308 立場逆転
フランが自分を囲むホブゴブリンを斬り捨てた。幾ら強くとも、さすがにホブゴブリンではフランの相手にならない。
相手にならないんだが――。
「ちっ」
『こいつら、うぜー!』
「ギャギョオ!」
「ゲギャギャ!」
邪人たちが、フランを囲み、雄叫びを上げる。だが、それは普通のゴブリンやオークが発しているような、いわゆる意味のない叫びではないことは一目瞭然だ。
俺には理解できないが、どう考えても邪人同士で意思疎通を図り、連携をとっている。個々の強さは大したことがなくても、その練度の高さは凄まじかった。
圧倒的強者のフランを前にしても、怯えた様子が無く、周囲の邪人と連携をとって攻撃をしてくる。フランが追えば下がり、背後に気を取られた瞬間には、正面から槍が伸びてくる。決して個々で戦おうとはしない。
しかも、自分が斬られて助からないと判断した瞬間、命を捨ててフランに抱き付こうと飛びかかって来る。ダンジョンの魔獣であるからなのか、練度の高さ故か、それともワルキューレの士気熱狂スキルの効果なのか。フランを殺すためには自らの命などいらないとでも思っているかのようであった。
しかも、槍技や弓技を使う邪人どもの攻撃は熾烈を極め、魔力強奪と生命強奪で奪う以上に、俺たちの消耗は激しかった。フランなど細かい傷が全身に穿たれ続け、その端から生命強奪とヒールによって治癒されるのを繰り返しているような状態だ。
「っ!」
「良く避けたな! やはり反応速度が上がっているようだ!」
さらに、僅かでも隙を見せればワルキューレの矢が襲って来る。土魔術で作った台の上から、こちらを狙っているのだ。反撃してやりたいが、その隣にはデュラハンがいた。
適当な攻撃は全て防がれるだろう。こちらが無駄に消耗するだけだった。
「ふむ。そろそろこちらの損害も馬鹿にならん。少々本気を出すぞ?」
今まで遊んでいたのは分かっているが、いよいよ来るか? だが、ワルキューレは矢を放つことはせず、おもむろに口を開いた。
「それにしても、お主はなぜここまで戦う?」
「?」
「ある程度魔獣の数も減らしただろうに、わざわざ命を懸けて戦う理由は何だ? 誰かに雇われているのか? それにしても、正面からいちいち戦う理由が分からん。しかも、こちらを本気で殲滅しようとしている様にも思えん」
「ここは通さない」
「ふむ?」
「皆は、私が守る」
フランの短い言葉でも、ワルキューレはピンときたらしい。大きく頷いている。
「そうか黒猫族か」
「……ん!」
「村落の同族を逃がすために命がけで足止めをしようとは、泣けるではないか! くはははは」
その言葉とは裏腹に、ワルキューレの顔には嘲る様な色があった。そして、衝撃の言葉を口にする。
「なあ、ミューレリア様の配下が、ここにいる者たちだけだと思っているのか?」
「!」
「くくく、私の率いるこの隊とは別に、さらに2隊が東西から南下中だ。目標はグリンゴート。私たち程ではないが、それなりの指揮官が率いている。お仲間が追い付かれてなければ良いがな~」
「っ!」
「なにせ向こうは強襲部隊。数は少ないが、騎獣兵を中心にした高速移動部隊だ」
フランの焦りが手に取る様に伝わってくる。やばい、奴は確実にフランの動揺を誘いに来ている。これで焦ったら、ワルキューレの思う壺だ!
(師匠、あいつの言葉は……)
『本当だ。嘘はない。だが、焦るな! どちらにせよ、俺たちは助けに行けない! それよりも、国の軍隊や冒険者が助けに行ってくれることを祈ろう! だいたい、いくら速くてもまだ追いつけている訳がないんだ!』
さすがにまだ距離があるだろう。というか、フランを落ち着かせるためにはそう言うしかない。
「分かった。お前を速攻で倒して、助けに行けばいい」
『フラン! それが向こうの狙いだ! こっちの攻撃を雑にさせるためにあえて教えたんだ!』
「さて、それでもまだ時間稼ぎをするかな? ああ、そうそう。国の軍隊とやらを当てにしているのであれば、期待はせんことだ。魔力を食えば良い我らと違い、人間の軍隊は輜重やら何やらと色々必要だからな。まだ出撃さえしていないだろうよ」
「……お前を殺して、皆を助ける!」
「やってみるがいい!」
くそ、完全にフランのスイッチが入っちまった! こうなったらもう止まらない! 俺がどこまでサポートできるか……!
