの前蹴りをギリギリ剣で防いだ様だな。ピンピンした様子だ。


「こやつ、本当に厄介だな! ダメージが通っている気がせん!」


 攻撃しても痛がった素振りをせず、全て再生してしまうからだろう。メアが厳しい顔でぼやいている。


「ぐるおぁぁぁ!」

「ぬあ!」


 再びワルキューレの拳に吹き飛ばされたメアは、蹴りの時と全く同じ様に再生を始めるワルキューレの拳を見て、このままではキリがないと判断したらしい。


「フランよ! ちょいと大技を放つ! 少し任せていいか!」

「おっけー」

「うむ!」


 メアが後ろに下がり、フランがワルキューレを引きつける。閃華迅雷は使っていないものの、1対1なら何とかなっていた。ステータスが大幅に上昇して戦闘力は上昇しているが、邪人やデュラハンの邪魔が無いからな。


『はぁ!』

「ふっ!」


 フランはワルキューレと打ち合いながら、少しずつその体が反転する様に誘導していく。メアに背を向ける様な位置だ。


 戦闘力が上昇していても、思考能力が下がっているせいでこちらの誘導に普通に引っかかる。ただ気になるのは、ワルキューレの動きが段々速くなってきたことだ。


 もしかしたら邪人化したばかりで、調子が完全ではないのかもしれない。このまま力と肉体が馴染み、調子が完璧になったら? 危険かもしれない。メアの大技とやらで仕留められればいいんだが。


「インパクト・スラッシュ!」


 次の瞬間、フランがワルキューレの繰り出した槍に剣聖技を合わせ、その衝撃を利用してわざと大きく弾かれた。あえて距離を取ったのだ。


 そこにメアが突っ込む。アイコンタクトでタイミングを合わせたらしい。初めてタッグを組むとは思えない息の合い様だった。ワルキューレは背後のメアに反応していない。


「はぁぁぁ! 金殲火!」


 先程まで使っていた竜剣リンドは背負われ、代わりにメアの手には光り輝く剣が握られている。メアの持つ金色の剣は、自らの金炎を圧縮した物であるようだった。フランの黒雷招来と同じような、金炎絶火状態でしか使えない奥の手なのだろう。


「ぬおおお!」

「が……が……」


 メアの炎剣がワルキューレの背を貫き、そのまま内側からその身を焼く。ワルキューレの体内を焼き焦がした金炎は、目や口と言った穴から体外へと吹き上がる。


「ぐぎゃおおおぉぉぉぉぉ!」


 遂にはその炎は全身を包み込み、金色の火柱となって天に向かって立ち昇るのだった。その内側で、絶叫を上げながら蠢く黒い影が見えていなければ、綺麗な光景なんだろうがな。


「ぐががぁぁぁぁ!」

(師匠!)

『おう!』


 強烈な炎に身を焼かれるワルキューレに対して、フランがダメ押しの斬撃を放つ。最初は剣王技・天断を放とうとしたのだが、今の状態では使用できないらしい。閃華迅雷状態のステータスでないと発動さえできないようだ。


『うおおおおぉぉぉぉ!』


 形態変形で刀身を巨大化した俺を、フランが空気抜刀術で振り下ろす。


 金炎に触れた瞬間、刀身がドロドロに溶かされてしまったが、火炎耐性のおかげで一瞬で蒸発することは避けられた。瞬間再生と組み合わせれば耐えることができる。やはり、獣王の金炎には及ばないらしい。あっちは気づいたらもう刀身が失われていたからな。


 そして、ワルキューレを真っ二つに切り裂いた瞬間、魔石を吸収する感覚があった。力が俺に流れ込んでくる。今度は、確実に食ったぞ!


『きたきた!』


 無理をして追撃を仕掛けた甲斐があったぜ!


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[一言] ワルキューレの魔石、ゲットだぜ!
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