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312 メア&フラン

「とあぁぁ!」

「はぁ!」

「くっ!」


 メアとフランがワルキューレに斬り掛かる。ワルキューレはその攻撃を槍で捌きつつ、苦々しい顔で後退していた。槍も高レベルではあるが、フランたちを同時に相手にして互角に戦えるほどではない。


 どんどんと被弾が増えて行く。


 俺は他の邪人やデュラハンにも注意を払っていた。だが、デュラハンはクイナが押さえているし、リンドは上手く周辺の邪人を払ってくれている。


 リンドの姿は俺たちからもよく見えるが、敵じゃなくて本当に良かった。まず、異常に速い。翼ではなく魔力やスキルで飛行しているんだろうが、加減速が物理法則を無視しているのだ。


 トップスピードから突如急停止したかと思えば、予備動作なしで再び急加速する。どうやら火炎魔術のバーニアに似た能力を使える様だが、それだけじゃないだろう。翼からも魔力を放出することで、あの動きを実現しているようだった。


 しかも知能が高いおかげで、その動きは非常に戦術的である。邪人たちのパイクの範囲には絶対に入らず、ギリギリの場所を掠めながら弱い火炎を挑発する様に吐く。さらに、矢の標的にならないように一ヶ所に留まらず、動きをあえて不規則にすることで的を絞らせないのだ。邪人や魔獣たちが立ち直りかけたところで、咆哮を放って混乱を誘発するような真似もしている。


 攻撃の頻度は低いが、非常に堅実な立ち回りと言えた。殲滅ではなく、メアやクイナを援護するための足止めを主眼に置いているが故にできる戦法だろう。


 だが、そのおかげでフランとメアは邪人に邪魔されず、心置きなくワルキューレとの戦いに専念できた。


「火炎剣!」

「カルテット・スラッシュ!」

「くおおお! 小娘共がぁ!」

「くく、下がお留守だぞ?」

「がぁ!」

「ん、遅い」

「ぐがっ……!」


 2人の攻撃がどんどんワルキューレを追い込んでいく。ダメージがやはり邪人たちに移ってしまうのだが、その頻度がどんどんと下がっていた。ずっと残る傷や、移し替えにラグが生じる傷が目立ってきたのだ。


「ほほう。先程は面食らったが、やはり盾技を応用した戦法だったな」

「どういうこと?」

「盾技には仲間のダメージを肩代わりする技がある。盾聖技には仲間にダメージを移し替える技もある」

「なるほど」


 やはり盾技を使っていたか。だが、デュラハンや邪人たちが激しい戦闘中であるため、完璧には技を使えなくなってきたのだ。


 一旦スキルテイカーの使用を見合わせておくことにした。この後、ワルキューレたちの黒幕であるミューレリアという謎の人物も残っているし、温存できるのであれば温存したい。


 そもそも、ワルキューレの弓はフランとメアが張り付くことで使うことができないし、デュラハンの盾聖術もクイナが上手く封じてくれている。このままならスキルテイカーを使うまでもなかった。


 攻撃を続けるうちに分かってきたが、ワルキューレは明らかにフランの雷よりも、メアの炎を嫌がっている。


「どうやら威力が高いかわりに一瞬で終わる雷よりも、体に纏わりつき続ける我の魔力炎の方が嫌なようだな?」

「なるほど」

「戦闘中に余裕だな!」

「それ程でもあるな!」

「ん、よゆう」

「くっ!」


 自分の攻撃を躱しながら会話をするフランたちを見て、ワルキューレが怒りの表情を浮かべる。だが、それさえもがフランとメアの作戦の内であった。


 先程フランがやられたことをやり返そうというのだ。フランたちに挑発されたワルキューレの攻撃は、怒りのあまり雑になり、2人にとってはより避けやすくなる。フランたちの挑発はさらに続いた。


「ほらほら! さっきまでは随分と多弁だったのに、口数が減って来たじゃないか!」

「ピンチになったら、だんまり?」

「う、うるさい!」


 まあ、こっちだって有利になったら急に多弁になってるんだけどね。ワルキューレはそのことに言及できない程に追い詰められている。


「すきあり」

「がぁぁぁぁぁ!」


 そして、遂にフランの斬撃がワルキューレの左腕を断ち切っていた。その傷が消えることもなく、左腕が宙に舞う。


「もらったぁぁ!」

「くあ――がっ!」


 その直後、メアの剣がワルキューレの胴を薙ぐ。剣に纏った火炎が傷口を炭化させ、周辺をどす黒く変色させた。だが、それでもワルキューレは死んでいない。憎悪の籠った瞳でフランたちを睨みつけていた。


「さて、気は変わったか? 大人しく情報を渡せば、楽に死なせてやるが?」

「……」


 だが、勝てないと悟ったのだろうか。身に着けていた武装をすべて解除して、ゆっくりと立ち上がった。次元収納などのスキルはないが、装備を自分の意思で出し入れ可能らしい。


「話す気になったのか?」

「ああ、降伏――」


 そう呟きつつ、ワルキューレが何かを取り出して構えた。それは漆黒の槍だ。槍の全体から立ち上る漆黒の魔力。以前にも似た波長の魔力を感じたことがある。邪術師リンフォードや、半邪人となったゼロスリードと同じ波長である。ワルキューレが構えた槍は、邪神石の槍と表示されていた。


「――するわけがねーだろうがぁぁ!」

 

 フランたちに追い詰められたワルキューレがついにブチギレた。挑発の効果もあるだろう。額に青筋を立てて、怒鳴っている。


「うがああああぁぁ! 許さん! 貴様らはこの場で殺す! 鏖殺してくれるわ!」


 そして、その手に持った槍からは凄まじい邪気が迸った。


「こいつは我でも制御できんぞ! 一度手にしたが最後、我が魂が食らいつくされるまで、破壊の限りを尽くすのだ!」


 叫ぶワルキューレの顔は、先程までの美しい女性の顔が嘘だったかのように、悪鬼の如く歪んでいた。


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