「閃華迅雷!」
やばい、本気で速攻で片を付けるつもりか! 生命強奪、魔力強奪は常に切らせないぞ。
(師匠! 転移!)
『分かったよ!』
そして、奴らの直上に転移する。だが、その瞬間フランをワルキューレの矢が貫いた。空間の揺らぎみたいなものを感知できるのか、完全に転移する先が読まれている。
しかし、それも織り込み済みだ。ディメンジョン・シフトも同時に発動しているからな。危機察知と警戒、反応を上昇させた恩恵は当然俺にもある。
今までは全く感知できなかった神速の矢に、ディメンジョン・シフトを合わせられるほどに。ただ、この術を使いまくっていたらすぐに魔力が枯渇する。そう頻繁には、少なくとも長期戦を覚悟している場合には多用できないだろう。短期決戦と覚悟を決めたからこそ、出し惜しみせずに使っているだけだ。
「はぁぁぁ!」
「時空魔術を使いこなす相手がこれほど厄介だとはなぁ!」
「剣王技・天断!」
剣王技は、なんとこの技一つしかなかった。だが、逆に言えば一つで十分と言う事なんだろう。
速さ、威力、どちらも空気抜刀術を超えている。さらに、時間の加速までついているらしい。時空魔術ではなく、いわゆる潜在能力が一時的に引き出されて反応速度が異常に上昇したために起こる現象の様だが。
強化やスキルなしでこれだ。単に剣王技をそのまま放っただけで、俺はその鋭さに身震いした。
分かる。この攻撃は必ず決まる。デュラハンの視線だけが動くのが感じられた。腕がピクリと動いている。ワルキューレを庇うために何かしようとしているんだろう。だが、俺たちが速過ぎて、反応が全く追いついていない。
俺はすでにワルキューレの肩口に吸い込まれ、その鎖骨を断ち切り、心臓へと迫るところだった。
「がっ……!」
俺はそのままあっさりと、ワルキューレの心臓を両断した。そして、その勢いのままその体を袈裟斬りにする。魔石を切った感触が確かにある、だが何故か吸収できなかった。どういうことだ?
一瞬疑問に思った直後、俺たちの目の前で信じがたい光景が巻き起こった。なんと、確かに斬り捨てたはずのワルキューレの死体の傷が、一瞬で修復されたのだ。
ワルキューレは瞬間再生を持っていない。幾らなんでも、心臓ごと体を真っ二つにされ、こんな風に再生できるとは思えないが……。
同時に、数メートル離れた場所にいたミノタウロス・ダークパラディン2匹がその体から血を吹き出した。次の瞬間、かなりの量の魔力が俺に流れ込んでくる。ワルキューレの魔石ではなく、ミノタウロスたちの魔石を吸収してしまったようだ。
さっきカンナカムイを防いだ謎のダメージ肩代わりだ! デュラハンだけではなく、ワルキューレも使えたらしい。一体どういう絡繰りなんだ!
「く、くははは。剣王技とは! や、やるな! 肝が冷えたぞ! 本当になぁぁ!」
ワルキューレが俺たちから距離を取りながら笑っている! だが、言葉通り、その顔には確かな恐怖が見て取れた。実際に死にかけたせいなのか、カンナカムイに驚いていた時よりも、確実に恐れを抱いている。
だが、それがなんだ? 千載一遇のチャンスを得て、僅かな恐怖を与えただけ? ちくしょう! ミノタウロス・ダークパラディンを倒したが、全く割に合っていない!
傷を再生させワルキューレを守る様にデュラハンも後退し、邪人たちがフランに一斉に攻撃を仕掛けてくる。
『これで距離を取られたら、また矢でチクチクと攻撃されるぞ!』
「そこを、どけぇぇぇぇ!」
「ゲギャギャ!」
「ギョギョギァ!」
フランの威圧を受けてなお、邪人たちに乱れはなかった。ワルキューレの命を守るため、壁となって立ちふさがっている。
時間は、刻一刻と過ぎようとしていた。
「ああああ!」
次回は5月1日更新予定。
感想欄にてアニメ化という謎の単語が出ていますが、残念ながらそう言ったお話は一切ありません。
多分、コミカライズと勘違いされているのではないでしょうか?
それとも、実は書き込みされた方が業界人で、作者の知らないところで「転生剣、アニメ化行っちゃう?」的な話が出ているとか!? まさかの逆おもらしパターン?
いや、ないな。それはない。
なので、アニメのお話は出ていません。本当に残念ですが。




