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311 ネメア・ナラシンハ


「行くぞ!」


 メアがリンドの上から飛び降りた。かなり高いが、華麗に着地する。正直、結構隙だらけなのだが、フランがいつでも襲い掛かれる様に身構えているためワルキューレたちは動けなかった。


 いつの間にか、幻像ではなく本体にすり替わっている。本当に気づけないな。地に降り立ったメアが、赤い瞳を細めてワルキューレを睨んでいる。


「もっとも、貴様らの目的を大人しく全て話すのであれば、許してやらんでもないが?」

「言う訳がないだろう」

「そうか、では本気で潰してやる。フランと共にな! 準備は良いかフラン?」

「ん!」


 フランもこの場で1対1にこだわる程愚かではない。それに、メアとのタッグと言うものに心惹かれるものがあるようだった。やる気に満ちた顔で頷く。


「クイナ、貴様はデュラハンを押さえろ」

「正直、あの様な重装タイプは得意ではないのですが」

「良いから行け!」

「仕方ありませんね。良いですか? フランさんに迷惑をかけないように」

「分かっておるわ! さっさと行け!」


 メアが叫ぶとクイナは優雅に一礼してデュラハンに向かって行った。一見普通に歩いているみたいなんだが、めっちゃ速い。特別な歩法の様な物を使っているみたいだな。


「リンドは邪人たちを適当に殲滅しておれ。無茶はしなくてよいぞ」

「クオオオオオ!」


 空中のリンドが一咆えすると、そのまま邪人たちに突っ込んでいった。邪人たちが一斉に放った矢を器用にかわしながら、炎を吐き出す。魔獣たちはリンドが向かって来るだけで逃げ散る始末だ。


「さて、では我らもやり合おうか? 我が国の領民たちを危機に陥れようというのだ。ただで済むとは思っておるまいな?」

「ほう? まるで貴族であるかのような言い草だな?」

「ふふん。どうせ全力を出せば正体も知れよう。ならば、先に教えてやる!」


 そう言って、メアが自ら外套をバッと跳ね上げながら、右手を天にかざす。


「ある時は旅の美少女剣士!」


 何をするのかと思ったが、単なる格好いいポーズだったらしい。今度は左手を横に振って、違うポーズを取る。


「ある時は竜を操る謎の女!」


 お次は2号ライダー変身のポーズだ。段々動きが激しくなるな。それにしても、いちいちポーズを取らなきゃ喋れんのか。


「しかしてその実態は……!」


 最後は両手を腰に当てて、胸を張る。そして、そう宣言した瞬間、ドーンと爆炎があがった。火炎魔術で演出したらしい。


「獣王リグディス・ナラシンハが長女、ネメア・ナラシンハである!」


 いや、まて。色々と突っ込みどころが多いが、王の娘? ネメア・ナラシンハとか言ったな? 鑑定が遮断されたままなのだが、俺はその言葉が真実であると確信していた。虚言の理を使った訳じゃない。間に合わなかったし。


 だが、彼女の立ち居振る舞いを見ていると、どこか獣王を思わせた。顔立ちなどではなく、全体の雰囲気とでも言おうか。獣王の娘だと言われても、全く疑問には思わないのだ。


「我の力の一端を見せてやろう。覚醒――」


 不敵な笑みを浮かべるメアは、そのまま自らの力を解放した。


 フランが覚醒した時と同じで、外見に大きな変化はない。だが、全身から勢いよく炎が吹き上がっていた。いや、髪の毛が少しボリュームアップしたかな? ライオンの鬣の様なイメージだ。まあ、メアは女性だけどね。さらに、牙と爪が少し伸びたかもしれない。


「メア、かっこいい」

「はっはっは! そうだろう!」

「そうか……。獣王の娘に、生まれつき白い髪の娘がいるという噂があったが、あれは本当だったか」

「うむ。我の事だな。色々と目立つ故、情報を秘しておるのだ。まあ、人の口に戸は立てられぬ故、様々な噂が生まれてしまったようだが」

「なるほど、中々の魔力だ」


 ワルキューレが言う通り、今のメアからはかなりの魔力が感じられた。閃華迅雷を使う前のフランとためを張るかもしれない。


「……っ!」


 フランが妙に驚いているな。目を見開いて、メアを見つめている。


 ワルキューレの呟きを聞いたメアは、不敵な笑みを浮かべた。そして、喉を鳴らして楽しげに笑う。


「くっくっく」

「……何がおかしい」

「これが我の本気だと思っておるのか?」

「なに?」

「言ったであろう? 我が本気を見せてやると!」


 メアはそう叫んで、再びビシィッとポーズを取った。今度はV3の変身ポーズにそっくりだな。


「金炎絶火!」


 次の瞬間、メアの体から金色の炎が嵐の様に噴き上げた。赤猫族の上位種族である金火獅の固有スキル、金炎絶火。金炎に包まれたその姿は、以前見た獣王リグディスにそっくりだ。


 そう。なんとメアもフランや獣王と同じ、十始族へと達していたのである。フランが驚いていた理由はこれだろう。獣人同士であれば、進化しているかどうか分かるらしいし、進化した姿を目の当たりにすればそれがどんな種族なのかも分かるらしい。そして、メアが金火獅だと理解したんだろう。


 金炎絶火を使用したメアは、魔力も迫力も圧倒的だった。一般人であれば、今のメアを前にして立っていることさえできないだろう。その魔神を思わせる程の存在感の前に、平伏するか、腰を抜かすか、意識を失うか、まともな状態ではいられないはずだ。


「こうなってしまったからには、手加減も出来んぞ? 死ぬ覚悟はできているかぁ!」


 メアが咆哮を発した瞬間、ゴウと音を立てて圧力がワルキューレに襲い掛かった。殺気と威圧感と魔力が一体となった、不可視のプレッシャーだ。


「くっ……!」


 その圧力を真正面から浴びせられたワルキューレは、思わずと言った様子で矢を番えると、そのままメアに向かって放った。


「甘いわ!」


 ワルキューレが咄嗟に放った神速の矢だったが、あっさりとメアの炎に防がれてしまう。金炎絶火のオート防御機能だ。


 俺たちを散々苦しめてくれた、魔獣十数匹を貫き通す威力を秘めた矢が、金色の炎の壁を突破できずに一瞬で燃え尽きるのが見えた。相変わらずえげつない能力だ。


 ただ、衝撃が少し抜けたようだ。頬が浅く裂けている。やはり、獣王程圧倒的ではないようだな。それでも、メアがフラン並に強いことは確かだろう。心強すぎる援軍だ。


「さて、覚悟は良いか? 戦乙女よ?」

「ん!」

「フラン、お主は我のサポートだ」

「……わかった」


 メアの気遣いが分かったのだろう。フランがふっと息を吐いて、閃華迅雷を解除した。同じ系統のスキルを使うメアには、フランがすでに限界を超えていると理解していたようだ。


 助かったぜ。さすがにこれ以上フランが無理するようなら、俺から解除させるつもりだったからな。


 そして、2人の少女と戦乙女の激戦が始まった。


コミックスの重版が決定しました。

皆様の応援のおかげです。ありがとうございます!

いやー、最初はそんなに刷って平気なの? 売れ残ったらどうしよう? なんて思ってたんですけどね。

本当に嬉しいです。

ありがとうございます丸山先生!

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[一言] あら 多羅尾伴内かな?
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